第五章第55話 カーチャさんを案内します
……レアンドルさん、なんだかすごくなっていました。あのときはあたしに、なんで一人で生きて帰ってきたんだって文句を言ってきてたのに……。
「タルヴィア子爵閣下は立派ね」
カーチャさんの声に思わず振り向きます。ですがカーチャさんはレアンドルさんが出て行った扉をじっと見ています。
……はい。そうですよね。
でも、きっとレアンドルさんにとってあたしは許せないんだと思います。最近はもう、あのときのように理不尽な怒りをぶつけられることはなくなりました。だけどあたしと二人のときはずっと不機嫌なままです。
ただ、それでもカーチャさんに当たるほど非常識な人でもなかったってことなんでしょうね。
「あら? どうしたんですの?」
「え?」
気付けばカーチャさんが不思議そうにあたしの顔を見ていました。
「えっと、なんでもないです」
いけません。今は案内の途中でした。
「それじゃあ、生徒会の説明をしますね。生徒会っていうのは……」
あたしは生徒会の説明をしつつ、生徒会室の中を案内していきます。そうして一通り説明した後、カーチャさんに座ってもらい、いつも飲んでいるお茶を出しました。
「えっと、どうぞ。これは生徒会室のやつです」
「あら、ありがとう。いい香りですわね」
カーチャさんはそう言って上品な仕草でカップに口を付けました。
「あの……カーチャさんはどうして生徒会室を見たかったんですか?」
「だって、お兄様とローザが過ごした場所でしょう? それに……」
カーチャさんはそこで言葉を切り、一呼吸置きました。
「きっとわたくしも過ごすことになる場所ですもの」
「えっ?」
それって……。
「わたくし、魔法学園に留学することにしましたの。だから、今日はその下見ね」
「ええっ!?」
思わず大きな声を上げちゃいました。でもカーチャさんはおかしそうにクスクスと笑います。
「そんなに驚くことないじゃない。お兄様が留学したのだから、わたくしだって同じように留学したっておかしくないでしょう? それにカルリアはマルダキアとより仲良くなりたいって思っているのだし」
「えっと……はい。そうですね」
「だから、色々なところを案内してちょうだい。特にローザがいつも過ごしているところとか」
「は、はい」
いつも過ごしているところ……えっと、教室でしょうか? あとは女子寮とか?
「じゃあ、クラスの教室とかはどうですか?」
「ええ! ぜひ!」
こうしてあたしはカーチャさんを教室、そして女子寮に案内したのでした。
◆◇◆
あたしが普段行く場所を案内し終えたので、学内にある魔術選手権の賭け札売り場にやってきました。
「まあ! 賭博なんて初めてですわ! さすが魔法学園ですわねぇ」
カーチャさんはキラキラした目で売り場に掲示されたオッズ表を見ています。
えっと……今年の優勝候補は実戦魔術部部長のラドゥ選手で、そのライバルは魔術研究会二年のダチーナ選手みたいです。
えっと……話したことないですけど、ラドゥ選手は同じクラスの人ですね。というか、オッズ表の上位にいる選手のほとんどが同じクラスの人です。
そりゃあ、三年生なんだから当然ですよね。そんな中で、二年生なのに優勝候補になっているダチーナ選手はきっとすごいんだと思います。
ちなみにヴィーシャさんもいますけど、十一番目だから優勝は難しいって思われてるみたいです。
あとは……魔物討伐演習で班のリーダーをしてくれたマリウスさんが四番目です。
「ねえ、ローザ。この表はなんですの?」
カーチャさんがオッズ表を指さして聞いてきます。
「えっと、それはオッズ表です。選手の名前の隣の数字は、予想が当たったとき、掛けたお金が何倍になって返ってくるかです」
「まぁ……! どうして選手によって違うんですの?」
「えっと、倍率が低いのは、みんなが勝ちそうだって予想しているからです」
「ということは、その実践魔術部のラドゥ選手が一番強いんですの?」
「は、はい。多分……」
「……多分?」
「えっと……予想してるだけですから……」
「ふーん……」
カーチャさんはじっとオッズ表を見ています。
「ローザも誰かに賭けるの?」
「あ、はい。あたしはヴィーシャさん、えっと、同じクラスのお友達に……」
「そう。じゃあわたくしもその選手にしますわ」
「えっ?」
「だって、同じ選手を応援したほうが楽しいのではなくて?」
「あ……そうですね。じゃあ……」
こうしてあたしたちはヴィーシャさんの賭け札を買ったのでした。
次回更新は通常どおり、2026/04/18 (土) 20:00 を予定しております。





