↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女と鉱石、帰還譚  作者: 空野
Chapitre.5
51/323

5-13

 ヘイダル、と、呼び掛けられて、振り向いた。

 「エリックか」

 西の地平に太陽が沈み切った直後。星明かりも些か心許ない細い路地。

 振り向いた先には、白いスーツの義兄の姿。

 「さっき、網が発動したそうじゃないか?」

 軽い口調で言って、エリックは近寄って来た。

 「しかも、あれだろ、真上の網ってことは例の浮遊魔法の子?」

 「ああ」

 頷くと、へえ、と空を見上げる。

 「雪路ちゃんがねぇ?」

 「知り合いか?……相変わらず手が早いな」

 「おや、ひどいなぁ。そういう決め付けはしないでくれよ」

 エリックは肩を竦めて視線を再びヘイダルに戻す。

 「俺は可愛い子の事はよく覚えてるだけ。下心なんてちょーっとしかないさ」

 ヘラリと笑う顔を胡散臭そうに眺め、ヘイダルは溜息を吐いた。

 「……まぁいい。俺には関係ない」

 結局、まともに何か指摘するのも馬鹿らしくなり、そう言った。

 「では、俺は巡回に」

 「……ヘイダル」

 他に要件がないなら仕事に戻ろうかと踵を返しかけた矢先、エリックが口を開く。

 「見逃したんだろう?」

 「なぜ分かる?」

 キョトンと目を丸くして問えば、ヘラリと笑ったまま、エリックは腕組みした。

 「さっき、そこで雪路ちゃんと我等が兄さんが話してたからね」

 「ああ、見掛けたのか、あの二人を」

 納得して、ヘイダルは頷いた。

 「先日の魔法界からの厄介者の件もあるからな。瑣末事に時間は避けまいと、アントワーヌがその場で無罪とした」

 「ふぅん」

 碧眼のアメリカ人は視線を路地の暗がりに投げた。陽気で軽快な印象の顔に、ほのかに、夜の闇がかかる。

 「……君はそれで納得してるの?」

 「なに?」

 眉間に少し皺を寄せて、ヘイダルは聞き返した。

 「無実だと、納得しているか、と?」

 「うん。納得してるの?本当に脱走じゃなかったと?」

 「……状況的にも、些か脱走らしからぬところではあった」

 無意識に、片手をこめかみに当てる。コツコツと指先で軽くこめかみを叩き、ヘイダルは言う。

 「加えてアントワーヌが判断したならば、俺はそれに従おう」

 「君やニコロは、お兄ちゃん大好きだよねぇ」

 エリックはクスクスと笑う。対してヘイダルはムスリと顔を顰めた。

 「……何が言いたいんだ、お前は?」

 「別に。ただ、俺も兄貴達……誠やアントワーヌの事は心配してるってだけさ」

 すう、と、エリックは静かな顔になる。

 「あの二人、ここ最近は忙しいだろ?魔法界のクズ野郎の事もあったし。まぁ、誠に関しては、元から肩の力抜くのが下手な人種ってのもあるけど」

 それには深く同意する、と心中でヘイダルは頷いた。

 「こんな時期にさ、変な脱走とか起きないといいよね、って」

 エリックは言いながら唐突に、気紛れに、ヘイダルに背を向けた。

 「これ以上、親愛なる兄さん達が働くのも可哀想だし」

 「ならば少し貴様も真面目に働け」

 背中に向けて投げた声には、ヒラリと振り返らないまま軽い仕草で手が振られ。

 「これでも働いてるんだよ。俺が何の為に花嫁候補達にベタベタしてると思ってるの?」

 ふふ、と、笑い混じりにエリックは言った。

 「……雪路ちゃんはね、〝帰りたがってる子〟なんだよ」

 「まて、それはつまり」

 ハッと声を上げるヘイダルに、顔だけ振り向いて、エリックは軽薄そうに唇に人差し指を当てる。

 「おっと、女の子の内心を人に漏らすのはよくないね。今のは内緒」

 星明かりも心許ない路地の中。

 「では、良い夜を。バイバイ」

 うっすらと影を纏った男は笑い、パチン、と、七色の光の粒に変わって消えた。

 ヘイダルは暫し立ち尽くし、やがて、小さく息を吐く。


 「……花都 雪路か」


 そうしてポツリと呟き、今度こそ、踵を返した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。