燻っていた感情
呪われてからバウムがどう生きてきたのかを一通り聞いて、私自身の話もすることにした。
私も勇者として魔王を倒し、呪われていること。
私は呪いを解くために今あらゆることを調べていること。
行き詰まっており、“外”の村で何か得られやしないかと、この辺りを調べていたこと。
「バウムについても調べていたんだ。“喋る木”として伝説になっていた。会って直接話がしたいと思っていたんだ」
「そうか。会えて、よかった。私は、明らかに異形の姿に、変わっているから、むしろ困らないが、姿が変わらないというのは、困ることも多かっただろう」
長い長い、気の遠くなるような時を生きてきた私。
私の半分ほどだが、それでも長い時を過ごしてきたバウム。
片や人間とは言い難い風貌へと変わっていき、片や全く変わっていないように見える姿。
バウムは、衣服で隠せるうちは普通の生活を送れていた。
隠せなくなってきても、一目で“普通の人間”とは違うと解る容貌は、逆に理解を得られた。
神様かもしれない。
魔物かもしれない。
人間ではない生き物。
対して私は、姿が変わる心配はなかった。
10年程度なら同じ場で留まっていても問題は起きない。
しかしそれ以上が経つと、変わらない見た目が問題になる。
人間と同じ見た目、人間としか言えない見た目なのに、年を取らない容姿。
人間のはずだ。
人間のはずなのに年をとらない。
気味の悪い生き物。
困るというよりも、私は人間という生き物に対して見限りをつけた。
関わるだけ無駄だ。
害しかない。
私とは“違う生き物”だと、そう考えて。
「それでもこうして、人と関わって、呪いが解けると、希望を持って、ゲルハルトは強いな」
全く強くなんてない。
全て私の意思ではなかった。
呪いが解けるなんて考えたこともなかったし、人と関わっているのだって渋々だ。
シュワーゼと出会っていなければ、いや、始めのノーラをきまぐれで助けていなければ、今の状況は有り得なかった。
幾ら高い魔法技術を持っていたって、魔王を倒した勇者だからといって、決して強くなんてない。
師匠が居ないことをただただ嘆いて、人間との関わりを断絶して、生きているのかもわからなくなるような何もない時間だった。
何百年とそうやって時間をつぶしていた私。
「強くなんて、ない」
決して。
植物化している影響なのか、バウム本来の気性なのか、私は大人に憤りをぶつける子供のような心境になっていた。
ああ、私はずっと、悲しかった。
悔しかった。
私を形作ってくれた、私に世界を与えてくれた、最も尊敬する人が亡くなってしまった悲しみ。
世界を救ったというのに、私を認めてくれていたのも束の間、化け物を見る目になり果てた住民。
気持ちを分かり合える者はおらず、話を聞いてくれる者もいない。
ずっと、ずっと、死んだような時間を生きながら、私は憤っていたのだ。
1000年以上生きてきたというのに、消化できずに燻っていた感情。
私の様子を見て、バウムはゆっくりと瞬きをしてから口を開く。
「…苦労、したのだな。呪いを、解く方法を探していると、言っていた、先ほどのゲルハルトは、前を向いて生きているように、見えた。良い出会いが、あったのだな」
否定をせずに受け入れてくれる。
勝手に理解したような気にならずに気持ちを尊重してくれる。
バウムの言葉に救われるような気持ちがした。
そして思い浮かぶ、生まれ変わり姿を変えては現れる人物のこと。
良い出会い、だったのだろうか。
素直には認めがたいが…、そう、なのかもしれない。
図々しく慣れ合ってくる距離感の無さ。
断っても冷たくしても声をかけてくるしつこさ。
うんざりさせられたものの、しかしそれがあったからこそ、情報共有をする関係になったとも言える。
呪いは解けると信じて突き進む姿は、指針にもなり得た。
呪われているのが自分だけではないという、姿が変わらない事情を理解する者がいるという安心感もあった。
改めて考えてみると、私の中であいつの存在は存外大きいのかもしれない。




