表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/115

瓏ポート登録戦

潮風が塩気の湿った息を含み、「オペクル劇場号」の舷側を激しく叩きつける。フォンテーヌ海軍の旗艦であるこの船、そして後ろに続く数十隻の輸送船は、璃月海の朝霧を切り裂き、遺瓏埠いろうふという港へとゆっくり進んでいた。遺瓏埠は、かつて璃月沿岸に栄えた交易小港だったが、今やスネージナヤの勢力が支援する私兵・袁熙軍えんきぐんに占拠されている。


甲板には、フォンテーヌ最高審判官にして「影追い猟師」のクロリンデが戦闘着をまとい、銀灰色の短髪が風になびいていた。鷹のような鋭い視線で、次第に姿を現す港の輪郭を眺める。そこには翻る旗と、高台に築かれた防御施設がうっすらと見えていた。


「審判官殿」

落ち着いた声が傍らから響く。刺薔薇会しばらかい会長のナヴィアは、動きやすいフォンテーヌ軍官服に着替え、腰に愛用の双銃を差していた。「上陸部隊は全員準備完了です。第一陣は私の率いる『刺薔薇親衛隊』と、殿の『影追い猟師』が担当し、突堤上陸を敢行、岸辺の障害を掃討します」


クロリンデはわずかに頷き、冷ややかで揺るぎない声で告げる。「よろしい。袁熙軍は一万二千名に過ぎぬが、情報によれば勇猛な武将を擁し、地利を掌握している。我が軍三万は兵力で優位だが、上陸戦は常に危険に満ち、軽んじてはならぬ」一拍置き、補足する。「璃月から派遣された魔術師の支援は到着したか?」


「到着しております、審判官殿」

ナヴィアは脇を開け、近くに立つ璃月の伝統衣装を着た中年の男を指し示す。顔つきは剛毅で眼差しは深く、瑠璃の宝珠を嵌めた法杖を手に、目を閉じて周囲の元素の力と通じ合うように精神を統一していた。「あの方は璃月七星直属の高位岩元素魔術師・何赤哲かせきてつ様です。岩の棘で上陸路を整備し、遠距離から元素支援を行ってくださいます」


クロリンデは何赤哲に目を向け、頷いた。璃月の岩元素魔術師は防御と地形操作に長け、彼の助力があれば上陸の困難は大幅に和らぐ。


艦隊が迫るにつれ、遺瓏埠の守備兵も異変に気づいた。警報が甲高く鳴り響き、港の兵たちは瞬く間に戦闘態勢に入り、矢を番え、大砲の覆いを外し、迫り来るフォンテーヌ艦隊に照準を定める。


「上陸準備、完了せよ!」

クロリンデは腰の剣を抜き、朝日に刃が冷たく煌めく。「フォンテーヌの栄光のために!」


「正義のために!」

ナヴィアは双銃を掲げ、高らかに応える。


フォンテーヌの兵士たちは轟音の鬨を上げ、上陸艇が輸送船から降ろされ、矢のように岸辺へ突進する。


「何赤哲様、お願いいたします!」

ナヴィアは傍らの魔術師に声をかける。


何赤哲は目を開き、瑠璃宝珠の法杖先が強く光を放つ。呪文を唱え、印を結び、勢いよく前方へ振りかざす。「大地よ、我が召喚に従え!」


刹那、遺瓏埠前の浅瀬海底が激しく震動する。巨大で堅固な岩の棘が次々と海面から立ち昇り、臨時の石橋となって艦隊の上陸地点から港の砂浜まで続いた。予期せぬ異変に、袁熙軍は大混乱に陥る。


「矢を放て!大砲を撃て!」

袁熙軍陣中、武将らしき屈強で凶々しい男が怒鳴り散らす。袁熙麾下最強の猛将・高幹こうかんである。


矢は雨のように降り注ぎ、砲弾は風を切って飛ぶ。だがフォンテーヌの兵士たちは岩の棘の盾を頼り、果敢に突撃する。クロリンデは真っ先に敵陣へ飛び込み、剣光煌めく間に、迫り来る袁熙兵は次々と倒れる。ナヴィアの双銃は神出鬼没に、敵の弓兵・銃兵を精密に撃ち抜き、上陸部隊の道を開く。


何赤哲は旗艦の甲板に立ち、岩元素の力を絶えず操り続ける。岩の棘を築くだけでなく、岸辺に岩の盾を次々と出現させ、兵士たちを守る。同時に法杖を一振り、巨大な岩の槍が空から降り注ぎ、袁熙軍の防御施設を大半打ち崩す。


「忌々しい璃月の魔術師め!」

自軍の防御が容易に崩され、高幹は怒りを募らせる。彼自身も武術に長け、遠距離武器を得意とする。背から特製の大弓を取り、不吉な赤い光を帯びた魔破しの矢を二本番える——これはスネージナヤの技術で作られた特殊な矢で、元素生物や魔術師に多大な殺傷力を持つ。


高幹は深く息を吸い、電光のような眼差しで、遠く甲板で術を行使する男を狙い定める。この璃月の魔術師こそフォンテーヌ軍の要であり、彼を討てば上陸作戦は頓挫すると確信していた。


「シュッ!シュッ!」


二本の魔破しの矢は赤い稲妻となり、耳障りな風切り音を立て、戦場の混乱を無視して何赤哲に一直線に飛ぶ!


何赤哲は一心不乱に岩元素を操り、前線の兵士を支援していた。致命的な脅威を感じた時、既に手遅れだった。一本目の矢は心臓を貫き、二本目は眉間に突き刺さる。


「ぅ……」


何赤哲は呻き、法杖を手から落とし、ふらりと後ろに倒れる。深い瞳に最後に映ったのは、空に残る赤い矢の残像だった。


ポチャリ——


体は舷側を越え、冷たい海へ墜落し、瞬く間に激しい波に飲み込まれた。


「何様!」

壮絶な最期を目の当たりにしたナヴィアは、目を血走らせ、悲痛な叫びを上げる。


クロリンデもその光景を見た。瞳が瞬く間に収縮、冷徹な殺気が全身から迸る。「高幹……!」

歯を食いしばり、剣の振りは一層鋭く、一撃一撃に復讐の怒りが宿る。


何赤哲の犠牲は、フォンテーヌ軍の闘志を燃え上がらせた。兵士たちは怒号を上げ、津波のように岸辺へ押し寄せ、袁熙軍の防衛線を次々と打ち破る。


何赤哲を討ち取った高幹は、残忍な笑みを浮かべる。元素支援を失ったフォンテーヌ軍は混乱に陥ると思い込んでいた。だが彼は、フォンテーヌ兵士の勇気、そしてクロリンデとナヴィアの指揮能力を甘く見ていた。


「討て!何様の仇を討て!」

突撃せよ!遺瓏埠を落とせ!」


フォンテーヌ軍の攻勢はますます激化する。クロリンデは銀の稲妻の如く敵陣を駆け巡り、行く手に敵なし。ただ一つ、高幹を討つことだけを目的としていた。


ナヴィアは「刺薔薇親衛隊」を率い、鋭い刃のように袁熙軍の中枢へ突入する。双銃が致命の火を噴き、一発一発が命を奪う。


高幹も腰の刀を抜き、迫り来るフォンテーヌ兵に立ち向かう。武術に長け、一時は数名の兵士を討ち取るものの、瞬く間に包囲される。


「高幹、貴様の相手は私だ!」

クロリンデの氷のような声が耳元に響く。


高幹は顔を上げ、殺気に満ちた瞳を見て心を凍らせる。最強の敵と相まみえたと悟る。


瞬く間に激闘が繰り広げられる。クロリンデの剣術は迅速かつ精密、一撃一撃が必殺。高幹の刀術は剛勇で豪快、刃と刃が激しくぶつかり、火花が飛び散る。


周囲の敵を蹴散らしたナヴィアも戦いに加わる。双銃から絶えず銃弾を放ち、高幹を攪乱し、隙を与えない。


二人の高手に挟まれ、高幹は次第に力尽き、隙が増えていく。


「ブスリ……」


クロリンデは隙を捉え、一刀で高幹の左肩を貫く。


「ぁっ!」

高幹は絶叫し、刀を落としかける。


ナヴィアはその隙に双銃を発砲、二発の銃弾が高幹の膝を精密に撃ち抜く。


高幹は立てなくなり、どさりと膝をつく。起き上がろうともがくが、クロリンデに背を踏まえて動けない。


「貴様は何赤哲様を殺した」

剣の先を喉元に突きつけ、クロリンデは零度の声で告げる。「今、その報いを受けるがいい」


「殺せ……殺せばいい……!」

敗北しても、高幹は強情を張る。


クロリンデの瞳に殺気が宿り、手首を軽く動かす。


「シャア……」


血が噴き出し、高幹の首は地に転がる。


主将を討ち取られた袁熙軍の防衛線は完全に崩壊し、兵士たちは散り散りに逃走する。


「追撃せよ!一人も逃がすな!」

ナヴィアが高らかに命じる。


フォンテーヌ軍は勝利の勢いに乗り、残党を一掃し、袁熙軍を遺瓏埠から完全に追い出す。


戦いは終わった。


夕陽が沈み、遺瓏埠の海面は真っ赤に染まる。潮風はもはや塩気ではなく、濃厚な血の匂いを運んでくる。


遺瓏埠の砂浜には、双方の兵士の死体が無造作に横たわる。フォンテーヌ軍は勝利を収めたものの、多大な犠牲を払った。


クロリンデとナヴィアは岸辺に立ち、壮絶な光景を眺め、勝利の歓びなど微塵もなく、ただ重たい憂いに包まれていた。


「損害を集計せよ」

クロリンデは掠れた声で命じる。


「はい、審判官殿、会長殿」

副官が即座に報告に向かう。


やがて副官が戻り報ずる。「今戦、我が軍三万の兵力中、戦死者約三千名、負傷者五千余名。敵軍一万二千名、討ち取り六千余名、捕虜二千余名、残りは逃走四散」


敵六千を討ち、味方八千を失う——痛ましい辛勝だった。


ナヴィアは穏やかな海面を眺め、悲しみに暮れる。「何様……私たちは勝てました。でも貴方は……」


クロリンデは黙って海辺へ歩み、何赤哲を飲み込んだ海を眺め、複雑な思いに囚われる。この勝利は、多くの兵士の血、そして敬愛すべき璃月の魔術師の命で得られたものだと知っていた。


「彼を忘れはしない」

クロリンデは微かな震えを含み、穏やかに囁く。「遺瓏埠の勝利には、彼の功績がある。彼の事績をフォンテーヌへ持ち帰り、璃月から来た英雄が正義と平和のため、この地で命を散らしたことを、全員に知らしめよう」


潮風は相変わらず吹き抜け、戦いの壮絶さと英雄の悲歌を語り継いでいる。遺瓏埠の旗は再び港に翻るが、この勝利の代償は、戦いを経た者全員の心に重く刻まれ、忘れ難いものとなった。


戦いは終わったが、新たな試練は、今始まったばかりかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ