酒場の些細な動乱
(……ここまでするなんてな、)『アータナム』(やっぱヤツらはループをくわしく知って……ん?)
アンミェルが思案していると、突然彼女の眼前に拳が飛び込んできた。いきなりの出来事に対応出来ない彼女の顔面に、そのまま拳がめり込む。
「ごっ……だっっっはぁ!!?」
そして、振り抜かれた拳のインパクトを受けて吹っ飛び、いくつかの客のテーブルを薙ぎ倒しながらそのまま壁に激突した。
「なっ!?エステルなにを!?」
「ちょっとちょっと!何事よ!?」
「エステルさん!?ご乱心になられましたの!?」
すぐさま起き上がり顔を摩るアンミェルに影が被さる。その影の主は恐ろしい形相のエステルだった。
「アンミェル、私言ったわよね?死に急ぐような真似するなって、こっちがただ本読んでるだけだからって舐めてるの?」
「いってぇ……落ち着けよエステル……いきなり殴るこたぁねえだろ……」
アンミェルは涙目になりながら鼻血を拭い、怒り心頭のエステルを宥める。
「だったらもっと慎重に動いて、何があったか知らないけど、あんたの行動はあんただけですむ話じゃないんだから」
そういうと、エステルは動揺するパーティメンバーや店主、そして他の客の前に立つ。
「皆さんごめんなさい、ちょっと寝ぼけて暴れてしまったみたいです。アンミュルもごめんなさいね、“うっかり”当たってしまったみたい」
(チッ……このクソアマ……)「ああ、つぎからは気をつけろよ、じゃねえとボクもうっかりしちまうかもしれねぇ」
酒場の客を前に誤魔化す為の演技をするエステル、そんなエステルにアンミュルは合わせつつも彼女を睨み悪態をつく。
そんなアンミュルの態度に、エステルは笑顔のまま顔を近づける。それは、笑顔にも関わらず凄まじい怒気を放っている。
「それはお互い様よ。またお転婆が過ぎる真似したらお姉ちゃんが折檻するからね、アンミュルちゃん?」
「お、おお……」
エステルの気迫に慄きながらも頷くアンミェル、そんな二人に心配したのか突然の事に硬直していたレイルが気を取り直して駆け寄ってくる。
「大丈夫かカーネル!?すごい衝撃だったぞ!」
そのセリフを聞いた瞬間、アンミェルが鬼の形相でレイルを睨んだ。
「だ・か・らッアンミェルだっつってんだろうが!このヴォケカスがぁ!!」
駆け寄るレイルに、アンミェルは驚くべき素早さで飛び上がり、そのままドロップキックを繰り出した。それはレイルの顔面に見事命中し、彼は酒場の床に叩きつけられた。
「心配するのは結構だがそれを普段からやっとけって事なんだよのーたりんがッ!人の名前も碌に覚えねえし、それがテメェを追放する理由だと肝に銘じやがれクソッタレがッ!」
「え、ええっ!?つ、追放って……そんな……」
「アンミェルの言う通りだ、お前は戦力にならん上に邪魔になることも多かった。このパーティには相応しくない」
「言っときますが、これは貴方を除くパーティ全員の総意です。異があったとすれば、せいぜいラカニアさんが少々温情を与えた方がいいと言ってるくらいですか」
「でもテメェみてぇなアホにやる金なんかねえよ、せいぜい勝手に職でも探してな」
「待ってくださいませ!それでは今まで尽くしてくれたレイル様に対してあまりに不義理ではありませんこと!?」
怒りのまま声を荒げるアンミェルにラカニアが反論する。そんな不毛なやり取りに割って入る様にシエノンが手を挙げた。
「あの〜それ時間かかる?なら私ちょっと用事あるから先に失礼したいんだけど〜……」
それを聞いてメンバー全員が驚く、シエノンは同調ばかりで自分の意見を言うタイプではなかったからだ。
「なんだ?お前にしては珍しいな」
「バウンデンには関係ないでしょ、とにかく先に失礼するわ、私にどっちでも別にいいし」
そう言って席を立ちそそくさと酒場を出るシエノン、そんな態度に熱が冷めたのかアンミェルもどうでも良さそうな表情になる。
「チッ、アイツの態度見たらボクまでどうでもよくなってきた。ボクもいまから出る用事があるからくだらねえことで時間くってる暇ねえんだよ」
アンミェルはフードを被り直すと、不機嫌そうに酒場の出入り口へと歩いて行く。
「つっても追放は絶対だからなッ!ラカニアから金もらったらさっさと出ていけよッ!」
それだけ吐き捨てると、アンミェルは乱暴に扉を開けて外へと出て行った。
「……全くなんだと言うんだ、締まらない形になったがそういうことだレイル、お前には出ていってもらう」
「私ももう上に上がります。貴方はラカニアさんから好きなだけ小遣いを貰って、そしてそのまま消えてください。私は忙しいので」
(どうせまたアンミェルがヘマをして時間は戻る……だけどここでグダつくのは私の性分じゃない、私の部屋には趣味で集めた古書が沢山ある、その中から有意義な情報がないか探さないと……)
「くっ……分かった、お前たちが言うなら出て行くよっ!金もいらない!」
「お待ちになってください!レイル様!」
自分がパーティ内でどう思われていたのか、やっと察したレイルは目を閉じ悔しそうな表情を浮かべ、そのまま衝動的に酒場を出て行った。ラカニアもそんな彼を心配して、追いかける様に続けて酒場を出て行く。
(ラカニアはなぜあそこまであの穀潰しをフォローするのかしら?もしかしてレイルを……まさかね、さっさと上に上がりましょ)
そんな二人の行動をエステルは眺めながら少し思惑すると、バウンデンには一瞥もせずに二回の部屋へと向かって行った。
………………
一方、ここは王都の外れにある地下水道への入り口前、そこではフルカニが突入のタイミングを図りながら耳に付けたアーティファクトでアンクレバスと連絡を取り合っていた。
「こちらフルカニ、王都の地下水道前に到着した。今アンミェルはどこにいるの?」
「フルカニさんですか、すみませんが地下水道には立ち寄らなくて結構です。既に前の貴女から報告があって代わりのものを送りましたから」
それを聞いたフルカニは察したように頷く。
「なるほど、では次の指示をお願いします」
「そうですねぇ……前回の貴女は『走馬灯迷宮』を使っているみたいなんですよね。それと同時にループしたところをみるに、アンミェル・タレッチに追い詰められて自爆したのでしょう。貴女がアレを使うということはそういうことですし」
「なるほど、ならばあの回復師はビンゴって事ですね。しかし自爆する隙があったというのなら、意外と私は拮抗した勝負をしていたみたいですね」
「いいえ、それよりも相手に捕縛されていたと考える方が自然でしょう。自爆せざるを得ない状況かつ、自爆する隙があったとなれば、そちらの方があり得る話です。貴女が勝負を挑むのは無謀でしょう」
「む、ではどうすれば?」
少し頬を膨らませつつ、フルカニはアンクレバスに不躾に指示を仰ぐ。
「ならばアプローチを変えましょう。他にも彼女……アンミェルとつるんでいた者はいました、ならばその者達を襲撃してください。今ここで回復師を狙えば確実にアンミェルが対策してくる筈です、次は確実に『走馬灯迷宮』を潰してくるでしょう」
「了解、では件の酒場に向かいましょうか」
すみません、スランプからのモチベ低下で長いこと放置していました。
少しずつ勘を戻しながら書いていこうと思いますので、星、ブクマ、スタンプなどの反応お待ちしています。




