【第二章・第四十八話】彼女の正体
孤児院時代よりかは幾分かマシになったが、未だに僕には知人が少ない。そんな中、街中で聞き込みに励み、やっとのことで聞き出せた魔導具屋の場所。事情を話した途端、店主は案外快く手を貸してくれた。
「イクェス家は、少々特別な血を引いている一族だ」
あまり慣れない紙とインクの匂い。入口の花瓶に挿された一輪の薔薇。死神のような容姿の店主。
視界を埋め尽くす無数の書籍。その中の一冊を取り出し、見るからに重厚な本を僕に手渡した。本を開くように促され、開いてみるとそこには『ヴァンパイア』という生き物について書かれていた。
「治療法は、発症時に摂取した人間の喉元の血……」
「日光を浴びると肌が焼け爛れ、早く血を摂取しないと春を迎える前に衰弱死するだろうな。だが、治療に必要な血の量が僅かとはいえ、喉元を切るなど自害に等しい。いくら腕の良い医者でも後遺症なしに手術は困難だ」
聞けば聞くほど絶望が広がっていく。
もしこの店主が言っていることが本当なら、どちらも生き延びる道はない。季節が巡る前に、僕たちどちらかは息絶えているのだ。サングイスを死なせるなんて選択肢は端から僕の中にはないが、それでも。
まだ恩を返していない。
叶えたい夢がなくとも、僕がそれを見つけられるまで応援してくれた。
いつまででも、待っていてくれた。
僕は、彼女を残して逝ってもいいのだろうか。
思い詰めていると、目の前の店主はふっと微笑んだ。
「安心しろ。これは普通のヴァンパイアなら、の話だ」
「は……?」
「サングイスは普通に日の下を歩けているだろう。なにせヴァンパイアなどいつの時代の話だと思っている? その特性などとっくの昔に消え去っている」
「なら……!」
「ただし、だからこそ今回は厄介なんだ」
重苦しい表情で彼女は俯く。
「彼女は今、ヴァンパイアと人間が半々に混ざっている状態だと思ってくれ。ヴァンパイアの肉体だから貴殿の血を飲んで飢えている。だが、人間の肉体でもあるからこそ、血を大量に摂取したら死ぬ危険性があるんだ。具体的に説明したほうがいいか?」
鉄分の過剰摂取による臓器へのダメージ、感染症の危険、胃粘膜への刺激による激しい嘔吐。
「彼女がヴァンパイアなのか人間なのか完全に言い切れない。だからこそ悠長に考えて夏くらいまでは持つと思うが、容態が悪化する可能性は大いにある」




