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店員がサンドイッチと珈琲を私と歌夜さんの前に置く。
会話は一旦途切れた。
「いただきます」
「いただきます」
ズズズと熱い珈琲を啜る。正直なところ珈琲はインスタントで十分な私にとって店まで来て珈琲を飲む意味は無いのだが、歌夜さんと一緒のものを飲んでいる。それだけでいっそう美味く感じるまである。
しかし、絵になる。無駄に常識をわきまえている自分が憎い。ここで、カップ片手に目を伏せ珈琲を飲む姿を写真に収めておきたい!そうして額縁に入れて国宝として代々奉りたい。
「どうしたの?」
「えっ、いえ。どうもしていませんよ」
「ほんうとかなー、にっしし、私の美貌に惚れたな、さては」
あざとい。そして、可愛い。
正直に自分の欲望と思考の全てを危うく小一時間喋り出そうとしてしまうほどには可憐であった。
未だかつて無いほどに心臓が生き急いでいる。
いかん、このままでは死んでしまう!こうなったらなんでもいいから声に出そうと決断をする。
「あまりに綺麗で写真に撮っておきたいと考えてしまいました」
「あ、あぅぅ。……1枚だけだよ?」
どういうことだろうか。君の命全てを等価交換にした場合私の価値が歌夜さんの写真1枚分という意味だろうか。きっと違う。
「い、いいんですか?」
「なるべく君の要望には応えておこうと考えていますので……撮るなら早くっ!」
「あっ、はい!」
こうして撮られた写真は後日、無事額縁の中に入れられ玄関、リビング、寝室、キッチンへ配当され、私の部屋の価値を大いに高めたのはまた別ご話である。
食事も一段落したところで歌夜さんが切り出した。
「それで、報酬はコレでお願いしたいの」
やたら分厚い封筒が出てきた。何となく中身を察することは容易なのだが、この予測が合っていたとするならばこんなのドラマでしか見た事無いのですが。
歌夜さんのバックには何がいるのでしょうか。怖くて聞けませんけどね。