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誓いの魔法

諦めかけたところで半面が言った。




「我々を攻撃しないと、衝突しないと、簡易魔法で誓いを立ててもらいます。そうすれば面を外してもいいでしょう」


「わかった」







魔法で誓いを立てれば、契約違反者には罰が下る。


簡易魔法というのは下級魔法という意味であって、内容自体が簡易な誓いというわけではない。

誓いを破れば身が焼かれたり皮膚が爛れたりと、場合によっては命に係わる罰が与えられる。




「お前は面を外す。私はお前たちに攻撃しない、衝突しない。その内容でいいか?」




持ち歩いていた荷物から紙を取り出し、誓いの内容を書きだす。

頭の中で吟味するように黙り、半面は口を開いた。




「…いいでしょう」




書いた内容をお互いに確認してから、右手を出して重ねる。




「書いた内容で誓いを立てる。相違はないな?」

「ないです」




形式上の言葉。


特に意味のない言葉を交わして、重ねた手から魔力を放出する。

誓いを立てる者の魔力が混ざり、それが紙を包み込む。

そして熱を持たない炎となり、紙を包んで焼き尽くした。



これで誓いの魔法は完了だ。












半面に視線を向けると、躊躇うように目をそらしつつも面に手をかける。




面の下には、人間とは程遠い、獣染みた口と鼻がついていた。


犬のような黒い鼻。

耳まで届きそうな横に大きな口。

人間よりも少し長めに、鼻や顎が前に伸びているようだ。




「これでわかるでしょう」




そう言葉を発する口には、とがった山のような歯が並んでいた。




「人間社会では生きていけない見た目です。一族の者だけで平穏に暮らしていくために、村を隠して細々と生活しているのです。

しかし時折、我々の力では補えない物が出てきます。それを調達するために、面などで隠して物資を手に入れているのです」




なるほど生きづらい容姿である。

村を隠し他者との接触を断絶するのも頷ける。




「その見た目は呪いではないのか?」

「みな生まれ持ったものです。変えようがありません」




首を横に振る半面(もう面は取っているが)が持つ荷物には、布地や鉄、子供用のおもちゃらしき物がのぞき見える。

木々に囲まれたこの辺りでは用意できない物なのだろう。









「ズィリンダたちの村とは、どういう関係だ?あいつらが言う“外”とはお前たちのことだろう?」

「…そこまで答える義理はありません」




それはそうだ。

しかし、ようやっと手に入れた隠れた村の者との接触だ。

できるだけ多くのことを聞き出したい。

接触できる機会がまたあるとは限らない。


いや、次回を作り出せばいいのか。







「これならどうだ。お前たちの代わりに、私が物資を手に入れてこよう。それをこの付近で手渡す。その方が安全性が高いのではないか?見返りとして関係性を教えてもらおう」


「我々が調達をする道筋の伝達がうまくいかなくなる危険性があります。その話には乗れません」


「文字にして方法を残すこともできるだろう。文字情報だけでは伝わらないほど複雑な調達方法なのか?」


「そうでは…ないですが」




すげなく断られたが、簡単には引き下がりたくなかった。


食い下がると曖昧な返事。

これは情報が途絶えることを心配する気持ちよりも、私を信用できない方が大きいのだろう。




「私も人間からは迫害されてきた立場だ。人間は好かない」

「あなたも人間でしょう」

「お前は人間ではないのか?」



言葉を詰まらせて半面は口を引き結ぶ。












自分は人間だ、という意識が私は薄い。


人間として生まれ、人間として生き、見た目も人間そのものである。

しかし人間としては有り得ない、変わらない見た目と死なない体。


生物としてはどうあがいても人間であることは確かだが、しかし人間とは別物であるという意識が芽生えている。

恩を仇で返すような奴らと私は、違う生き物だと思いたい気持ちもある。




目の前の半面はどうなのだろう。


突然変異の奇形児なのだろうか、人間とはまるで違う見た目。

自分を人間と捉えるのか、別の生き物と捉えるのか。











「我々は、人間だ…」

「そうか。まあそれはどちらでもいい」




同じ迫害された身でも、自意識は反対のようだ。


しかしこのままでは大した情報も掴めず、次の機会も得られず終わってしまう。

何か交渉材料はないだろうか。







「ゲルハルトから、結界魔法を教わったら、どうだ」



バウムが助け船を出してくれた。




「ゲルハルトは、転移魔法を使えるほどの、高位、魔法使いだ。質の高い、結界魔法も、使える。結界魔法の範囲が、小さくて、土地が狭いと、言っていた、だろう」


「バウム様。魔法には魔力量や相性が関係します。教わったとて習得できるとは限りません」




「魔力量を補う魔具か魔法陣を造ろう。それでどうだ」



結界魔法自体は教わりたい雰囲気を感じ、追撃をかける。






「…そんなことできるのですか」

「ああ」




できるはずだ。

おそらく。


確証はないが、不安を悟らせるわけにはいかない。

断言して見栄を張った。



少し考え込んで、半面は条件を出してきた。




「造る、と言いましたね。では10日待ちます。魔具か魔法陣か、完成させた物を持ってきてください」

「わかった」




私が了承すると半面はまた面を被り、バウムに挨拶をして背を向けた。

ある程度離れてからこちらを振り返り、おそらく私がついてきていないかを確認していたのだろう、木々に隠れ姿が消えた。


そうして、私には10日間で魔力量を補う魔具か魔法陣を造るという課題が課された。

期限内で造れるといいのだが。

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