予言と知人
「・・・と、言う事なんだが、ちょっと調査隊を組んでみてくれないか?」
あの後マーと別れた俺は、教会の上層部を集めて魔族が解放されたらしいという話をした
本人が自分は神だと言っていたことも付け加えてだ
ただ、説明をする際にそれが予言だと良い含めるのは忘れない
「魔族ですか・・・それは1000年前のですか?」
「いや、古代魔法文明の前の・・・太古の魔族というものだそうだ」
「その少年の言うことに間違いは無いのでしょうか?」
「1000年前に封印されたと言われる魔族を『魔人族』と言って分けていた・・あの歳の子供がそんな大昔の文献を読めるとは思えない」
自分の事は大きく棚に上げる
「大体、現存する資料では魔人族より前の魔族が存在することすら知りえない・・・だからこそ俺たちは魔人族を魔族と呼んでいた訳だからな」
それもそうかと頷く大人たち
この世界に残っている歴史書も、寝台の歴史書ほどで無いにしろかなり古いものがある
「有史」と言う言葉があるが、これを現在の文明の歴史としてみるとすると、その遥か昔、解読できる範囲のみで言えば古代魔法文明中期までは有史以前で認知できる歴史と言うことか
しかしその遥か昔、古代魔法文明ですら認知していたか解らないほど昔のことをその少年は言ったと言うことになる
それがデタラメかどうかまではわからないにしても、少なくとも子供が理解できるような歴史書どころか、一般人が目にすることの出来る資料にすら載って居ない1000年前封印された魔人族の成り立ちを知っている時点で只者ではない
それらを閲覧できる自分たちだからこそ事の重大さが理解できる
一つ、彼が生き神で無い可能性を上げるとすれば、そう言った資料を閲覧できた何者かの入れ知恵と言うことだが・・・言っても6歳の子供がそれを正確に告げられる物だろうか?
そして何よりも、目の前に自分達が奇跡の体現者と認めた、神の使いと思しき少年が認めようとしているのだ
なれば調べるくらいはするべきではないのか?
「わかりました・・・ですが簡単にはいきませんよ?」
「相手が魔族では、仮に見つけられたとき逃げるのも一苦労ですしね」
しかし尻ごみせざるを得ない理由もある
「それなら・・・こう言うものがあるんだが」
そういうと、俺は望遠鏡の設計図を見せた
「これは異邦人の持っていた『望遠鏡』と言う物の設計図だ」
「ああ、あの遠見の筒ですか」
「あれはレンズというこの透明な結晶の大きさを変えることで、非常に遠くまで見ることができる、仕組みさえきちんとしていれば携行できるサイズでも20Km以上先の物を見ることが可能だ」
「なんと!?」
「あの結晶の正体はガラスだと言う話だ、あの透明度のガラスならこの世界でも作れるから、後の問題は大きさだな」
そういって設計図を指さす
「この大きさであればガラス板を作ることは可能だろう?後は傷をつけずに研磨して形を整えるだけだ」
「なるほど・・では早速製作に」
「レンズ製作には異邦人の研磨技師も立ち合わせてくれ」
「解りました」
こういった仕事は水神教の独壇場だ
水神教は商業関係に顔が利く、流通に生産にと水が付き物だからだ
水神教に伝わる治水技術に因って、水運や用水が整えられている為、必然的と言えるだろう
レンズの製作に必要なガラスレンズも水神教に任せれば間違いないはずだ
「では資金はいつも通りうちの役割かね」
天神教は天候を司るとされ、日照りなどでは雨乞いをすることがある
これは天神教の信仰が雷であることが由来とされ、雷を生む雲は雨雲だから、必然的に天神教は雨雲を融通できると思われているのだ
そのための雨乞い術なども当然秘伝として伝わっており、これこそが天神教の魔術である
こう言った事から、農家などは日照りの度に寄進をして雨乞いを頼み、収穫の一部を天神に捧げる為、比較的金が集まる
ちなみに火神教は軍に信者が多く、戦いの神として信仰されている
その為、国に対しての影響力が大きい
「それでは我々はギルドにそう言った斥候任務に適した掃除屋を集めてもらうように言いましょう」
火神教の代表者、エドガーの言葉をきっかけに、会議はお開きとなった
斥候を出す会議をしてから半月、望遠鏡も数本出来、問題ないことを確認していざ出発と言う段になって、王都を訪ねる者が居た
「こちらで、異世界から来た者を集めていると聞いたのだが」
どこで覚えたのか、こちらの国の言葉を放つそいつは、見た目は少々変わった人間のようだった
「我は異世界より飛ばされてきた、魔族でも問題は無いか?」
驚いたことに、彼は魔族だというが、その瞳は知性に溢れていた
「あなたが・・・異世界から来た魔族ですか」
「うむ、どういう訳かこちらに飛ばされてな。訳も解らぬうちに触れた遺跡からこの世界の魔族が復活するわ、近くを歩いていたことらの人間に騒がれるわで困ったことになったのだ。そこで、王都まで連絡が来る前に事情を説明しようとここに至ったのだが」
うーむ・・・どこかで見たことがあるような
「我はフィアリアースという世界より来たのだが、こちらに来れば同じ世界から来た者とも会うことができると聞いて来たのだ」
「あ、そうか。どこかで見たことがあると思ったらフィアリアースの高位魔族の特徴か」
「なんと!アウル殿はフィアリアースの高位魔族をご存知であったか」
あ、うっかり口を・・・まあ良いか
「見た事はありますよ。あなたと同じ様に金色の瞳と薄青色の白目、角の様に見える硬質の髪に尖って横に長い耳の高位魔族を」
「な・・・」
ん?何かおかしな事を言ったか?
「その様な組み合わせの特徴を持つ者は我の他数名しかおらぬ筈なのだが・・・」
おや?
「ちょっと待ってください?わたしが会った高位魔族と同じ時間軸の存在か解らないので情報を出し合いましょう・・・」
「うむ、わかった」
「まずわたしが共通の知人の名前を出しますので、貴方は向こうで名乗った覚えのある名前を言ってもらえますか?」
「ふむ、それならば一致した場合同一存在である可能性は高くなるな」
少なくとも同じベースの世界線の存在だと言うことになる
「では言いますね・・・ユウリという人物に聞き覚えは?」
「む・・・それは選ばれし者の名であるか」
まさか・・・
「我はイグル・トロン・ヴァーン、ユウリとは我が弟アルバ・トロン・ヴァーンの知人の名だ」
ガクッ
「そうですか・・・ではアルバ殿が我らの共通の知人と言うことになりますね」
「なるほど、見覚えがあったというのは我が弟のことであったか」
もしかするとアルバとユウリは元々出会う運命だったのかもしれない
そうだとすれば、必ずしも俺と同じ存在のあったアルバと同一存在とは言いがたいが、そこまではいいだろう
「なるほど、では少なくとも王国の人間は、現時点で南の魔族と敵対する意思は無いということだな?」
「ええ、現時点で敵対するメリットは皆無ですからね。むしろ古代魔法文明が基にしたと言う太古の魔族の文明を参考にしたいので、文化交流が出来ればと思っています」
俺はイグルに敵対の意思が無いということを告げ、当面の脅威であった南の魔族の襲来の可能性を抑えることに成功した
・・・多分
知人が来たのかと思ったら知人の兄でした




