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魔女と鉱石、帰還譚  作者: 空野
Chapitre.2
18/323

2-12

 気は進まないものの、これ以上怒られるのは嫌だと早めに屋敷を出た二日目。

 早過ぎるくらいに早く着いて待っていた雪路に、しかし特に誠は何を言うでもない。怒られないのは良いことだけれど、無表情でチラとも見られないのも、完全に怒る程度の期待もなくされたような気がして落ち着かない。

 考え過ぎだとは思うものの、全てが裏目に出た初日が完全にトラウマと化してしまっている。

 そそくさと当たり障りなく挨拶だけして、自分の担当区に向かったところ、机の上に差し戻しの集計用紙が数枚あって、ずん、と更に落ち込んだ。

 「まぁ最初はそんなもんですよ」

 若い書記官は笑って言うけれど、彼には差し戻しはないようだし、ひょっとして自分は出来が悪いのだろうかと雪路の自信はゴリゴリ削られていくばかり。

 (……間違えないようにしなきゃ……)

 プレッシャーが掛かってしまって、その日の午前の作業は昨日よりも遅々として進まなかった。

 「すみません、遅くなっちゃって……」

 雪路の遅れに付き合って、昼食の時間がずれ込んだ二人に、しょぼんと軽く頭を下げる。

 とっくに正午を通り過ぎた時計の針を横目に、ようやくと食べ切った弁当箱を重ねながらのこと。

 「なに、よくある事ですよ」

 「忙しい時期なんぞ、食べながら仕事しとりますわい」

 カラカラ笑う二人は、実際、そこまで気にしていないのだろうなとは分かっている。

 (でも、一回や二回ならともかく、この先何度もは甘えられないし……)

 ちゃんとせねば、と、思わずにはいられない。それが余計にまずい方向のプレッシャーになるのは自覚しているけれど、思ってしまうものは思ってしまうのだ。

 (私、こんなにマイナス思考だったかなぁ……)

 ふと今までどうだったかの経験を思い起こそうとして、学校の事や、バイト先の事が脳裏を掠めた。

 (……事件とかになってるのかな?)

 数日間も両親に無断で外泊したことなんてない。他の高校生がどんなものかは知らないけれど、少なくとも、雪路の母は、そういうのにはうるさい方だった。

 (きっと心配してるだろうな……)

 スマホはアチラの世界の道に落としてきてしまったけれど、きっと、着信が溜まっていることだろう。あるいは、道に放り出されたバッグやスマホが発見されて、誘拐でもされたのではないかと警察も動いているかもしれない。

 (……はやく帰らないと)

 帰りたい、と、そう思う。

 気持ちが滅入っているのもあって、日本の我が家の、狭くてお洒落でもなくて、でも好きな漫画や小説、お父さんのお下がりのパソコンが置いてある、自分の部屋が無性に恋しい。

 コッソリ溜息を吐いていると、コンコン、とノックの音がした。

 「はい?」

 「休憩中にすみません」

 返事の後、入って来たのは採掘現場の班長だった。

 「ちょいと相談がありまして」

 「相談?」

 「何かあったんかい?」

 首を傾げる雪路の横で、年配の書記官が問う。

 「おう、爺さん、昨日の機械のことでよ」

 班長はコクンと頷き、雪路に視線を向ける。

 「ちぃと事故と言いますか……いえ、怪我人とかが出たわけじゃないんですが」

 ギョッと顔を引き攣らせた雪路に、慌てて笑って、班長はチョイチョイと扉の外を指さした。

 「あー……見れば早いと思うんで、ちぃと良いですかい?」


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