第16話 それぞれの考え(6)
フェル視点です。
「ん…朝…?」
いつもと大体同じくらいの時間だろう。
私ーーフェルミーナは目覚めた。
(うっ…眩しい…)
昨日は考え事しつつ、外を眺めてたまま、寝てしまったせいで日除けが役に立っていなかった。
朝の日差しは寝起きには辛かった。
私は日差しから逃げるように寝返りを打つ。
(今日は各自で行動だったね。)
昨日、私がタケルに頼んだから。
なんだかタケルと距離を置きたくなった。
そう考え始めたのは昨日のこと。
なんて言うか、価値観が違っていた。
…こう言うと別れ話みたいだけど、実際は全く違う。
そもそも彼氏彼女ってわけじゃない。
もちろん、憧れはする。
この世界に来て初めて話して、一緒に魔物を倒して、
一緒の宿に泊まって…
(うぅ…混乱してたとはいえ、年頃の男女として。
一緒のベッドはどうなの?)
顔が赤くなってしまう。
でも、すぐにその熱は冷める。
タケルの奴隷と死に対する価値観を昨日の私は知ってしまった。
私も、人の価値観にどうこう言っていいとは思っていない。
そして、きっと、タケルの価値観は正しいとはいえないかもしれないけど、間違ってはいない。
奴隷がいるのが当たり前で。
他人よりも自分が大切。
あたりまえ。だけど、普通はあんなにはっきりとした態度で行えない。
奴隷になったのには原因があって、しょうがないとは思うけど、かわいそうだとは思うし、目の前で死にそうな人がいたら助けたいと思う。
それは自然なことだと思っていた。
でも、これは私の価値観であって、全ての人にあてはまるわけじゃない。
奴隷をみて、かわいそうだと思っても、私の勝手で逃したら、それは犯罪で私が罰を受ける。そして奴隷にされるかもしれない。
目の前で誰かが魔物に殺されそうになっていた時、何も考えずに突っ込んでいっても、その魔物が私よりも強かったなら、犠牲が増えるだけなんだとおもう。
だから、タケルの価値観はこの世界で生きていくためには必要なことなんだろう。
そして、きっと私もいつかは同じような価値観を持つようになる。
理解はできる。
でも、それを考えると悲しくなった。
私は甘いんだろう。
そんな風に考えているうちに私は思ったのだ。
(タケルが、怖い。)
これはすごく失礼だってわかっている。
召喚された場所から一緒に逃げて来て、もう戻れないと思い出して寂しいとは思ったけど、いてくれるだけで心強かった。
すごく強いスキルをもっていて、スライムやゴブリンを簡単に倒せちゃうのに、魔力を使い切って倒れたり…
たった数日だけど、いいところを知った。
でも、一番感じてしまったのは恐怖だった。
だから、一緒にいてはいけないと考えた。
(きっと、タケルは私よりもずっとつよい。だから、これからも何度も助けてもらう。なのにその相手を怖がるなんて最低でしかない。)
私はタケルから離れることを決めた。
(どうしようかなぁ。)
そう考え始めたところで、お腹が鳴ってしまう。
思わず恥ずかしくなるけど、周りには誰もいない。
すぐに落ち着いた。
(とりあえず朝食を食べよう。)
そう考え、下におり、席に着く。
すると、すぐに女将さんが朝食を持って来てくれた。
「なにか悩み事かい?」
「え!?」
(そんなにわかりやすかっただろうか?)
「はい。まぁ、ちょっと。」
「ふーん。そうかい。なら、街を見て回ったらどうだい?どうせ、魔物を狩ってばかりで碌に見てないんだろう?いい気分転換になるんじゃないかい?」
(確かに気分転換になりそう。なにか思いつくかもしれないし…)
「そうですね。そうしてみます。」
私は朝食を食べ、宿から出た。
「はぁ…」
結局どうすればいいのかわからなかった。
街を見てまわって、今は夕方。
公園のベンチで、遊んでいる子供たちを眺めていたけど、今は少なくなってきている。
きっと帰っていったんだろう。
(私も帰ろう…)
ベンチから立ち上がり、公園を後にする。
「あ…あの…」
その時、後ろから呼び止められた。
振り返ると人族の、女の子がいた。
「どうかしたの?」
「冒険者の方ですか?」
「そうだけど…」
「私達とパーティを組みませんか?」
(なんかいきなりじゃない?)
少し面を食らっていると、女の子の後ろの方から男の子が駆け寄ってきた。
「さっきいったけど、いきなりすぎ!」
女の子に向かってそういうと、すぐに私に向き直った。
「すいません。いきなりでしたよね。」
「うんうん。気にしないで。それでパーティって?」
「はい。実は僕たち4人でパーティを組んでいて、明日から別の街へ向かうんです。たから、それに合わせてもう一人くらいパーティメンバーを増やそうと思って…」
(なるほどね。でも…ちょうどいいのかな…)
「少し詳しく聞いていい?」
私が興味を示したことで他のメンバーも呼んで説明をしてくれた。
私が火属性魔法を使えるということには驚いていたけれど、ちょうどいいといって組んでほしいとさらに頼まれた。
(これでいいんだよね。)
コンコン
私は扉を叩く。
「私だけど…少しいい?」
(少し、いや、かなり緊張してる。)
「フェルか。大丈夫だよ。」
「ごめん。寝るとこだった?」
「いや、もう少し起きてるつもりだったから。」
「そう…それで…その…」
(申し訳ないとも思う。恩を仇で返すみたいなことだけど。きっと、この方がお互いいいと思うから。)
「ん?どうかしたのか?」
「私、明日この街を出るわ。」
誤字・脱字がありましたら教えてくださると幸いです。