表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/54

第50話 静寂の都と、目覚める脅威

【プロジェクト・モール】が、古代の道を、静かに、しかし、力強く進んでいく。

 数時間、進んだ頃だろうか。狭く、単調だった地下道が、突如として、巨大な空洞へと開けた。


『し、師匠…! こ、これは…!』


 通信機から聞こえるアストライアの息を呑む声と、私の目の前に広がる光景は、完全に一致していた。

 そこには、一つの「都市」が、まるごと、眠っていた。

 天を突くような尖塔、幾何学的なデザインの家々、巨大な歯車が組み込まれた橋。その全てが、ドワーフ族の、神業的な建築技術の粋を集めた、かつては壮麗だったであろう、地底の都。

 だが、その全てが、あの、不気味な、灰色の石へと姿を変え、完全な静寂に、支配されていた。


「…都市まるごと、ですか。これはまた、大掛かりな『汚れ』ですね」

「マジかよ…。街ごと、時が止まってやがる…」


 操縦席の隣で、リオが、呆然と呟く。

 私は、モールの外部センサーを最大にし、都市全体の汚染状況をマッピングしていく。

 汚染レベルは、均一ではない。都市の中心に近づくほど、「停滞」の呪いの密度が、指数関数的に高まっている。


「…まずは、小規模なエリアで、浄化テストを行います。リオ、研修生。あなたの出番です」


 私は、都市の入り口付近にあった、一軒の、小さな鍛冶工房をターゲットに定めた。


「あの工房だけを、限定的に、デ=ペトリファイ(脱石化)しなさい。周囲への影響は、最小限に」

「へいへい。…『面倒くさい石化状態、解除やめ』っと」


 リオが、増幅器アンプファイアを工房へと向ける。彼の、研ぎ澄まされた「無効化」の力が、工房を覆っていた「停滞」の概念だけを、的確に、消去していく。

 灰色の石の外装が、みるみるうちに、本来の、温かみのあるレンガと、黒鉄の輝きを取り戻した。


 だが、次の瞬間。

 ガシャン! と、激しい音を立てて、工房の扉が、内側から、吹き飛んだ。

 中から現れたのは、一体の、作業用の機械腕マニピュレーターだった。しかし、その動きは、正常ではない。全身から、錆色の魔力を噴き出し、手にしたハンマーを、無差別に、狂ったように、振り回している。


「うおっ! なんだよ、コイツ!」


 リオが、慌てて身を隠す。

 暴走する機械腕が、モールの装甲に、ガキン! と、激しい音を立てて、ハンマーを叩きつけた。


『カストディアン!』


 私の指示に、カーゴベイから、巨大な番人ゴーレムが、即座に出撃。機械腕の攻撃を、その屈強な体で、全て、受け止める。

 私は、その隙に、暴走する腕の動きを、冷静に分析していた。


「…敵意はありませんね。これは、ただの、作業ループの暴走。石化が解けた瞬間、内部の魔術回路が、汚染された魔力でショートを起こした、と見るべきです」


 私は、ケルベロスから降ろし、自らも工房へと向かう。

 そして、アーカイビスト・ゴーレムに、その腕を、精密な動きで、拘束させた。


「失礼しますよ」


 私は、暴れる機械腕の、制御盤を、こじ開ける。

 そして、ポーチから取り出した、精密機器用のクリーニングキットで、腐食した回路を、丁寧に、修復していく。ホコリを払い、錆を落とし、淀んだ魔力を、浄化する。

 やがて、機械腕の動きが、ぴたり、と止まった。そして、主を失った道具のように、静かに、その場に、佇んだ。


「…ふぅ。やはり、単純に石化を解くだけでは、ダメですね。呪いの根源を断たない限り、目覚めたものは、全て、汚染された脅威と化す」


 私は、新たな方針を固めた。


「アストライア。今、わたくしたちがマッピングした、この都市の構造データと、先日、詰所で見つけた日記の記述を、照合してください。この都市の『心臓部』…儀式が行われたであろう、中心地を、特定するのです」

『はい、師匠! すぐに!』


 通信の向こうで、秘書が、慌ただしく動き出す。

 その間に、リオが、修復された工房の中を、調べていた。


「おい、アカリ。こっちに、また、日記みたいなもんがあったぜ」


 彼が指差した先には、一人のドワーフ職人が遺したであろう、作業日誌が、奇跡的に、綺麗な状態で、残されていた。

 私は、それをスキャンし、アストライアへと転送する。


 数分後、彼女からの、興奮した報告が、届いた。


『師匠! ビンゴです! 二つの情報を照らし合わせた結果、全ての道が、都市の最高地点にある、『王の大溶鉱炉グランド・フォージ』へと、繋がっています! 日記には、こうも…! 『王は、炉の火に、星の心臓を投じ、我らに、永遠の安らぎを与えると、約束された』と…!』

「星の心臓…。…どうやら、次の『現場』が、決まったようですね」


 私は、モールの操縦席に戻ると、都市の、最も高く、そして、最も、禍々しいオーラを放つ、巨大な塔を、見据えた。

 あの塔の頂上に、この街を沈黙させた、全ての元凶が、眠っている。


「これより、作戦目標を、『王の大溶鉱炉』の、無力化及び、完全清掃に設定します」


 私は、チームの仲間たちに、静かに、しかし、力強く、宣言した。


「――行きましょう。この、静かすぎる街の、一番うるさい『汚れ』の、大掃除に」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ