マーツェと異形の村
つい先刻まで“バウム”として話していた樹木が風に揺れる。
「木になっちゃったね。これは死んだってことなのかな。死んだことになるのかな」
樹木としては若々しく元気な姿である。
葉に触りながらマーツェが言う。
「ちゃんと会えてるといいね。会いたがってたご家族に。…羨ましいな」
そうだな。
会えたのなら、どれだけ嬉しいか。
師匠のことを思い浮かべ、声には出さずに答える。
私とマーツェは、呪いを解かない限りは終わりを迎えることはない。
先に進まなければならない。
足を進めなければならない。
しかしその前に一つ、気の重いことが待ち受けている。
マーツェの姿を隠して、村へ連れていかなければならない。
「いいか。今から結界を張るが、決して勝手なことはするなよ」
マーツェの手首を掴んで言う。
結界を張っている間はマーツェの位置を正確に把握しておかなければならない。
多少は離れた位置に結界を張ることもできるが、私が結界を張ろうとする位置と、実際にマーツェがいる位置にずれが生じてはおかしなことになる。
「わかってるよ。ばれないようにする。静かにもする。大人しくしてます」
自由な方の手を上げて、わかってるよと肩をすくめる。
「それにしても随分と肩を持つよね。異形の人たちのさ。不服だなあ。私の方が付き合い長いはずなのに。長いよね?」
ノーラ、ユーゲン、と指折り年数を数え始める。
知り合ってからは長い時間経つが、単純に共に過ごしてきた時間で言うとベスツァフ達もマーツェもあまり変わらない期間だ。
どちらかに偏った立場をとっているつもりはないのだが、そう見えるのならそうなのかもしれない。
それぞれの背景の差が出ているのだろう。
「あの村の者は人間に迫害されて、ただ平穏に暮らしたいと隠れているだけだ。いまマーツェはそれを乱す存在だろう。マーツェよりも村の者を取る方が自然の流れじゃないか」
嫌悪的な態度も見せていたしな。
「そう?そうかな」
納得していなさそうだが別にいい。
魔力を練って結界を張る準備を始める。
「マーツェの目的は姿を見ることだったな。村の結界内で彼らは面を付けていないから、中に入ればそれで十分だろう。簡単に話をしたら戻るからな」
「わかった」
マーツェの周りに結界を張り、姿は消えて声も聞こえない。
しかし手首は掴んだままなので変わらずその場にいることはわかる。
「村の入り口は木の洞の中だ。行くぞ」
私が歩き出せば、それに合わせてマーツェもついてくる。
洞に入り、結界の出入口を抜けて、村の中に入る。
いつもの魔法教育を行っていた時間帯だ。
村の約半数が教育小屋にいるだろうか。
その他の者は夕食を取っているのかもしれない。
村に入った段階では姿を見掛けない。
小屋に入ると、代わりの教師役に任命した者が教鞭を取っていた。
まあまあの出来だな。
私が説明するほど細かい内容ではないが、大まかには説明できている。
教育の様子に納得しつつ、マーツェが異形の姿に驚き体を強張らせたことが、掴んでいる手首から伝わった。




