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魔力が無いから王族とは結婚出来ないのに、王太子殿下が婚約者候補から外してくれません  作者: 石月 和花


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33. アディルナの祝辞

「お兄様、それはご心配には及びませんわ。私が魔力を持っていないのは周知の事実ですもの。今さら引け目など感じません。それよりも……どうしましょう。私が考えてきた祝辞ではお二人の流れに乗れませんわ。そっちの方が問題ですわ!」


 私は大真面目にお兄様にこの窮地を訴えた。

 すると、お兄様は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をされたのだった。


「ん……?んん??」


 お兄様は何か困惑していたが、私は構わず話を続けた。


「だってほら、リリエラ様もローゼリア様も、『私は何々が出来ます、だから何々をして殿下をお支えします』って重ねてきていますもの。これは、私もその流れに乗らないと恥をかきますよね?!」


 そう、私は魔力の有無を比較されるよりも、お二人がほとんど同じ構成で祝辞を述べられた以上、私だけ全く違う祝辞では、機転の利かない娘として我が家の評判に関わると焦っていたのだ。


「いや、違うだろ気にするところ!!」


 お兄様がすかさず私の考えを否定されたが……何を言っているのだろうか。気にすべきは、どう考えてもこちらの方だ。


 こうなったら即興で祝辞を変えるしかないと、私は腹を括った。大丈夫、ロキシード様にお伝えしたいことなら、いつも胸の中に山ほどあるのだから。


「いいかアディルナ、無理に合わせなくて良いんだよ。元から考えてきていた文章で――」

「いいえ、お兄様。逃げの姿勢は良くないですわ。大丈夫です、上手くやって見せますから」


 そんな事を話している間に、ついに私の名前が呼ばれた。


 その瞬間、私たちは無駄口を止めて、姿勢を正した。


「……行こうか、アディルナ」

「はい。参りましょう」


 これでも侯爵家の人間である。即座に気持ちを切り替えて、”この場に相応しい顔”を作った。そしてお兄様は腕を差し出し、私はその腕にそっと手を添える。


 完璧な仕草で、私たちはゆっくりとロキシード様の御前へと進んだ。




 殿下の御前に進むと、煌めく大広間の視線が一斉に集まり足元が少しだけ震えたが、私は深く礼をして、静かに息を整えながら口を開いた。


「ロキシード殿下におかれましては、御成人の儀、誠におめでとうございます。

 殿下の今後ますますのご健勝とご活躍を、心よりお祈り申し上げます。

 僭越ながら、私も殿下のお力となれますよう励んでまいります。

 私は魔力こそ持ちませんが――その分、武芸を磨いてまいりました。

 この身が動く限り、剣を執り、盾となり、民を脅かす危険から一人でも多くの方をお守りいたします。どうか殿下、私の武を、国の安寧のためにお役立ていただければ幸いに存じます」


 決まった……

 言い終えた瞬間、なんとも言えない達成感に満ち溢れていた。


 私には魔力が無いけれども、それを補うために剣術や体術といった武芸を学んできていた。それが、私にとって魔力に変わる誇れるものだったので、前の二人の流れに乗って即興で祝辞に組み込めた事に満足し、得意満面の笑顔でロキシード様をみつめた。


 すると、ロキシード様は、大変楽しそうに微笑まれたのだった。

 いつもの仮面の笑みじゃなくて、彼の心が垣間見れる、優しい笑顔で。


「アディルナ嬢は、頼もしいね」

「はい、任せてください。この間だって裏路地でガラの悪い男たちに絡まれていた女の子を助けましたわ」


 私がそう言うと、なぜか一瞬の間が生まれた。


 そして殿下は、笑顔を崩さずに、私ではなくお兄様の方を見て、一言言葉をかけたのだった。


「……ウォーグル、苦労が絶えなそうだね」

「……勿体無いお言葉です……」


 この二人のやり取りが何を意味していたのか私には分からず、そんな二人を私は不思議そうに見つめるばかりだった。すると、殿下は再び私に向き合うと、優しく諭すような口調で言葉を紡がれた。


「アディルナ嬢、国民を思う気持ちは嬉しいが、あまり危険な事はしないで欲しいな」

 

 その声音は、私のことを本気で案じているのだと分かるほど柔らかかった。


 だから私は、殿下を安心させたくて、胸を張って、つい最近にあった出来事――悪漢から女の子を助けた時の様子を説明した。


「大丈夫ですわ!流石に五、六人以上は私一人では無理なのは自覚しておりますから無茶はしませんわ。四人までなら実績がありますから大丈夫ですわ!」


 すると――

 再び生まれる、沈黙の間。


 気付くと殿下の笑顔はぴたりと固まり、隣に立つお兄様の表情もどこか引きつっていた。


「……ウォーグル」

「すみません!後でよく言って聞かせますから!!」

「一体何をですの?!」


私は訳が分からず、すかさずお兄様に問い返した。

すると、お兄様は私の耳元に顔を寄せ、低く鋭い声で告げたのだった。


「……いいか、今ここでお前がする事は淑女らしく礼をして、殿下の前から下がる事だ。これ以上何も言うんじゃ無いぞ?!僕の胃はこれ以上持たないんだよ!」


 お兄様の表情がとても切迫しているように見えて、ここで私は、お兄様の切実な想いをようやく察した。


「まぁ大変!お兄様体調が悪かったんですかね!申し訳ございません殿下、兄を休ませたいので私たち下がってもよろしいでしょうか」


 私が殿下に進言すると、お兄様は深々と頭を下げたまま、そろそろ限界といった様子で肩を震わせていた。これはいよいよ、急いだほうがよさそうだ。


「……申し訳ございません殿下……」

「あ……あぁ。下がってくれて構わないよ。アディルナ嬢また後で。ウォーグルは……これ以上胃が痛くならないと良いね」

「……勿体無いお言葉です」


 殿下にお許しを貰うと、私たちは深々と礼をして、その御前から下がった。


 隣にいるお兄様は、よく見るととても顔色が悪かった。私は、お兄様が体調が悪いのに無理をして私のエスコートをしてくださった事を申し訳なく思い、一刻も早くお兄様を休ませたかった。


 だから私は壁際に椅子を見つけると、一目散にその場所へお兄様を引っ張って行ったのだった。


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