ひとまずの終結
「異形たちの話をしたマーツェを見る限り、そう簡単に会わすことはできない。私は彼らと衝突を起こさないと魔法で誓っている。衝突原因になりそうなマーツェを村に連れていくわけにはいかない」
「考えるって言ったじゃないか。前に姿を見たいって言ったときに。会う方法を考えてよ」
「マーツェを会わせられるか考えた結果だ。珍しいくらいに敵対的だっただろう」
「謝ったじゃないか。差別的だった、ごめん、って。この目で確かめたいんだよ。どう人間と違うのか。異形ってどんななのか」
「彼らは自分たちを人間だと言っていた。そんな言い方をしてやるな」
「限定せずに調べていこうって言ったじゃないか。あらゆることを。裾野を広く。視野を広く。ゲルハルトだけじゃ気づかない点があるかもしれない。私の視点も必要でしょ?」
また新たに生じた火種。
深く長い溜息をついて、少し心を静める。
「確かにマーツェの視点を通して新しい発見がある可能性は否定しない。だがお前は似てるかもわからない私の落書きを見ただけで嫌悪していたな。冷静に彼らを見れるのか?
バウムの姿にすら動揺していただろう。バウムには呪いという納得できる原因があるが、彼らはわからないと言っていた。冷静に話ができるのか?」
「できるよ。するよ。調査のために会うんだ。してみせるさ」
とことん頑固な返事である。
私から見る限り、調査目的というよりも、怖いもの見たさのような動機を感じる。
嫌いな魔物。
それと似た部位を持つらしき生き物。
本当にそんな生き物が存在するのか。
嫌いだからこそ確かめてみたい。
そんな心理。
ベスツァフ達はかなり慎重だ。
信頼深いバウムの口利きがあってようやく言葉を交わすことができ、さらに魔法で誓うことによって面を外した顔を見ることができた。
隠れた村と褐色肌の村の関係性を聞くために魔法技術を提供したし、技術と知識を認められたことで教師として村に足を踏み入れることができた。
いきなり私が会ってほしい者がいると言ったところで、話に乗ってくるはずがない。
魔法での誓いや技術の提供を交換条件に場を設ける、もしくは向こうを騙してマーツェを会わせる形になる。
マーツェの嫌悪的な態度から考えると、冷静な取引や話し合いはできないだろう。
現状のように喧嘩腰で話すマーツェが思い浮かぶ。
そんな相手にベスツァフ達が応じることはありえまい。
ならば、こっそりとマーツェをベスツァフ達に会わせるしかなくなる。
ばれない形で村の結界の中へ入れ、マーツェがベスツァフ達に嫌悪したとしてもそれが認知されない方法。
「マーツェは結界魔法で姿を消すことはできたか?」
「できないな。戦いに役立つものを鍛えてきたんだ。身体強化とか。攻撃魔法とかね。子供の遊びみたいなもんだけど。ゲルハルトの技術に比べたらさ」
「そうか。なら私がかける」
何を、とマーツェは視線で問いかけてくる。
「マーツェの態度は敵対的だと取られるだろう。直接会わせることはできない。卑怯だが秘密裏に会わせることになる」
結界の入り口は木の洞で隠していたが、侵入者を阻むような措置はしていなかった。
入り口の場所を知ってさえいれば、誰でも村へ入れるのだ。
「マーツェの姿を見えない状態にして連れていく。お前だけを結界に入れた状態だ。音も遮断する。外からの音は聞こえる状態にしておくが、中の音は聞こえない状態だ。私は結界の外にいるわけだから会話はできない。その状態でなら連れて行ってやろう」
「…わかった。お願いね」
私がマーツェに結界をかけるということは、その間私の傍を離れられない。
自由に動き回れないこと、自分で意思疎通を図ることができないことに不服そうではあるが、とりあえずはようやく話を終えることができた。




