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61cs 「希望の在庫」
部屋は散らかっている。
けれど、本棚だけは整っている。
床には脱いだ服、積まれた雑誌、丸まったレシート。
その横で、本だけが背筋を伸ばして並んでいる。
揃った高さ。作家順。傷ひとつない。
言葉たちがひしめき合っている。
一本抜く。
表紙をながめる。
そっと両手で開く。
二ページで、閉じる。
「……まだ早いな」
戻す場所だけは、すぐにわかる。
読むつもりはあった。
買ったときは、毎回ほんとうにある。
棚に戻される衝撃。
隣の本と肩がぶつかる。
仕事、疲れ、読書、忘れてはいない。
それでも本屋には行く。
昨日の本屋と、今日の本屋は違う。
昨日の本が、今日はもうない。
新しい本が、妙にまぶしい。
「運命」
本屋へ行くと、まだ間に合う気がする。
少しだけ、取り返せる気がする。
そのたびに一冊増える。
棚だけが育つ。
そこだけ立派に。
少し誇らしい。
「一、二、三……」
途中でわからなくなる。
額を押さえて、最初から数え直す。
これは知識ではない。
読書歴でもない。
まだ間に合うと思いたかった日々の在庫だ。
通知が光る。
まだ、並ぶ余地がある。




