第12話 夢中
手を洗っていた。小指についた感触がとれない気がして。ずっとずっと洗っていた。
「もうやめたほうがいいわ」
「でも気になるんだ」
「十分洗えてる。だからやめて」
火光さんは僕の手を掴んで水道の水から離した。僕はそれに嫌悪感を抱いて、振り放した。そしてまた手を洗う。今つけられた汚れが気になって仕方がない。きっと雑菌がついた。それで僕は死ぬんだ。死ぬ?あんなことをしたくせにそんなのを気にするのか?
「私も汚いって思う?」
僕はその質問に答えられない。火光さんに嫌われたくないから。
「なら私も」
火光さんも石鹸を手に取って手を洗う。丁寧に丁寧に洗って、僕の手に触れた。
「これならいい?」
その手は暖かった。柔らかな温もりが心地よい。でもやっぱりだめだ。小指についた感触だけが消えてくれない。洗い流したいのに、いやな記憶と共に僕の手にいまだに何かが張り付いている。それを取るのに必死だった。
あのステージ以来メンバーたちのあたしを見る目がきつい。腫物を見る目ならいいけど、敵意を明確に感じるのは鬱陶しい。
「ルイカちゃんこの間のあれってどうやったらできるの?」
すみれは最近子犬のように懐いている。慕われるのは悪くないけど、あまり迷惑もかけたくない。
「あたしとつるんでるとにらまれるよ」
「でもわたしも先輩からいじめられてるしいいんじゃないかな。あはは」
なるほど。それならかまわないか。それに今後のことを考えるとサポートメンバーは必要だ。だけどこの子だけだとまだ足りない。
「とりあえずレッスン後の写真アップする?」
「いいの?やったー!」
あたしとすみれで肩を組んでSNS用の写真を取る。それを万和さんに転送する。あたしたちアイドルのSNSは万和さんが管理してる。誰かと付き合ってます見たいな変な匂わせとかする子が多いかららしい。辟辟する。女は自分で自分をコントロールできない子ばかりだ。あたしみたいに。
「るいかちゃんはどうしてアイドルになったの?」
「……みんなにあたしを知ってほしいから」
それは嘘じゃない。でもそれは罪を雪ぐ手段を獲得するための目的でしかない。
「わたしと似てるかも。わたしいじめられっ子で。友達とか彼氏とか一度も出来たことないくらい人見知りで。でも一人じゃ寂しくて。だから見て貰えたらなって」
「そう。なら。叶えなくちゃね」
「うん!頑張るよ!」
この子は他の子よりも綺麗だし歌やダンスも美味い。まだ羽化していないだけで才能はある。この子は利用できる。だから願いは叶えてあげよう。
「ねぇ。他の子には内緒だけど」
「え?なに?」
「グラビアの仕事取ってるの。あたし一人の予定だけど、どう?いっしょに出ない?」
万和さんがあたしに言った。人を支配したければ仕事を与えろと。昔のあたしもそうだった。罰ゲームという仕事。その枠に嵌ったからコントロールされてあんな結末になった。
「いいの?」
「いいよ」
「ありがとるいかちゃん!」
すみれは大喜びであたしに抱き着いてくる。だけどあたしの心は冷めたままだ。だけどここでのし上がるには誰かを踏んでいかないといけない。天に届く偶像は誰かの屍の山の上にある。それでも行こう。罰を受けるために。
グラビアの撮影現場は緊張した。わたしはいつも味噌っかすで端っこで踊ってるだけだったから、みんながわたしのために準備している風景を見てすごくあがってしまった。同時にとても楽しかった。気持ちよかった。
「はーい★皆さん今日はよろしくお願いいたします♡」
「よろしくお願いします!」
るいかちゃんと一緒に現場のみなさんに感謝をささげる。みんなルイカちゃんを見てぽーっとしてた。わたしもそうだ。この子に夢中になってるのを感じる。やさしくて、そして先輩さえも手玉に取るワイルドさ。王子様みたい。そう思っちゃった。水着に着替えてわたしたちはハウススタジオのあちらこちらでいろいろなポーズをとる。
「うん!るいかちゃんいいね!とってもいいよぉ!だけどすみれちゃんなんか硬いねぇ」
「す、すみません」
「グラビアって撮られるだけの楽な仕事じゃないんだよ。ちゃんと演技できなきゃダメ!」
「ごめんなさい」
叱られてしゅんとしてします。わたしはやっぱり輝けない側なんだ。
「ちょっといいですか?にこ♡」
「なにかなるいかちゃん?」
るいかちゃんが監督さんに話しかけた。
「あたしがすみれちゃんの緊張抜いちゃうんで♥ちょっと待ってて★」
「うん?わかった。るいかちゃんが言うなら」
「おまかせー★」
そしてるいかちゃんに手を引っ張られた。誰にも見られない場所まで引っ張っていかれる。そして壁に寄せられて、るいかちゃんに睨まれる。
「緊張なんて無駄なことやめてくれる?」
「ご、ごめん。でもはじめてで」
「あたしだってはじめて。だけどそんなの気にならない。緊張するのはあなたがあなたを一番気にしてるから」
「そんなこと言われても……」
無茶なことを言われている。いきなり緊張を抜けなんて無理だよ。るいかちゃんが意地悪な人たちと同じに見えてくる。
「そう?じゃああなたがあなたに注意を向け無くしてあげる」
「それってどうやってんむぅ?!」
るいかちゃんは突然私の唇を奪ってきた。それだけじゃない。わたしの口の中に舌まで入れてくる。さらに体をあちこちまさぐられる。突然のことに理解が追いつかない。だけどとても気持ちが良かった。るいかちゃんが唇を放した時にまだ続けて欲しいと思ってしまった。キスしたのは初めて。みんながしたがるのがわかった。よだれの橋がわたしたちの間にできた。それをるいかちゃんは手の甲で拭う。
「どうしてこんなことしたの?こんなの?」
「あたしだけでいっぱいになった?」
「え?うん。るいかちゃんがいっぱい……」
「ならいい。あたしのことだけ考えなさい。いい。戻ったらあたしのことだけ考えなさい」
「……うん。もうるいかちゃんしかがんがえられない」
そしてわたしたちは撮影場所に戻ってグラビアを取ってもらう。るいかちゃんのことだけ考える。ううん。るいかちゃんのことしか考えられない。
「ああやわらかい!いい!すごい魔法だ!こんなのたまらない!」
監督さんが興奮している。わたしはるいかちゃんのことを考えてるだけなのに、体は伸びやかに動いた。二人で抱き合ったり、体を寄せあったりしてポーズを決めていく。全部全部写して欲しい。わたしの中のるいかちゃんまで。
いまどき漫画雑誌なんて買わないですよね。アプリで連載を見る時代だし、アマゾンでダウンロードすればいいんだから。だからたまたまコンビニでその雑誌を見ちゃったのが運のつきでしたよ。るいかちゃんとすみれちゃん。当時は二人のこと知らなかったんですけどね。その雑誌の表紙の二人の写真。それを見た瞬間、ふふ。まあ言わなくてもわかりますよね。即買いして家でグラビアを眺めたのなんて初めてでしたよ。AVだっていっちゃあれだけど動画共有サイトで無修正がただで見れちゃうこの時代じゃないですか。綺麗な女の子がセックスしてるさえ見れるのに、それよりもはるかに……ぬけました。はは。女の子二人がふざけ合ってるだけの写真なのに僕には二人の淫らなセックスに見えたんですよ。それだけじゃない。るいかちゃんの強い視線とすみれちゃんの弱弱しくももの欲しそうな視線。これはもう3pですよ。狂うように竿を扱きましたね。ふひひ。僕は抜いた手を軽くふいてすぐにコンビニに戻って雑誌をあるだけ買ってやるって思ったんです。だけど戻ったらすでに雑誌は全部売り切れ。それだけじゃない。いたんですよ。僕の兄弟たちが。視線だけでわかりあえた。お互いに幸運を祈り合って、僕はすぐにネットで雑誌を買ってダウンロードして自炊しましたよ。保存用、実用、そして兄弟生産用にね。僕は精神的非童貞なんですよ。るいかちゃんとすみれちゃんも体は綺麗だけど心は淫らな精神的非処女です。それがいいんです。ふぅ。そろそろ抜きたいんで、これで失礼しますね。




