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魔女と鉱石、帰還譚  作者: 空野
Chapitre.2
12/323

2-6

 「Hi brother!なにを見てるんだい?」

 横から伸びて来た派手な白いスーツの腕が、目の前にあった用紙を抜き取っていった。

 「おっ、新しい子の申請書?かわいい?あ、名前からして東洋人だ」

 「エリック・バトラー」

 カン、と軽く机を叩いて厳しい声を出す。

 「ここは俺の仕事場だ。貴様、自分の鉱山を離れて何をしている?」

 「おっと、今日は日曜日だよ?カミサマだって休む日だって、紀元前から言われてるけど」

 「メリケンの週間なんぞ知らんな。大日本帝国では、一週間は月月火水木金金だ」

 「ナニソレ怖い」

 言葉とは裏腹に、放蕩者の義理の弟はクスリと笑って書類を振った。

 「まぁまぁ、そう怒らないでよ、藤埜ふじの大尉」

 「貴様に階級で呼ばれるのはゾッとする」

 藤埜ふじの まことは眉間に皺を寄せて、ヒラヒラと弄ばれる書類を引ったくり返した。

 「あんまり冷たくされると俺も悲しいんだけど」

 「野郎に優しくされて嬉しいか、貴様が?」

 ふん、と鼻を鳴らして再び書類を検分し始める誠に、それもそうだね、と、背後のエリックは納得したような声を出す。

 「ちょっと想像してみたけど、まったく嬉しくないね。可愛い女の子に優しくされたい」

 「報告不要だ。さっさと消えろ愚弟」

 「二番目の兄さんは怖いなぁ」

 楽しそうに喚く伊達男を視界から追い出し、誠はふむと書類の文字をなぞった。

 「……花都 雪路、日本人か」

 白い手袋をした自分の手。海軍時代と変わらない白い袖に金釦の軍服の袖を、少しの間見詰める。

 「その子、〝狩人の試練〟通ったらしいよ」

 ふと、背後から落ち着いた声が降って来た。

 「……なに?」

 振り向くと、ニンマリと口角を上げ、碧眼を細めたエリックは、自慢のブロンドを掻き上げて視線を窓の外に流す。

 「一昨日の事件は知ってるだろ?メルヴィンの所であった」

 「……なるほど、これが噂の新入りか」

 書類を机に置いて、誠は腕組みした。

 「……竜に対峙したか、悪くないな」

 「誠は威勢の良いお嬢さんがお好み?」

 「そういう意味ではない」

 チッと舌打ちひとつ。椅子から立ち上がると、机に立て掛けていた軍刀を掴む。

 「立場に甘んじてのうのうとしているような軟弱者は、男でも女でも気に入らんというだけだ」

 軍帽を被り、ふん、と、藤色の目を眇めて見せる。

 「もちろん、身内でもな」

 「厳しいなぁ」

 ふっと笑ったエリックは、で、と書類を指差した。

 「この申請、どうするんだい?」

 「可とする」

 扉に向かって歩き出し、誠はそう言った。


 「大日本帝国の、竜を御した女だ。多少は気骨ありと期待させて貰うとしよう」



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