アザールの乱
神叛く砂
呂布がナヒーダを拉致したことを知ったアザールは、怒るどころか狂喜した。
彼は直ちに砂漠で兵を挙げ反乱を起こし、呂布と内外から呼応した。
セノとカンディスは奮闘して抵抗したが、結局挟み撃ちに抗いきれなかった。
方天画戟がセノの胸を貫いた時、アザールはカンディスの死体を踏みつけて狂笑した。
「神などというものは、強者の玩物に過ぎない。これより先、我こそが新たな神だ!」
赤王陵が落とす影は、午後の砂浜に長く伸び、まるで死にかけの巨大な蛇のようだった。風が砂礫を巻き上げ、アザールの臨時陣営の旗をなびかせ、バタバタと音を立てた。彼は影の縁に立ち、指先で璃月からの玉符をなぞっていた。あらゆる探知を遮断するというその玉符から、先ほど砕けたような、しかし心を揺さぶる映像が伝わってきた。知恵の主ブエル、表向きは臣従しながら、心の底では常に取って代わろうと企んでいた草神が、常軌を逸した巨体に不吉な猩紅の気を纏った異界の魔神に捕らわれている。その魔神の力は尋常ではなく、断片的な映像だけでも、アザールは魂の奥底から戦慄を覚えた。
恐怖ではない。興奮だ。
彼の口元はまず僅かに引きつり、やがて抑えきれない狂喜の笑いが、仮面を被り慣れた顔に広がり、次第に大きくなり、最後は喉の奥から湧き出るような低い笑いに変わった。機会だ!千載一遇の機会だ!ブエルが捕らわれ、神の座が空く。スメールを覆う古い秩序に、ついに致命的な亀裂が入った。そして賢明な我アザールが、この亀裂を自ら引き裂き、新たな秩序の礎となる。
「伝令を出せ!」
彼は一気に笑いを収め、背後に粛然と立つ甲冑の心腹の将に低く唸るように命じた。目には野心の炎が燃えていた。
「砂漠の各部、直ちに兵を挙げよ。目標は、異神と結託し草神様を謀殺した大風紀官セノ、及びその同党カンディスを殲滅すること!」
「殲滅」の二文字を、彼は強く噛みしめた。
命令は静かな湖に投げ込まれた巨石のように、波紋はたちまち怒涛へと変わった。砂漠に潜伏し待機していた鍍金旅団の各部は、アザールの長い計画による扇動と約束により、血のにおいを嗅ぎつけた砂蟻のように大小の営所から殺到し、刀剣の光が砂漠の空を刺した。
反乱が起きた瞬間、セノとカンディスは異変を察知した。遠くで砂塵が天に昇り、殺気立った叫びが風に乗って微かに聞こえ、それまで穏やかだったアール村の方角からも警報の煙が上がった。
「アザールだ」
セノの声は氷のように冷たく、赤砂の杖は既に手に握られ、杖先は反乱軍の来る方角を指していた。彼にこれ以上の証拠は要らなかった。アザールの神の権力への渇望、砂漠勢力への浸透は、既に公然の秘密だ。ただ、このタイミングで、これほど決別的な反乱を起こすとは思わなかった。
カンディスは盾と槍を固く握り、青金色の異色の瞳には厳粛さと困惑が溢れていた。
「なぜ……ナヒーダ様に危難が及んでいる時に?」
神が窮地に立つのに、臣下は救いにも行かず、内乱を起こす。それは彼女の人間の底辺への認識を超えていた。
考えている暇はなかった。アザールの反乱軍の先鋒は、主に扇動され略奪と権力を渇望する砂漠部族の戦士たちで、黄色い潮流のように彼らの仮設の陣地へ押し寄せてきた。セノは身を電光のように動かし、灼熱の雷光を纏って敵中に斬り込んだ。赤砂の杖が一振りされるたび、目も眩む雷蛇と飛び散る血しぶきが立ち、彼の通るところは人馬なぎ倒された。カンディスは一方を堅守し、鳶形の盾で飛来する矢や刀を的確に払い、手にした槍は毒蛇のように襲い、防衛線を突破しようとする敵を串刺しにし、跳ね飛ばした。
戦いは最初から異常に凄惨だった。反乱軍は数が多く、命を惜しまない。しかしセノとカンディスは圧倒的な個人武力と息の合った連係で、第一波、最も凶悪な攻撃を何とか食い止めた。陣地の前には死体が積み重なり、砂は暗紅色に染まった。
反乱軍の攻勢が少し緩み、セノが雷元素力を爆発させ一帯を清掃し、ほんの一息ついた時、突如異変が起きた。
戦場の側面、本来は安全な後方である砂丘の裏から、息もできないほどの圧迫感が唐突に噴出した。血のように真紅な狂暴な気塊が隕石のように戦場に叩きつけられ、気浪は格闘していた数十人の双方の兵士を吹き飛ばし、無惨な戦場に死の地帯を切り開いた。
煙塵が少し晴れ、魔神のように魁梧な姿が現れた。暗金色の鬼気迫る鎧、猩紅の天に届く雉鶏翎、そして底知れぬ凶気を放つ方天画戟。
呂布!
なぜここにいる?砂漠から遠く離れた場所でナヒーダを拉致しているはずではなかったのか?
セノの心は一気に沈み、最悪の推測が一瞬で浮かんだ。
アザールは、神を攫ったこの異界の魔神と結託していた!
呂布の出現は戦場の均衡を完全に崩した。彼は雑魚の反乱軍など一目もくれず、無表情で純粋な破壊欲に満ちた瞳で、場内で最も気の強いセノを直接狙い定めた。動いた。一歩踏み出すと、足下の砂が轟音と共に浅い穴を開け、姿は空気を引き裂く赤い稲妻と化し、方天画戟は万物を砕く威勢でセノに真っ向から襲いかかった。
「危ない!」
カンディスは叫び、盾を掲げて前進し、セノの負担を分担しようとした。
「ガシャーン!」
耳をつんざくような爆音!方天画戟はカンディスの盾に重く叩きつけられた。堅い木材と金属で包まれ、元素力を宿したその盾は、紙のように真っ二つに割れた!巨大な力でカンディスは全身を後ろへ弾き飛ばされ、口から血を噴き、砂の上に重く倒れ、しばらく起き上がれなかった。
「カンディス!」
セノは目を見開き、雷光が暴れ出し、赤砂の杖は全力で呂布の次の一撃に応えた。
戟と杖が激突し、雷光と血の凶気は狂ったように衝突し消滅した。しかし力の差は余りにも大きかった。セノは抗いがたい横暴な力が杖を伝ってくるのを感じ、手の甲は裂け、赤砂の杖は手からすっ飛びそうになり、全身を押されつけられて片膝をつき、足下の砂は細かく亀裂が入った。
呂布の顔には残酷な戯れ笑いが浮かび、獲物の最期のもがきを楽しんでいるようだった。即座にとどめを刺すことはせず、戟を振り回し、助けに来ようとする数人の大風紀官の部下を腰から両断し、四肢と内臓が一面に撒き散らされた。
この時、ずっと後方で指揮し冷徹に見ていたアザールが動いた。カンディスが重傷を負い倒れ、セノが呂布に完全に抑え込まれ、旧力が尽き新力が湧かない絶好の機会を見計らった。長く潜んでいた砂狐のように猛然と飛び出し、手には毒を塗った華やかな刀を持ち、もがきながら起き上がろうとするカンディスの後心へ、的確に、かつ執拗に刺し込んだ。
「シュッ」
刃は肉に食い込み、心臓を貫いた。
カンディスの体は猛然と硬直し、異色の瞳の輝きは一瞬にして失われた。振り返って背後の裏切り者を見ようとしたが、最終的に力なく温かい砂の上に倒れ、青金色の長髪は血に浸され、もう息も絶えた。
「カンディス――!!!」
セノは心を引き裂かれるような咆哮を上げた。雷元素力は持ち主の激しい悲憤によって制御不能に爆発し、一時的に呂布を半歩後退させた。血走った瞳は、血の滴る刀を持ち、得意げに笑うアザールをじっと見つめ、無限の怒りと後悔が彼の理性を焼き尽くさんばかりだった。
しかし、この一瞬の気の迷いは、呂布にとって致命的な隙だった。
無数の命を呑み込んだ方天画戟は、この一瞬の隙を捉え、視覚で追えない速さで、まるで毒竜のように暴れまわる雷光を切り裂き、的確にセノの胸へ突き刺さった。
「うっ……」
セノのあらゆる動き、あらゆる力は、この瞬間に完全に抜け落ちた。彼は頭を下げ、自らの胸から突き出た冷たく鬼気迫る戟の穂先を信じられないように見つめた。血は戟の溝を伝ってどんどん流れ出し、下に横たわるカンディスの冷め始めた死体の傍に滴り、一つに溶け合った。
視界は霞み始め、耳に響いていた震天する殺気立った叫びは急速に遠ざかった。
アザールは笑いながら歩み寄り、遠慮なくカンディスのまだ完全に硬直していない背中を踏みつけ、まるで誇るべき戦利品を踏んでいるようだった。方天画戟で串刺しにされ、生命力が急速に失われていくセノを見下ろし、顔には隠しきれない傲慢さと得意が浮かんでいた。
「見たか、セノ。これが大勢に逆らった末路だ!」
彼の声は興奮で甲高くなっていた。
「神などというものは、強者の手の中の玩物に過ぎない。ブエルがそうであり、お前たちが信じる道理も同じだ!」
彼は両手を広げ、まるで血塗られた戦場と果てしない砂漠を抱きしめようとするように、声を限界まで高め、狂気的に宣言した。
「これより先、我アザールこそが、スメール唯一の……」
呂布は無表情なまま手首を僅かに動かし、サッと方天画戟を引き抜いた。
支えを失ったセノの体は前に倒れ、最終的にカンディスの傍に伏せた。赤砂の杖はガチャリと音を立てて転がり落ち、杖の雷光は完全に消えた。
アザールの最後の言葉は、奔放に笑い声と共に、静まり返った空気に重く響いた。
「……新神!」




