9お祖父様の活躍
帰ると直ぐにお祖父様に相談した。
「グローリー侯爵家に不幸が襲いかかろうとしているのだな。良く教えてくれた。何か用事を作って訪問するとしよう。何処にいるにせよあまり動かないように持っていけばいいのだな」
「ベッドに寝ておられた方が侯爵様だと分かったわけではないのです。ただ夫人があれほど泣かれるのは余程のことだと思いました」
「無駄足になっても良い。手は打っておこう。何もないのが一番だからね」
「顔が分かると良かったのですが…。お祖父様にはお手数を取らせます」
「気にするな。大体のことが分かったんだ、充分だよ」
「エレンの加護は誇るべきものよ。申しわけないなんて思わなくていいのよ」
2人は俯くエレンを抱きしめてくれた。
オルレイン前伯爵がグローリー侯爵家を訪問すると、主がちょうど領地へ出かけるところだった。
「久しぶりですな、侯爵。何処かへお出かけですかな?」
「ええ、葡萄の出来が良いので様子を見に行こうと思っていたのですが、何か御用でしたか?」
「先触れより早く来てしまったようですな。昔の部下から面白い話を聞いたものですからお耳に入れようかと思ったのですが、タイミングが悪かったようですな。またにしましょう。どうぞお出かけください」
「オルレイン様のお話には興味があります。行くのは先に延ばしますよ。どうぞ中にお入りください。一杯やりましょう」
オルレイン前伯爵はこのところ投資が上手くいっていると評判の御仁だ。その人がわざわざ足を運んでくれたのだ。話を聞かずに帰っていただくなどとんでもなく失礼にあたる。何かいい情報が聞けるかもしれないのだ。侯爵は愛想よく家に招いた。
前伯爵はエレンの先読みは明日とか明後日の出来事が見えるものだと知っていた。
どうやら間に合ったらしいと胸をなで下ろした。
出発を先に延ばせる方法を試すことにした。
応接室に案内させると、とっておきの高級なワインを出し歓待した。つまみはチーズやハム、ナッツ等を揃えさせた。人払いはした。
「実は先頃酒の席で宰相から税金の話を聞いたのですよ」
「ほう、税金ですか?」
「そうです。酒に関するものでしてね」
侯爵は身を引き締めた。酒税だともろに影響がある。領地に行っている場合ではない。出かける前に会えて良かった。幸運に感謝した。
「まだ議会で決まったわけではないのですが、税を上げようという動きがあるようでしてね」
「それは困りますね。税金が上がれば値上げをしなくてはいけなくなります。貴族や富裕層なら良いでしょうが、庶民も多く買ってくれるのですよ」
「議会に掛ける前にワイン組合の総意を纏められたらいいのではと思いましてね」
「わざわざ知らせてくださりとても感謝いたしますが、オルレイン様の対価は何でしょう?」
「常日頃から妻や孫娘に良くしていただいているのでそのお礼だと思っていただければ良いのですが。そうですね、同じ派閥のよしみで耳に入れに来たというのが偽りのないところですかな。信じるかどうかは侯爵次第ですが」
「情報を教えていただきありがたいところです。阻止できればこちらとしても助かりますので動きますよ」
婚約破棄をしたお孫さんの為に恩を売っておきたいと言うことだろうか。多分あちらこちらに昔の伝手やアンテナを張り巡らせておられるのだろう。
それに引っかかったのが酒税の話だったというところだろうか。
調べさせるが事実ならありがたい情報だ。
味方に付けるのが得だろう。後で最高級ワインを贈らせていただこうと侯爵は決めた。
勿論これからも手を結ぶのは当然のことだ。好意を示された相手にはそれなりのものを返すのが流儀だ。
侯爵はワイン関係の知り合いに手紙を書いたり会いに行ったり忙しく、領地へ行くのは暫く見合わせることにした。
ひとつき月過ぎても侯爵家の不幸の話は聞こえてこなかった。
3人は不幸は回避されたのだと胸をなで下ろした。
酒税法案は組合の反対で先送りになり、オルレイン家には最高級の年のワインが1ダース贈られて来たのだった。
その夜さっそく3人でワインを飲ませてもらったのは言うまでもない。
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