お仕事と私
ガタゴト、ガタゴト。荷馬車が揺れる〜
ではなく、豪華な馬車に私は乗っている。
目の前には上品な少年こと、ウィルネイト・ヴォルフガングと
その従者であるランバートが座っている。
なんで私がこの2人と馬車に乗っているかと言うと
「精霊ではないのか…いや、君のその白い髪と赤い目はとても綺麗で…あとこんな山奥に人なんて居るはずないから勘違いしてしまった」
少年はそう照れながら告げると綺麗なお辞儀をした後に
「僕はヴォルフガング侯爵家の次男ウィルネイト、君は何故こんな所に?君みたいな歳の子が1人で居ていい場所じゃない」
王子様、もといウィルネイトと名乗った少年は困惑気味な目で私を見つめる。
た、確かにこんな辺鄙そうな山でどう見ても子供な私はさぞかし怪しかろう。
でも私だっていいたい!君と歳、そんな変わんないよね?!なんでこんな山にいるの君は??
返答に困っているとウィルネイトは困り顔で
「責めているんじゃないよ?心配してるだけなんだ。」そう言った。
「スノーレイと言ったね?ご両親は?どこにいるんだい?家までおくるよ。西の空が黒いんだ。恐らく夜には吹雪になるだろう。早く帰ったほうがいい」
帰れと言われても…その帰る場所から勇気をだして出立してきた訳であって、、
暫し考えたが真実を言うことにした。変に隠してもしょうがない。
「両親は居ません。育ての母は先日亡くなりました。山小屋で暮らしていたので食料もなく…あそこでひっそりと死を待つよりはと職を探しに下山してきたのです」そして今から向こうに見える街に飛んでいくとこだったんです。心配しなくても吹雪には巻き込まれないよ!とは言わなかった。
ウィルネイト少年は少し押し黙った後に
後ろに控えていた紳士に向き直り
「ランバート、私は彼女を連れて行こうと思うのだが意義はないな?」とそう言った。
なんだって?連れて行くだと??!
連れてってなんて言ってもないのに??
びっくりした顔で少年を見つめると同じようにびっくり顔の紳士が少年に物申す。
「ですが坊っちゃま、彼女は素性も知れぬ人ゆえ屋敷に連れて行くなど…」
「だが彼女の足で山を下山していたら日が暮れて吹雪に巻き込まれてしまう。それに何があったかは知らぬが怪我をしてそうだ。野犬にでも襲われたのかい?」
彼は私の身なりを見てそう言ったのだろう。
翼が生えた衝撃で破れた服と血みどろの靴をみればそう思うのも仕方ない。
「あ、、はい。そんなとこです。はい。」
しどろもどろに返事をすると彼は優しそうな目をしてランバートさんに向き直り
これまた優しい声音で諭し始めた。
「ランバート、怪我をし両親を亡くした少女を山に見捨てて帰ってきた…そんな私を騎士道を尊ぶキース兄様が許してくれると思うのか?またこの国を支え民を愛する父と母に顔向けできると思うのか?どうなんだランバート」
「……お坊ちゃまの仰せのままに」
そして冒頭に戻る。
ガタゴトと揺れる馬車で私はヴォルフガング邸に運ばれている。
ヴォルフガング侯爵家はこの地方、ミルネスタ領を収める領主なのだという。自分が住んでる場所がミルネスタって言うことすら知らなかったぞと思わず思ったけど口には出さなかった。
ただでさえ怪しい人物な私に手を差し出してくれた、この心優しい少年をこれ以上煩わせたくなかったから。
揺れる馬車で私は自分の身の上話をさせられた。
母がつい最近病気で亡くなったこと。
山暮らしで行く場所も無いこと。
手持ちの食料も少ししかなくて今すぐ住み込みで働ける所を探していること等など。
読み書きと簡単な計算などはできるので雑務などはできるハズだと言ったら少年に驚かれた。
この国の識字率はあまり良くなく、きちんと学校に通ったある程度の家の者でなければ読み書き計算は苦手らしい。
母さんに教えて貰えた事の一つであるが…当時は読み書きより畑仕事がしたかった。今となってはコレはコレで使える技能かもしれないと思うと亡くなった母には感謝しかない。
「それに君は先程とても綺麗な礼をしたね。マナーを教えられた事があるようだった。それも母上からかい?」
「はい、、当時はなんでこんな事を?と思いましたが…いつか使うかもしれないからって言われて」
「ふむ、、もしかしたら君の母上は爵位ある家の生まれだったのかもしれないね。まあ詮索しすぎては無粋ゆえこれ以上は故人の為にもそっとしとくほうがいいかもしれないが…君が知りたいと言うなら調べる事も可能だと思うけど…どうしたい?」
「いえ…母が言わなかったのならそれは私が知らなくていいと判断したからなのでしょう。ならば私が亡き母の過去を暴く事はできません。」
それに私はたぶんわざわざ調べてもらわなくてもアレを見れば知れるはずなのだ。
亡くなる前に託された古ぼけた日記帳。
彼女は亡くなる寸前に私に言った。
それを読めば全てがわかると。そしてごめんねと。手放してあげられなかったと。愛していると。
そう言って名を告げてなくなった。
私はサボっているのだ、怖さゆえに知ることができない。
もう少しだけ…心にゆとりができた時にゆっくり確認するからね?ね?
私は最もらしいセリフをウィルネイトに告げその話をやめにした。
少し吹雪になってきたころにヴォルフガング邸についた。
屋敷の前で馬車から降りると
ウィルネイトに優しく手をひかれながら中にはいる。
「エミリー、エミリーいるか?」
「はい、ここに!坊っちゃま…その方は?」
「あぁ、彼女はスノーレイ。訳あってここに連れてきた。事情を父上と母上に説明してくるから、その間に彼女に湯浴みを。雪山に1人でいてな。凍えていると思うから。あと姉上の小さい頃の服で動きやすそうなのを。どーせもう着ないのだから彼女に渡してあげてくれ」
即座にテキパキと指示をしている彼を見ると、やはり幼く見えても侯爵家の人なのだと実感した。私とは生きる世界が違うのだと。
「スノーレイ?大丈夫?僕は両親に君の事を説明してくるから…安心して?けして君の事を悪いようにはしないから」
幼き侯爵様は私にそう微笑みかけると足早に消えて言った。
あの後、エミリーと呼ばれたメイドさんに
揉みくちゃにされながら洗われ服を着替えさせられた。
この服はアリアーナというこの家の長女の服らしい。
黒の動きやすそうなドレス。華美なものではないが上品な生地をふんだんに使っているのはわかる。私が普通に生きていたら着ることもないような服だ。
この服を売れば数週間は食べのもに困るまい。
そんな事を考えながら私はぼんやりと指定された場所で待っていた。
エミリーさんが私をこのゲストルームへと連れてきて待つようにと言ったのだ。
暖かい紅茶を入れてくれたのだが
高そうなカップに注がれたそれを持つこともはばかられて、飲みたいが手をつけられない。
そして暫く時がたちカップの紅茶も冷めた頃
ドアがノックされゆっくりと家人が入ってきた。
ヴォルフガング侯爵家当主
ビルフォード・ヴォルフガング、そしてその妻マリアンヌ・ヴォルフガング。
華やかでとても綺麗な夫婦。そしてその子息のウィルネイト。
絵本で見た王様の家族そのもののように見えた。
私は急いで椅子から立ち上がると
丁寧な礼をした。それをみた侯爵様は「ほう…」と呟くと楽にしていいと仰り私に席を進めてくれた。
「息子から話は聞いたよ。スノーレイと呼んでも?」
「はっ、はい!」
「ではスノーレイ。君は母上を亡くされて孤独の身となったとこを息子に助けられたとそれであっているのかな?」
「はい、その通りでございます。路頭に迷っている所をヴォルフガング子息に救って頂きました。あのままでいたら私は吹雪に飲まれ命を散らしていたでしょう。本当にありがとうございました」
私は丁寧な礼を述べると深々と頭を下げた。
教えてもらった役に立たないと思ってた事がこんなにも役にたつ!話方や礼の仕方…ぶうたれててもきちんと覚えた事が役に立った。笑いながらいつか役立つと言っていた母の言葉は嘘ではなかったなと心のなかでふと思う。
「ウィルの言う通りですわね、とても丁寧なお嬢さんですわ。このような素敵なお嬢さんを助けたウィルを褒めてさしあげて?ねぇ?あなた」
「あぁ、そうだねマリー。私たちの息子は誠実な魂の持ち主だ」
ロマンスグレーな髪色のダンディな侯爵と
金糸のような細い煌めく髪を緩やかに前に流す夫人は三人の子持ちにはとても見えない。
ニコニコと話すご夫婦を見つめながら
ぼんやりしていると、私をここまで連れてきてくれた恩人、ウィルネイト様が
「母上、父上、僕の事はどうでもいいのです。スノーレイの今後について考えてあげてください」
そんな優しい言葉まで!
森で出会った不審者に本当にどこまでもお優しい!!
天使だ、王子様じゃなくて天使様だったんだ!
嬉しくて彼を見つめながらニッコリとほほ笑んで礼をする。
ウィルネイト様はお顔を少し赤らめながらコホンっと咳払いし話を続けた。
「彼女は簡単な計算と文字の読み書きも可能です。つける職はあると思うのです…が、山奥で育っているとの事。街での暮らしは大変なこともあるかもしれません。」
「たしかにねぇ、ウィルの言う通りかもしれないわね。スノーちゃんはまだ幼いし…ちなみにおいくつなのかしら?」
「12歳です…確かに私は幼いかもしれません。ですがどんな仕事でも、私を必要としてくれる場所があるのならそこで精一杯働きたいと思います」
私は婦人にそういっきに告げると、畳みかけるように懇願した。
「どんな場所での仕事でも構いません。身分無き私がまっとうに働ける仕事がありましたら、是非紹介頂けないでしょうか!!」
勢いに少し圧倒されながら、困惑気味の侯爵夫妻を見て
あーやっちゃったかなぁ~と心の中でガッつき過ぎた事を反省した。
人の好さそうな夫婦だったから「この家でメイドでもするー?」くらいの返事を期待したのだが
まぁ世の中そんなに上手くはいかないか…ボロ服からこの素敵なドレスに着替えられただけでも
御の字としよう…そう心のなかで決着をつけた、、その時だった
「キース兄様が雑務をこなしてくれる女性を探していたけど…スノーレイ、志願してみる?」
やはりウィルネイト様は天使だったか。
キラキラした目で見つめる私とは裏腹に
困った顔で提案した天使様がそこにいた。




