死と私とスノーレイ
雪の降る微かな音、優しく流れる風が頬をなでる。
五感が研ぎ澄まされていき、私は意識をすべてに向ける。
サァアアァアァァァー
風が雪を舞い上がらせて運ぶ音
ガサガサ…ズドシャ
木の枝から雪が落ちる音。
もう疲れて目は開かないのに
見えているように感じる。
そして…
ドクン…
ドクン、ドクン
心臓の音がする。
ドクン…ドクン…
自分の鼓動さえもよくわかる。
――弱まってきているな。
ドクン…ドクン…
ドクン…ドクン…
ドクン………ドクン………………
あぁ、ここで終了なのか。
私は意識を手放し…完全に息を引き取った。
と思っていた。
ドクン!!!
心臓が跳ね上がる
ドクン!!ドクン!!!
体の外に飛び出るかと思うくらい。
ドクン!!ドクン!!ドクン!!
心臓の鼓動と共に私は確かに聞いた気がした。
⦅私の子よ…貴方はここで死んじゃだめ⦆
その声と共に血が熱くなる。
心臓は激しく鼓動し、足の先から頭の先まで
何かが私を作り替えていく感覚が走った。
何とも言えぬその感覚を歯を食いしばりながら耐えると、
腹の底から這い上がるように何かが私を押し上げる
その見えぬ力をとき放つように
「ヴォウォオオオオオーーー!」
そう、聞いたこともないような獣の声を発すると
ビリビリと服の破ける音がしたと思ったら、
バサリっっ!!!と背中から大きな翼が生えた!?
ミリミリミリミリっと音がしたと思ったら頭のサイドからは2本の角がはえ…角が生え?!
アレ?おや?私って化け物!!?!?
「え?えぇ?え――――????」
まるでドラゴンのような
角と翼を生やした私がソコにいた。
腰まであった長い白金の髪は何故か真っ白になっていてキラキラと光輝いていた。
持ってきていた荷物から鏡をとりだし
恐る恐る、、恐る恐る見たくないけど確認して見ると
鏡に写ったその姿はまるで知らない私になっていた。
黒い立派な角が頭の両サイドからニョッキりと生え、白金だった髪は眩い白色へ。
紫色の瞳は紅玉のような赤色へ変わっていた。
背中からは白く縁取られたコウモリのような翼が生え、
手先を見たら硬質そうな長い爪。
皮膚が少し白い鱗じょうになっていて…
もう、どっからどう見ても化け物ですね!
何が起きたのかは全く分からないが
体の調子は良好。いつの間にか足の怪我はなおっている。
体力ゼロ値のはずなのに
とっても早く走れそうな勢いすらある。
生きながらえたのはいい。
死にたくなかったし。でも…この状態で町で暮らすとかできるんですかね?
角とか翼とか困るなぁ…なんて考えてたら
感覚的に消し方がわかった。
あぁうん、昔から知ってるじゃん?そんな感じで。
もうね?間違いなく知らなかったのに私は一体どうしてしまったんだろう?
とりあえず翼と角を消して私は崖の方に歩きだした。
寒さはない。何も無い。
何これすっごい無敵感!
雪?寒さ?どんとこーい!
数時間前の私はどこえやら
サクサクと雪を踏みしめ歩いていて行き
崖の上に立ち眼下を見下ろした。
崖の遥下、遠方に大きな街が見える。
石壁に囲まれた大きな街。あそこまでいくのに
ここから徒歩だとどのくらい時間が掛かるのだろう?トロトロ歩いてたら2日コースだ。
もういっそ翔んでっちゃう?
翼っぽいの生えてたし?そしたらこの道のりも
一瞬じゃあないかしら。
そんな事をぼんやり考えていたら
「君は…そこで何をしているんだい?」
後ろから困惑したような声音でそう問いかけられた。
この世で私以外の人間なんて母のミレーしか知らなかったので心底びっくりしながら
恐る恐る振り返ると、紺色に綺麗な金刺繍の入った上品なコートを着た少年と
黒のコートを着たこれまた上品なおじ様が立っていた。
金色の髪に緑の目をした綺麗な少年。
母が寝る前に聞かせてくれた物語の王子様見たいに見える。
まじまじと観察していると、少年が静かに声をあげた。
「貴女は…人?それとも雪の精霊でしょうか?」
ん?精霊??いやいや、精霊なわけない。
どこをどー見たらそうなる。
家から着込んできた服は、翼が生えた衝撃でビリビリと破れ背中はボロボロだ。靴は片方血でどす黒く汚れているし、なんなら横に家から引きずってきた大きな革カバンがある。
「あの、えっと、精霊ではありません…私は」
ここまで言ってから私は息を飲む。
私の名前。遺言のように聞かされた私の本当の名前。なんで私には名前が2つあるのかは、とある物を読んで確認してと言い残されたが、怖くてまだ確認していない。何やら私にとって都合の悪そうな事が書いてありそうで、、つまり小心者なのだ私は。
でも黙っているわけにはいかない。
あぁ…適当な名前をとりあえず…
一面銀世界で綺麗だな、王子様と雪の世界。
御伽噺の世界みたい。雪、キラキラ、雪……
「私はスノーレイ。ただの人間です」
ただの人間は角を生やしたりはしないな…
そう思いながら私は静かに軽やかに目の前の少年にお辞儀をする。
それは母に教えてもらった偉い人にするようにと教わった挨拶の仕方だった。
私はその日、その場の勢いでスノーレイとなった。
やっと主人公の名前出て来た…