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「どういう事ですか、ニコロさん!?」
雪路の悲鳴混じりの声に、えへへ、とニコロは苦笑いして頭を掻く。
「えへへ、ちょっと間違えちゃった」
「ちょっとじゃないですよ、これは!?」
月曜日。エメラルドを主な産物とするニコロの鉱山で。
「なんで今週のお昼ご飯の配達、いつもの三倍の量頼んじゃってるんですかぁ!?」
たった今気付いた今週の弁当の注文ミスに、ひぃぃ、と雪路は頭を抱えた。
約束通り、今日からはニコロの補佐に収まったわけだが。与えられた仕事は、ひとまずニコロのいる中央事務室で、鉱夫達へ支給される弁当や工具の数量管理をする、という物なのだけれど。
着任から僅か数時間、自分でミスをやらかす前に、上司であるはずのニコロのとんでもないミスに気付くハメになったわけである。
食べ切れなくて勿体無いという問題は、それこそ今日の夕飯と明日の朝食にでもしてくれと鉱夫達に三食分配る荒業で何とか出来るとしても。ザッと計算した弁当代は、一ヶ月の収支の割合から考えて、とてもではないがちょっと間違えたで通る誤差の範囲ではないはず。
事務室の書記官、とくに経理を任されている二人など、今にも泡を吹きそうな顔をしてワナワナ震えている。
「んー……確かに洒落にならないなぁ、これ」
雪路の差し出した請求の試算を見て、ふむとニコロは考え込み、やがて唐突に立ち上がった。
「まぁ、でも、今日の分はもう仕方ないとして。明日以降のはまだ配達されてないどころか、作られてもいないだろうし、俺が工場に話付けて訂正してくるよ」
各鉱山に昼食の弁当を配達するのは、待の南東にある工場だった。
「皆、迷惑かけて本当にごめんね。だけど、まあ、最悪の場合でも、最終的な責任取るのは俺だからさ、そんな真っ青になって心配しないで」
のんびりと、ベージュのコートを羽織り、事務室の出口に向かいがてら、あ、と雪路を振り返る。
「俺が話付けてくる間に、今日の弁当、三倍の量がある事、鉱夫達に通達しておいてくれ」
「わ、わかりました」
持ち帰って貰うにも、あるいはその場で三倍食べて貰うにも、早めに言っておいた方が鉱夫達も心の準備が出来るだろう。
念の為にメモ帳とペンをポケットに突っ込み、雪路もニコロが出て行った扉を潜ると、鉱山の各地区採掘場と事務室へと駆け出した。




