第五話
すいませんすっかり遅くなりましたorz
特別機動騎士隊屯所には小規模ながらも罪人を留置する事の出来る独房が用意されている。
その一室にアリスティアは膝を抱えて隅で大人しく座っていた。
「…ずっとあの様子で、ご飯も食べていない状態で」
「私が来るまで誰も寄せ付けるな」
見張りの騎士が捕まえてから毎日食事を出してはいたのだが、食欲がないのかアリスティアは一口も口にせず見る見る内に痩せこけていった。
エリカは騎士に一言そう告げるとアリスティアのいる牢屋の前まで足を運び椅子に座った。
「……何しに来たのよ。 私を嘲笑いにでも来たの?」
「そんな訳あるか。 お前が飯を一口も食わないからと見張りの者が困り果てていた。」
「困るも何も…どうせ私は死罪でしょ? 食う食わないなんてどうでもいいでしょ…」
アリスティアは顔を上げてエリカを睨むが、もう反抗する気力すらないのか諦めてはまた顔を埋めてしまった。
「確かにな。 でも冥土の土産に幾つか持っていけ」
「………?」
そう言うとエリカは懐から一枚の紙と布に包まれた何かを取り出して牢屋の中へと置いた。
それを見たアリスティアは首を傾げながらのそのそと檻の近くまで這い寄り、両方を手に取りながらジッと眺めた。
紙の方は国王以下関係者達の処罰の内容で、布に包まれていたのは少し高価な時計の鎖とこれまた庶民が持つにしては高価な櫛であった。
「復讐はお前さんのしたいようには出来なかったが果たしてやった。 鎖と櫛は亡き御両親の物だ。 明日刑を執行する故身に付けておけ」
「……ッ!!」
エリカの心遣いにアリスティアは驚いていた。
全く以て関係のない、しかも一時期は敵対していたエリカが此処まで親身にしてくれるとは思わなかったからだ。
「なんで…」
「お前も庶子なら私も庶子、境遇は違えど似たような生い立ちの人間だ。 お前さんの気持ちは分からなくもないさ」
あの冷たい表情と嘲笑とも思える表情この二つしか見た事がなかったエリカの表情は非常に柔らかな笑みを浮かべており、長年の友が慰めてくれているようなそんな表情を浮かべていた。
それはアリスティアが初めて受けた温情であり、人としての暖かみでもあった。
「うっ、ぐっ…」
「あぁ、泣け泣け。 鬱憤を全部この世に置いていく位に泣け」
アリスティアが感極まるとエリカは檻越しからハンカチを手渡して泣き止むまで共にいた。
◇
翌日密やかに行われたアリスティアの処刑は驚くほどに静かであった。
普通ならば誰もが躊躇うであろう毒入りの瓶を手に持ち、目付役に見届けられながら一気に呷った。
飲む前の姿は何か落ち着いた表情を浮かべ、毒を飲み干し絶命した後の姿も安らかな姿であったという。
その後、遺体は前王妃が出家した修道院に運び込まれ亡き両親が眠る墓地へと納められた。
その後様々な騒動を起こした元王太子一派はアリスティアの指示の元、エリカ率いる“特機騎士団”によって粛清され、並み居る悪を片っ端からは捕らえては血祭りに上げた事からエリカを“鬼”と呼ぶようになり、悪党からは畏れられていたが、一方市民からは苛烈ながらも人情味があり、慈母のような優しい人柄が受けており、また罪科を犯した者の中でもまだ更正出来る者や協力した者には手厚い保護を行ったと言われている。
また男に暴力を振るわれている女性など社会的弱者の保護にも力を入れ、男尊女卑が主流であったこの時代には珍しく女性の社会地位向上を王妃ユーフェリアと推し進めた。
その背景には一人の悲しき哀れな女性の姿があったと言われている。
変な終わらせ方をして大変申し訳ありませんでしたorz
テレビドラマ版の鬼平犯科帳が大好きで、中身が長谷川平蔵みたいな女の人が大立回りをしてたら良いなぁと思い筆を走らせてみた形であります。
池波正太郎先生の原作は恥ずかしながら目を通した事がなく、さいとうたかを先生の漫画と中村吉右衛門氏のドラマしか見ていない若輩者でございますが、少しでも共感できたのであれば幸いでございます。
ではまた違う作品でお会いしましょう‼
テスタロッサ