11投資の大成功がもたらしたもの
誤字報告ありがとうございます!助かりました。感謝しています。
月日は穏やかに過ぎ1年が経った。
カフェは常連客からの口コミで噂が広がりおかげさまで繁盛している。
腕を上げたローゼンは賄いの担当になっていた。
今日のメニューは香ばしく焼いたソーセージと具材たっぷりのブラウンシチューにパンだ。
「熱々で美味しいわね。これならサラダを添えたらカフェに出せるんじゃなくて?」
「お嬢様がそうおっしゃるなら」シェフが重々しく頷いた。
「ローゼンは飲み込みが早いですからね」
「教え方が上手なのね」
「いや、彼に料理のセンスがあったのです。ここで倒れていた時はまさか男の子だとは思いませんでしたが」
「そうよね、どう見ても女の子だったわ。よく無事に逃げ切れたものだわ。ぼろぼろの姿を哀れに思った何処かの親切な人が、娘さんが着なくなった服をくれたなんて思いもしなかったもの。
あなた達が見つけて助けてくれて良かった」
お嬢様はしみじみと振り返った。
「ああ、そうだわ、この間港町に立ち寄った時に珍しい香辛料を見つけたの。 ディ・マスタードというらしいわ。お肉やソーセージに合わせると美味しいらしいの。使ってみる?」
シェフの目が輝いた。
「是非、使ってみましょう。大旦那様の屋敷にもあるのですよね?」
「ええ、向こうのシェフにもあげたわ。気に入れば取り寄せも出来るわ」
「これはぶどうのフルーティな香りですね。味は強烈な辛味に特徴がありますね。色々試してみたいものです。お嬢様、その時に試食はされましたか?」
「小さなお肉につけたのを一口だけ。肉の脂っぽさが一瞬で消えた気がしたの。刺激的な味だったけど工夫次第では美味しくなるかしらと思って買ってきたの」
「ホワイトマスタードや蜂蜜と混ぜても美味しいものが出来そうです」
「ありがとうございます。やる気が増しました!」
ローゼンも嬉しそうに声を弾ませた。
「そんなに喜んでもらえてよかったわ。お祖父様に報告しなくてはね。これは投資のチャンスかもしれない!」
エレンは急いで屋敷に帰ることにした。
予想通りディ・マスタードは膨大な利益を生み出した。
しかしそのせいで私には多くの釣り書が送られて来て頭を抱えることになった。
「今日までにこれだけの釣り書が来ている。お前の実家にも来ているらしいぞ」
「お祖父様、私結婚はしたくありません」
「だが格上の貴族から申し込まれては断るのは難しいのが現状だ。まあ対策を考えることにしよう。私に任せておきなさい」
よし、お祖父様に丸投げ成功。
「それでは、よろしくお願いいたします!」
私はそう言うと、用は済んだとばかりに執務室からさっさと退出した。
※※
執務室からお嬢様が退出された後、大旦那様は私を真っ直ぐ見据えてこう切り出した。
「ルカ、エレンと結婚する気はあるか?男爵家の三男だっただろう?」
「えっ?私でございますか?」
突然の問に、私は心臓が跳ね上がるのを感じた。
「お慕いしていますが、対外的に男爵家の三男に過ぎません。立場が違いますので気持ちには蓋をしておりました」
「分かっているだろうがわしは裏切りは絶対に許さない。すればその場で殺す。
その覚悟があればエレンを任せたい。但しエレンが了解すればだがな。このままでは又意に染まぬ結婚を強いられるやもしれない。これ以上あの娘が傷つけられるのは許せんのだ」
「大旦那様。私でよろしいのでしょうか?」
大旦那様の厳しい眼差しの奥にある、お嬢様への愛が痛いほど伝わってくる。
「私達が気持ちに気づかないとでも思っていたのか?お前なら任せられる。勿論告白は自分からするのだぞ」
「はい、誠心誠意、お伝えします」
「愛情は育てるものだ。お前が想っているのはエレンだけであろう?大切にしてやってくれ」
自分の想いは大旦那様達にばれていた。
気が付かれないようにしていたつもりだった。サラにもばれていたが近くにいるせいだと思っていた。案外気が付いていなかったのは自分とお嬢様だけなのかも知れないと思うと恥ずかしさで身悶えしそうになった。
お嬢様は身分こそ子爵令嬢だが、成功している投資家で鋭い勘の持ち主だ。おまけに先読みの加護まで持たれている。どんな相手も選び放題だと思っている。
自分が手を伸ばして良い相手だとは思っていなかった。だがこれはチャンスではないだろうか。振られればその時だ。
まずデートに誘ってみよう。それから気持ちを伝えなくては。
ルカは「お話したいことがあります」と言ってエレンを誘うことにした。
いつもの食べ歩きだと思っているのだろう。エレンお嬢様は気楽に
「ええ良いわよ」
と二つ返事て応じてくれた。
サラには事情を話して2人にしてもらった。
目的地は海辺の海鮮レストランにした。波の音が心地よく響く、静かな場所にある。
出発の際、私はお嬢様を馬の前に乗せその細い腰を後ろから抱きすくめるようにして手綱を握った。
今まで任務の中で何度もしていることなのに今日ばかりは心臓の音が煩いほど激しく鳴り響いている。
馬を走らせること1時間。
途中で風に煽られた金色の髪が顔に当たり、口元をかすめる。それすら愛おしく跳ねる鼓動がさらに加速していく。
ーー私の想いを受けて貰えるのだろうか。
たとえ断られても護衛は続けるつもりだ。お守りするのはこの方だけと決めている。
たとえ別の男の手をとっても盾になるのは自分だけだ。
「まあ、潮の香りがして来たわ。綺麗な所ね。夏になったら又来たいわ」
目的地の海が見えてきた。
前方からお嬢様の無邪気ではしゃいだ声が聞こえて来て、私は愛しさに胸を締め付けられながら、静かに馬を止めた。
お読みくださりありがとうございます。ディ・マスタードはディジョン・マスタードをイメージしていますが想像上の物です。よろしくお願いします。
馬車にしなかったのはエレン様と一緒に乗っても良いのか?と思っているへたれなルカの遠慮によるものです。




