ワンコな、おおかみくん!+関西弁
お題【A】ワンコな、おおかみくん!+
【B】関西弁
あらすじキーワード:ファンタジー/獣人/人間/ほのぼの/ゆるいノリ/
色々突っ込みどころはありますが広い心でお願いします。
「ワンコな、おおかみくん!」本編は http://ncode.syosetu.com/n7024cu/
「と、いうわけで関西弁しりとりしましょう」
私は、狐の獣人ヴォルドさんに言った。手入れされている尻尾はつやつやで綺麗です。同じ色の耳が興味深そうに動く。
お昼過ぎの少しゆったりとした時間帯。ヴォルドさんのお店の奥にある休憩スペースで私達は向かい合って座っている。
紅茶を飲む手を止めて首を傾げる彼に、更に言葉を続けた。
「関西弁を話しながら会話でしりとりをするんです」
熱弁する私とは反対で、あまり乗り気じゃない言葉が返ってくる。
「アオイ……それは、しりとリとは言わないんじゃないかしら?」
「そんなことないですよ。最初と最後が繋がっていたら、それはしりとりです」
ぐいっと手に持っている本を前に押し出す。表紙には”やさしい関西弁講座”と書かれている。
「言語の本……?」
ヴォルドさんは本を受け取りぺらぺらとページを捲った。
「この前、三人でしりとりしたら楽しかったじゃないですか。しりとりにしたら楽しいですよ」
「見たことない言葉ね」
「私の世界の一部の地域でしか使われていない言葉ですから」
「どこにあったの?」
「図書館です。異世界に関する棚の隅の方にありましたよ」
視線を本に落としたまま頷いた。
「丁寧に解説してるわね」
「この国の言葉で解説してるのがまた面白いですよね。読みながら始めようや」
「んー、そうね。気をつけるポイントってある?」
「それやったら、このページにポイントが書いてあるで」
ページを捲り指差す。
ヴォルドさんが頷いて内容を読む。ふと、視線が上がり私を見た。
私はにっこりと笑った。
「関西弁やで」
「もう始まってるの?!」
あたふたする彼を眺めながら次に来る言葉を待つ。
「ちょっと待って。いきなり、しりとりはハードルが高いわ」
「わ、私はそんなことないと思いますけど」
「兎に角、関西弁か、しりとりどちらかにしましょう」
「ヴォルドさんがそう言うなら……関西弁講座にしましょう」
「うん、そうね。難しそうだけどやってみるわ」
「わーい。さすがヴォルドさん。できればワイルドに強気な感じで例文読んでください」
「いいわ。始めるで……これでいいの?」
「いいです。凄いです。ヴォルドさんの見た目とのギャップが……」
面白いことに!いつも柔らかい言葉遣いの狐さんから関西弁が出てる。
笑い転げそうになるのを押し殺して、別の例文を指差した。
「せやな。こんな感じか?」
「いい感じですよ」
「どこがいい感じなん?全然分からんわ」
「大丈夫です。慣れです。慣れ」
「そうなん?」
「そうですよ。言葉遣いが違うだけで別人ですね」
「違和感しかないわ」
「面白いですね」
「アオイが楽しいんやったらいいんやけど」
「私は楽しいですよ。ヴォルドさんは楽しくないですか?」
「楽しくないわけないやん」
「楽しんでくれて私も嬉しいです」
「アオイ……」
「なんですか、ヴォルドさん」
「俺な、ずっとお前に言いたいことあってん」
「ヴォルドさん?」
「こんなん駄目やって分かってるんやけど……あかん」
彼が頭を抱えて塞ぎこむ。
「なにが駄目なんですか。顔を上げてください」
言いながら思わず手を伸ばす。行き場のない私の手がぎゅっと掴まれた。
塞いでいた顔を上げ、彼は困ったような表情で私の瞳を見つめる。
「……好きになってもうた」
「……」
「……」
「……ちょっとアオイちゃん、なにか言って」
次の瞬間、私は我慢してた分の笑い声を上げた。拍手もつける。
「すごい演技力ですね。俳優さんになれますよ」
「有難う。全然嬉しい気分にならないわ。なんなの、この例文は」
「関西弁でラブロマンスです」
「演技付とか細かいのよ」
「面白いですよね」
「そのひとことで片付けるアオイちゃんも凄いわ。それよりも、」
ヴォルドさんは強調するように言葉を区切り、私の後ろを指差した。
「彼の誤解を解かないといけないわ」
彼。疑問に思いながら私は後ろを振り向く。
「あ、ルミエールだ。お仕事の休憩中?」
椅子から立ち上がり彼の元へと駆け寄る。
ルミエールは無表情で立ち尽くし、私が傍によると彼がキッと睨んだ。
え、睨んだ?
「あの、なにか怒ってる?」
「怒ってるか怒ってないかと言えば、怒ってる」
「えっと、なにか変だよ?」
「変なのはアオイだ。ヴォルドと一緒なら大丈夫だと思った俺が悪いのか。間違ってたのか」
困惑する私の後ろでヴォルドさんが「間違ってないわ。アオイが変なのよ」と言う声が聞こえる。
「アオイ、俺と番になるのは嫌だったか?」
彼の言葉が唐突過ぎて言葉が出ずに視線だけを返す。
「……そうか。俺の家に無理に住まなくてもいい。直ぐに出て行っても――」
「えぇ?! 嫌だよ。帰るからね。私の家はルミエールの家だけだよ」
慌てて叫ぶ。どうして家を出る話になってるの、と詰め寄ろうと手を伸ばす。
彼は目を瞠り、私を引き寄せた。ぎゅううう、と強く抱きしめられる。
「ルミエール?」
成すがままの状態で聞くと、くぐもった声が返ってくる。ぐりぐりと頭を擦り付けられた。視界の端で尻尾がぱたぱたと動いている。
よく分からないけど、一頻り抱きしめられて離された。
お仕事の休憩中らしい狼の獣人である彼に引っ張られながら家に帰ることになった。
手は繋がれているけど無言のまま歩く。彼の横顔を盗み見た。
蜂蜜色の目が優しいので機嫌は直ったみたいだ。いつも優しいから怒った彼は珍しかった。新たな面を見れたからなのか無意識に笑顔が出てくる。それを誤魔化すように話しかけた。
「ルミエールは関西弁知ってる?」
「かんさいべん?」
「”やさしい関西弁講座”っていう本があるんだけどね」
先程のヴォルドさんとのやり取りも交えて説明した。
説明が終わるとルミエールが私の両肩を掴んだ。
「アオイ……」
眉間にしわも寄せている。
「なに?」
「その本を二人以上で読まないでくれ」
「それはお願い?」
「お願いだ」
そんなに耳を下げて言われたら無条件で頷きたくなる。
「わかった」
私の返事を聞き、ルミエールが安心したように息を吐く。
無条件で頷きたくなるのだけれど、お願いで返してみた。
「そのかわり、頭撫でていい?」
耳が触りたいと目で訴えかけてみる。
ルミエールは目を瞬かせた後、可笑しそうに笑った。
リクエスト有難うございました!
あまり強い関西弁ではないです。たぶん。京都よりの話し方も好きなので新キャラを出そうとしましたが挫折しました。言葉遣いで印象って変わりますね。