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嘘告白されてみんなの前でバラされたので、僕は屋上から飛びたった  作者: 万和彁了


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第27話 永遠の乙女になる前に……

 あたしは家を出た。写真集が売れ過ぎた。家族に迷惑がかかるし、同時に家族が迷惑をかけてきた。妹なんかは友達を連れてきて、鬱陶しいことこの上なかった。今は万和さんの家にお世話になっている。万和さんの子供たちはもう自立しているし、旦那さんとは離婚しているそうなので、迷惑ではないそうだ。


「あなたはもうただのタレントじゃない。社会現象そのものになった」


 最近道を行く女の子たちはあたしと同じ髪型が増えたし、あたしが着た服は次の日には街でいっぱい見かける。CMが業界を問わずあちらこちらから来た。あたしが関わった商品は瞬く間に売れていき店には残らない。


「あなたの存在が社会をハックするようになった。あなたは文化人ではなく文化そのものになり果てた。消費という現代の祭祀を司る巫女の王」


「生産エネルギーの散逸的過程。交換価値の幻想儀式。差延化した欲望の交差点。匿名的承認欲求の水平線。人と人の際」


「どんな言葉で飾ってもあなたは禁じられた偶像になった。おめでとうるいか。はっぴーばーすでーあいどる」


 あたしは何者でもなく何かでもない記号になり果てた。やっと辿り着いた。誰もがあたしを見ている。そしてあたしを記録し記憶する。やっとだ。やっとあたしは。


「ドーム」


「ええ。大丈夫。最高のタイミングで用意するわ。神話を失った現代の祭祀と供犠よ。祭祀なのよ。ああ。やっと偶像が神に繋がる世界が生まれるのね」


 すべての準備は整った。あとはただただ待つだけ。あたしは神話になる。神なきこの世で永遠になるんだ。














 わたしはファイルを読んですべてを知った。そして直感した。


「ああ。るいかちゃん……」


 その企みを止めなきゃいけない。わたしはだから。本当は絶対にやってはいけないとわかっていても縋るしかなかった。渋谷のオフィスビルの前のカフェで人の出入りを睨んでいた。そしてスーツ姿のあの頭のおかしい女が大人の男女を引き連れて出た行った隙にビルの中に入った。


「うそ!やっぱり!」


 警備のゲートがあった。あたしは近くのサラリーマンにわざとぶつかった。


「ごめんなさい!」


「いや別に構わないけど。あれ?もしかしてアイドルのすみれちゃん?」


「あ、はいそうです」


「うそまじで?!あのサインとかイイですか?」


 チャンスだった。


「いいですよ!」


 サラリーマンさんは懐からメモ帳を出した。それをペンと共に差し出してくる。わたしはサインをして、ちょっと品を作ってそれをサラリーマンさんの胸もとのポケットに放り込んだ。


「ふふ。これからも応援よろしくお願いします」


「ありがとう。わぁ。本物はやっぱりいいなぁ」


 サラリーマンさんはそのままビルから出ていった。そして私の手にはIDカードが握られている。それをゲートに翳して、エレベーターホールに出る。そして事前に調べてあった会社のオフィスの階まで行く。そしてオフィスの前に辿り着き、インターホンを取る。


『はい。こちら受付です。アポイントメントはおありでしょうか?』


「社長さんにこう言ってください。紫吹が来たと」


『はい?まあ。はい。お伝えします』


 そしてしばらく待った。オフィスのドアが開いて社員さんらしき人がわたしをじーっと見た。そしてすぐに杖を突いた人が出てきた。


「あなたは誰ですか?紫吹さんじゃないのはわかるんですけど。昔のことなら誰にも言わないから放っておいてくれませんか?」


「放っておかないでください。るいかちゃんを」


「何を言ってるの?」


「あなたの過去は知りました。るいかちゃんははっきり言ってゴミだし、見捨てられても仕方ないと思います。むしろ痛めつけて踏みにじったってそれはきっとあなたの権利です」


 杖の男の子は黙って私の話を聞いていた。緑色の瞳が綺麗だった。ああ、そうか。この色に魅せられたんだ。そう納得できたんだ。


「それでもお願いします。わたしができることなら何でもします。るいかちゃんを。るいかちゃんを!!」


 わたしはいっぱい頭を下げる。最後には土下座までした。


「顔を上げて。駄目だよ。そんなことをしてはいけない」


「それでも必要なのはあなたなんです!!ジョゼさん!これを!!」


 わたしは一枚のチケットを差し出す。


「るいかちゃんのドームライブのチケットです。お願いします!お願いします!」


「僕に何ができるって言うんだよ」


「何かが出来ます!わたしにもわからないけど!何かが!お願いします。何かわからないけど何かしてください!」


 男の子はただただ戸惑っているようだった。だけど一言口を開いた。


「彼女のことが好きなの?」


「はい!大好きです!!」


「そう。……予定があるからここまでね」


 男の子はチケットを持って会社に戻っていた。わたしはIDをその場に捨ててビルを去った。




















 僕にウソコクしたクソ女がステージの中心で踊り歌っている。彼女は今や日本一のアイドルでこのドームで単独ライブをやるに至った。




『『『『る・い・か!る・い・か!る・い・か!』』』』




 彼女の芸名は本名の下の名前をそのまま使っている。ひらがなで可愛くしたつもり。だけど僕は知っている。黒髪ロングで清楚気取ってるけど。彼女が笑顔を振りまくような天使じゃないんだって。




「みんなー!ありがとー!あたしがここまでこれたのはみんなのおかげだよ!」




 手でハートマークを作り可愛いアピール。だけどこのドームの誰もが彼女に夢中。いや心酔していた。圧倒的カリスマ。もともとは大手のアイドルグループにいたけど、その中でさえ際立つ美貌と歌唱力と表現力で芸能界のトップまで走り抜けた。かつては一時だけど隣にいた女の子。今や手を伸ばしても届かない。




「だけどね。みんなにごめんなさいしなきゃいけないの」




 突然るいかは悲し気な笑みを浮かべる。会場がその様子に動揺する。




「最後のこの曲は今まで未発表だったの。それはね。今日この日のために。あなたたちのためじゃない。あなた・・・のために歌うね」




 誰のことだろう。そして静謐なイントロが流れる。アイドル曲とは思えない重たさと冷たさ。だけどそれでも会場の空気が変わった。いや彼女が変えた。その表情は悲し気なのに儚く可憐。幽玄でありながら甘い声で力強く歌う。





さようなら、わたし




見栄ばかりで、顧みることなかったわたし




映えだらけで、光鎖し遮るばかりわたし




さようなら、わたし




錯誤ばかりの 外連味ばかりわたし




過去だらけの 化粧だらけわたし




ごめんね。君泣かせて。傍に居られないわたし




傍。痛くて。形見抱くだけのわたし






 会場の皆はうっとりと聞き惚れていた。だけど僕はその歌声に過去を思い出してならない。彼女の乗るステージがだんだんと宙へと昇っていく。見上げる僕は彼女と目が合った。あの日。僕が屋上から飛んだ瞬間のように。


「見ちゃダメ」


 その声に振り向く。そこには火光さんがいた。


「見なくていい。あんな人のことをあなたは見なくてもいい。幸せは私がいくらでもあげる」


 僕はただただ茫然と立ち尽くす。僕の後ろには火光さんが。僕の前には紫吹さんがいる。ここはきっと過去と未来の交差点。きっと最後の分岐点。


「あの子はソドムとゴモラと同じよ。ただただ神を気取って地獄を作り出してしまった。それを振り向けば塩の柱になる。ロトの妻のように」


「罪は永遠に背負わなきゃダメなのかな?」


「だから見ては駄目なの。あなたはもう十分に苦しんだ。ロトのように逃げればいい。あの子を見る人の中に義人は一人もいない」


 そうだろうか。少なくとも一人。一人は……。僕に助けを求めてきたじゃないか。


「火光さん。ごめん。ごめんねぇ」


「いいのよ。あなたが何を選んでもわたしは受け止めるから」


「僕はもう目を背けないよ。だから彼女を。……見るんだ」


 僕は振り返る。紫吹さんを見上げる。ここはきっと地獄の底で。これから彼女は。あそこから神の罰を下すんだ。だから僕は杖を突いて、ただただ先に進む。


「だめだよ!近づいちゃダメ!!」


「どいてくれ!紫吹さんが僕を待ってるんだ!!」


 僕は杖を振り回して警備員さんをどかそうとする。そこへ火光さんが飛び込んできた。警備員さんを押しのけて道を作ってくれた。


「ありがとう!」


「ちゃんと帰ってきてね。地獄の底でも待ってるから」


 僕はステージの上に上がる。紫吹さんは歌うことに夢中で僕がもう近づいていることにきづいていないようだった。そして歌いきり、彼女は背を向ける。そして。空中に身を投げた。


「うあああああ!!」


 僕は杖を投げ捨てる。走る。ただただ走る。間に合え間に合えと。そして。落ちてくる彼女を僕は受け止める。


「え?ジョゼ?」


「……会いに来たよ」


 そして僕たちはそのまま床に叩きつけられた。と思ったのだが、床が抜けた。そしてそのまま下にはクッションがあってその上に着地する。


「え?なになに?!え?え?どうして?どうしてあたしなんで死んでないの?なんでジョゼが!なんでジョゼが!こんなに近くにいてくれるのぉ!」


「……僕は。僕は……それでも会いたかったんだ……君の顔を見て思ったよ。やっぱり会いたかったんだよぉ」


 僕は彼女を抱きしめる。


「どうして。だってあたしは絶対に許されないから!だから!だから!償おうと思った!たくさんの皆が見てる前で死ねば!きっと!きっと神様だって許してくれるってきっと」


「そんなのいいんだ!もういいよ!いいんだ。君は。君を僕は許す。だから。いなくならなくていい!!」


 紫吹さんは何かを堪えているような顔をしていた。それがだんだんと崩れていく。そして。


「ううぅわーあぁー!!」


 大声を出して泣いた。泣いて泣いて泣き続けた。僕たちの罪と罰はもう涙と共にどこかへと消えていった。















 わたしは万和さんと一部始終をステージの横で見ていた。


「よかった……」


「ふぅ。三門芝居ね。でも悪くはないかな」


 この人が一番怖かった。るいかちゃんはこのライブで死ぬつもりだと思ったときに、この人がそれに気づいてないはずがないと思った。問い詰めてみてらすぐに笑いながらそうだと肯定してきた。


「るいかがここで死ねば、彼女は永遠の乙女になれた。ここにいた人たちの記憶にそれは鮮明に残り、永遠に語り継がれる偶像になれた。誰もの傷跡になって」


 わたしは掛け合った。もしもジョゼさんがるいかちゃんを助けに来たならば、死なずに済むようにしてほしいと。賭けだった。万和さんはジョゼさんが来なかったら床の仕掛けを開けなかっただろう。


「あなたはいかれてます」


「じゃなきゃアイドルなんてプロデュースできないわ。だって理想を売る仕事よ。夢を見ないとやってられないもの」


「それをやるのはるいかちゃん以外の人にしてください。るいかちゃんはもうアイドルじゃない」


「そうね。彼女は地に墜ちて男の手を取った。もうただの女よ。楽園から追放されないといけないわ」


 そう言って万和さんは去っていった。わたしはほっと息をつく。そして言った。


「はっぴーばーすでいるいかちゃん。さようなら。今度は友達として会おうね」


 わたしもすぐに退きあげた。ここから先の物語にわたしはあんまり関係ないのだから。





















 あたしはまだぼーっとしがちだった。ドームコンサートの騒ぎは事故として処理された。その後、万和さんに首を言い渡された。


「砕けた偶像なんてもういらないわ」


「万和さん。お世話になりました」


「ええ。楽しかったわ。さようならるいか」


 そして無職ニートが爆誕した。金なら腐るほどあるけど。


「働かざる者食うべからず」


「わん!わん!ペットでもいいから養ってくださいワン!」


「いいこでちゅねぇ!はぁドックフードくらいは出してあげましょう」


 結局なし崩し的にジョゼの家にあたしは居ついてしまった。二人のエッチを覗かせてもらえるので、もしかしたらワンチャンはあるかもしれない……。


「どうしようかなこれから」


 あたしはジョゼに訴えられて和解金をしこたま払った。他の連中も刑務所に行くのは免れたけど、家計に大ダメージを喰らった。ジョゼはそれ以上はしなかった。もういいと彼は言った。弁護士の先生もほっとしていた。


「会社は売り払ってアメリカに行きましょう!大学生になりましょうよ!」


「悪くないね」


「あたし英語ならできる!!」


「いっそニューヨークに行かない?そこのわんちゃんはブロードウェイで稼ぎなできなさい。わたしたちはそのあいだコロンビアに行ってるから」


 あたしはただ運が良かっただけだ。再起する権利をたまたま恵んでもらえただけ。ジョゼは辛かったと思う。だけど彼は強かった。人を赦せる彼は強い人なんだ。自分さえも赦せずにぼうそうしつづけたあたしは幼稚なお馬鹿さんだった。偶像に縋り偶像になることで偽物の神様になって自分を自分勝手に許そうとした。ジョゼはその誤った道からあたしを引きづりだしてくれた。だからあたしはこの人が、大好き。大好きなんだ。






完 そして彼と彼女の許しの旅は続く。




githubにbokutobi-remixというリポジトリを置きました。

この結末に納得いかない人たちはこのリポをもとに改変してしまえばいいと思うよ

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