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05 鳥の不満

■■ ピー太 視点 ■■



我が名はパトリシオ・デ・ラ・カマラ。誇り高き神獣、ガルーダの一族に名を連ねている。本来は、このような狭っ苦しい人間の住処に存在することなどはない。美しく、清い森の中で同胞と共に悠々自適に、気ままに暮らしているはずだったのに、なぜ我がこんな目に遭わねばならぬのか!


「ピー太?ご飯だよ、食べないの?」


ピー太ではない!ええい、のんきな顔をしおって!小娘、こうなったのも貴様のせいだろうが!





 10年ほど前、我は故郷の森を出て旅をしていた。ある日、いつものように空を飛んでいると下から攻撃を受けて落下してしまった。最初は我の血肉を狙う狩人の仕業かと思ったが、銃声は聞こえなかった。弓矢では我の飛んでいる高度には届かない。そこまで考えて我は魔法によって撃ち落とされたと確信を得た。感触からすると風魔法であったか。


(この我が撃ち落とされただと?ありえぬ……)


 我らガルーダ一族は神獣の中でも風の魔法の扱いに長けている。この世界に於いて風の魔法ではガルーダの右に出る者はいないと言われるほどだ。風魔法での攻撃はもちろんのこと、防衛なぞ造作もないことだ。しかし、今の魔法は風魔法であったにも関わらず我はそれを防ぎ切れなかった。否、墜落するまで魔法に気が付かなかったのだ。

 ……なにかおかしい。墜落した場所は森の側のはず。だが、周りには動物の気配すら感じられぬ。木々がざわめく音、そして川の流れの音が聞こえるだけだ。心地の良い静寂とは全く異なる静けさ。先程の魔法といい、この森の異様な雰囲気には何かがあると考えてもおかしくはないだろう。早くここから飛び立たなければ。だが、思ったよりも傷が深く動くことができない。傷口から魔力も漏れ出ているし、力尽きるのも時間の問題だ。


―ガラッ


 我が途方に暮れていると、背後で石がぶつかる音と共に視線を感じた。その方向を見ると人間の子供が此方を見ながら立っている。馬鹿な。今まで人間どころか動物の気配すら感じなかったというのに。こんな近くまで迫っていたとは……。いやそれよりもなぜ人間の子供がこんなところに?我の疑問をよそに子供は周囲を見渡すと


「ねえ、今落ちて来たのって君?」


 と話しかけてきた。この有様を見て解らぬのか?そもそも言葉が通じる訳がなかろう、小娘!と抗議してやると子供は我を素早く抱きかかえて走り出した。小娘は、大丈夫だからね。家に着けば治してあげられるから。と我に何度も話しかけてくる。だから通じないと言っておろう!大体、人間の力では我のこの怪我は治せぬぞ!獣には人間共の薬は効くが神獣には効かぬのだ……。ぞ……。目眩がする。むう……、興奮したせいか意識がはっきりしない。そろそろ我の魔力も尽きかけておる。まさか、ここまでなのか……。死に場所が、旅先なんて笑い話にもならぬぞ……。

 小娘は何か戸惑ったような目で我を見たかと思うと、何やら詠唱を始めた。


「ヒール」


 小娘の詠唱が終わった途端我の体は白い光に包まれた。傷口がみるみるうちに治ってゆく。これは回復魔法……ということは貴様、回復魔法の使い手か。大抵使い手はその希有な能力から、利用価値のある者として浚われることが多く、滅多に使い手である事を公表する輩などおらぬ。珍しいな。

 我の血が止まるのを確認した小娘はとホッとした表情で我を抱えたまま走り続けている。おい、処置は終わったぞ。早く放さんか。小娘は数メートル先の家をみると呟いた。


「一応父さんのとこに診せにいかなきゃ」


 ―まだ我を動物扱いする気か、貴様!

 




■■ 柳未輝 視点 ■■



 (うわあ、どうしよう)


  魔法の練習の合間に挟んだ休憩のとき、何かが森の中に落ちた音がした。音のした方に行ってみるとビックリ、鳥がいた。しかも結構でかいし、怪我してるし。いてもたってもいられず、抱きかかえたのはいいが腕の中の鳥はだんだん弱ってきている。このままじゃ死ぬ。それでも、家にまで着けば助かるかもしれない。父さんが獣医師の免許を持っているから、鳥の怪我の処置ができるはず。


 回復魔法が使えたらいいんだけど、できるかわかんないんだよね。魔法図鑑に一応載ってあったんだけども怪我なんて滅多にしないし、自分でキズを付けて試す気にもなれないしで一回も使った事がないのだ。それに、うまく行ってもこの鳥を実験台にしているようで申し訳ない。だが、このままでは鳥は家に着くまで持たないという事は確実だ。



 葛藤の末、回復魔法を使う事にした。回復魔法は成功し、鳥の血は止まった。だか油断は禁物だ。羽毛でよく見えないが傷はまだ完全には治ってないはず。

 やっぱりここはそういうのに詳しい人に任せるべきだろう。脱いだ靴を揃えもせず家に入ると、居間にカタギの人には見えない人がいるのが目に入った。



 「……なんだ、随分急いでいるようだが……」



 ちなみに付け加えておくとこの人は私の父です。よく極道の人と間違えられるけど、職業は専業主夫。顔にでかい傷跡があろうが、エプロンと包丁より白スーツにドスが似合っていてもカタギだ。優しい人なんだけどな。



「この鳥、死んじゃうかもしれないんだ!父さん、助けて!」



 突然のことに父さんも驚いていたが鳥が河原で怪我をしていたことを伝えるとすぐさま鳥を抱え、部屋の中に閉じこもった。

 しばらくすると鳥のけたたましい鳴き声のあと、父が部屋から出てきた。鳥に暴れられたらしく、引っ掻き傷ができている。こういうのは処置の最中によく起こるらしい。ビビリな性格の動物は暴れるどころか声すら上げないらしいけど……。まあ、あそこまで暴れられるなら鳥は元気だろう。



「……少し羽の辺りを痛めているのと血で体が汚れているのを除けば健康そのものだ。」



 そうか、うまくいったのか。はー、よかった。それにしても目がなんかとてもキラキラしてますよ、父さん。家の父は無類の動物好きだ。犬猫はもちろん、両生類やは虫類も好きで鳥類はみなまで言わずとも好きだ。でも今回は野生の鳥だから自然に帰さなきゃいけないね、と言うと

 


 「…そうだな。……自然に帰せるまであと一週間ってところか……。フフフフ……それまでに色々準備しておかなくちゃな……。」



 おお、笑った。普段表情筋が活躍してない父さんにしては珍しい。そんなに今回の鳥がドストライクだったの?真顔で今のセリフを言われてもちょっと怖いけどね。顔の凶悪さががより一層増している。  嬉々として部屋に入っていく父の背中を見送った後、鳥って何食べるんだっけと思いながら魔法の練習に耽るのだった。



 


■■ ピー太 視点 ■■




(……未輝を迎えに行ってくれ、ピー太……)


(だからピー太ではないと言っておろう!おのれ、貴様が獣使いでさえなければ……!)


(……はいはい……)


 

柳咲やなぎさき。我がここから離れられないのは此奴が我のマスターになっているからである。

 小娘が我を此奴に引き渡した後、神獣だということが発覚し契約を強制的に交わされた。此奴がたいした獣使いでもないのに我を屈服させたのは偏に我の血があったからだろう。半分小娘のせいであともう半分は咲のせいだ。



 後から解った事なのだが、森に動物がいなかったのは小娘が原因だった。何せ小娘は魔力が多い。獣共は本能的に危険だと感じているようで、魔力で威圧され怯えて姿を現そうとすらしない。小娘が森から離れた途端に一気に動きだす。少し前、魔力威圧の消し方を覚えたおかげで危うく腹を空かせた熊に襲われかけたが火属性の魔法で対処しておった。

  


だが一番の驚きは小娘の魔法の才能であった。小娘はこの10年足らずで全属性の魔法を習得しおった。全属性の魔法を扱うのは容易な事ではない。熟練の魔法使いでも、一種類の魔法しか扱わぬ。魔力に限りがあるので全属性に力を注ぐよりも一つの属性に特化したほうが効率がよいからだ。全属性を扱おうとしてもせいぜい初級魔法~中級魔法止まりだ。 

 しかしこの前小娘は全属性の上級魔法を成功させおった。しかもそれらを覚えたのは「よいこのまほうずかん」なるもので、それは魔法の名と、効果しか書かれていないもので魔導書と呼ぶには粗末すぎる本からだった。

 ついでに、その本を見て小娘が練習をしている際に我を撃ち落とした原因は此奴だったことが判明した。どうにも小娘は風魔法の制御が苦手らしくよく魔法をあらぬ方向に飛ばしておる。そう、小娘が風魔法の練習をしているところにたまたま野鳥がちょうど我のように流れ魔法に当たり、我のように墜落するのは“よくあること”なのだ。しかも小娘は当たった事にすら気付かないので余計にタチが悪い。


 我がマスターに捕まる原因になった憎き本を切り裂こうとしたときは、小娘は我が手を出すより先に本を掴み、これ母さんがくれたんだ。と聞いてもいないのに語ってきた。

 まさか貴様の母もこうなるとは思ってもみなかっただろうな。その証拠に小娘が庭で上級水魔法を発動していた際に母が小娘を問い詰めておった。あの図鑑で覚えた。と小娘が答えたときの我の衝撃も大概だったが母は衝撃を通り過ぎて顔が引きつっていたぞ。


 貴様、アレで魔法を覚えるとはどういうことだ?発動に必要なイメージすら載っておらぬぞ。

我を撃ち落とす程の魔法の威力といい、魔力の量といい小娘は異常すぎる!


 以上が、我がこんな目に遭うことになった原因である。


 全て小娘のせいだ、我の日常を返せ!



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