気分転換?!運動と私
ウィルネイト様にお手紙を書いて
私は自室を出ると、街へ帰るというご婦人らに手紙を託して通常業務へと戻った。
今日は騎士の皆様の洗濯物の回収と週に1度くる野菜業者から買い付け、
裏庭の掃除に夕ご飯の支度などやることオンパレードだ。
1番小隊と2番小隊の洗濯物を回収して長い廊下を歩いていると、前方から3番小隊のライコット様と小隊長のマルコル様が歩いてきた。
私は洗濯物の山を手にしており、軽く会釈をするとその場を立ち去ろうとしたのだが、
「待って!スノー、ねぇさ今暇?」
ライコット様が私の前に立ちはだかり洗濯物の山をかき分け私を見下ろしてきた。
「見ておわかりと思いますが私はこれから洗濯をするのです。今日は1番2番小隊の日なのですよ」
「いいよぉ、奴らの洗濯物がちょっと汚れたままだって気にしない、気にしない」
「私は気にするのですよ…?」
飽きれた顔っをしていると、普段無口なマルコル小隊長が珍しく口を開いた。
「スノー、君は毎日働き詰めだ。たまには息抜きしてもいいだろう。今から3番小隊は軽い手合わせに入る。スノーも見ていくといい。」
何やら凄く強引…良くない予感がするような…??
「ちょっっ!!まっっっ!ねぇ!聞いてますか??!」
洗濯物を持ったまま私は引きずられて行く。
ズルズルと連れてこられた所は
見慣れたいつもの中庭で、皆さんが木刀での打ち合いをしていました。
よく見る光景ですね…で、、?なんでしょうか。
手にもった山の様な洗濯物を突然奪われ、
代わりに差し出されたのは…木刀??
「え、なんですか?」
困惑気味の私を他所にライコット様が笑いつつも、わりと真剣な顔で
「よし!じゃあやろうか!」
といきなりおっしゃられて…えぇえええ?
「な、何を?何をです??」
どどどどういう事?ななな何をするんです??
手に預けられた木刀を見ながら慌てていると、ライコット様がクスっと笑って。
「ほら、スノーはさ?ここに来てから働きっぱなしで気晴らしの運動とかしてなかったじゃん?だからたまにはと思って!」
運動って…日々の仕事が運動なみの動きですから!!
その気遣いいらないです!
「いや、そのですね?お心使いはとても嬉しいんですけど…私洗濯物しないとダメで、、」
私は仕事を理由に辞退しようとしたけれど、そんなのお構いなし!我が道効くぜライコット様!
「あー!それはいいよ!非番の…2番小隊のアルカードにやらせとく!左足を捻挫してるだけだから洗濯くらいできるだろ」
あっコレ何を言っても無理なやつかも…
はーっとため息をついて私は潔く諦めた。なんだかわからないがさっさと終わらせた方がよさそう。
「はぁ、なら…少し位は時間できますけど…」
「よし、きた!やろう!」
なんだかなぁ、彼の食い気味な姿勢に何やら別の思惑が見え隠れするような…とはいえ、やる雰囲気になっているこの場所から逃走できる訳もなく。私は渋々と渡された木刀をふんわり構えました。
言うとこを聞くのが一番早く解放されると思ったので。
「それで?私はどうしたら良いのでしょうか?」
「右左、右左って感じで打ち込んできて。タイミングは合わせるから気にしないで。軽い打ち合いをしてみようぜ」
軽い打ち合いか。
ならよく皆のを見てるし出来なくもないか…
私は騎士ではないので構えも何も多分めちゃくちゃだけど、そこはプロの胸を借りるって事で
多めに見てもらお!
うん…そう思ったらいきなり楽しくなってきた。
毎日厨房の窓から眺めていただけだったけど
本当は少しやってみたかったんだよね!
皆の真剣な顔と、終わった後のキラキラした笑顔。
とても楽しそうに見えて…羨ましかった。
そんな気分に少し浸れるならと、私は先程までの面倒な気分を一新して
静かに姿勢を直し―――構えた。
それはとても異様な光景だった。
練習用の防具を付けた騎士とクラシックメイド服の少女。
少女の白い髪が風にふわりと揺れた瞬間――
「参ります」
と静かに、でも通る声で宣言し、彼女は木刀を振り下ろした。
ライコット様が私の振り下ろした木刀を受けた瞬間、彼の木刀は受けた所からボッキリと割れた
「え!?」
ライコット様は衝撃を逃がすように後ろに素早く飛びのき、折れた木刀を確認した。
「ま、マジかよ…」
訪れる静寂、、に耐えられなくなったのは各言う私で!
「あっあれ〜?木刀の寿命ですかねー?やだなぁ私が馬鹿力みたいじゃないですかぁ。あはは…」
って誤魔化してみたんですが…うーん。。
皆さん、納得されてますよね?!お願い!
ザラついた空気をやぶったのはマルコル小隊長だった。
「なるほど、木刀は老朽化してたらしい。こんな一瞬でスノーのリフレッシュが終わってもなんだ。この鉄剣で打ち合いしてみようか。なに、刃を潰してあるから大怪我を追うことはない。少し木刀より重いかとは思うがこれなら壊れる事はなかろう」
マルコル様はそう言うと、私に鉄剣を渡してきた。確かに刃は潰してあって
打ち合いをする練習用の剣だ。
まぁ、これなら壊す事もないか…この空気じゃ私が打ち合いしないと終わらなそうだし。
木刀での力を基準に、更に力を弱くして、いける!これなら壊すとかないし。
そーいや、すっかり忘れたけど私って翼が生える魔物的な生き物だった。
この数年の穏やかさに慣れて忘れてた。
危ない、危ない、危険地帯に居ることを忘れてるなんて。
まさか皆は思うまい。討伐しないといけない魔物がご飯つくって洗濯してるなんてね。
この時の私に言いたい。
まわりの皆が息を飲んで私達を見ていた事を。周りに注目しておけと。
もっと脳みそを活発にしておけばと、そうすれば―――
私は――ちょっと変わったメイドさんでまだいられたのに。。
何事も冷静にしてないとダメですね。不注意ダメ絶対。