22. 私の気持ち
殿下がお帰りになったあと、お父様もお母様も、勿論お兄様も、元気がない私をいつも以上に気にかけて、甘やかしてくれたのだった。
しかし私は、そんな家族の優しさを持ってしても、どうしても元気になれなくて、一日中部屋の中でベッドに突っ伏していた。
誰も口には出さなかったけれど、家族全員が「アディルナは殿下の婚約者候補から外されるだろう」と思っていたので、しばらくの間私が部屋に引きこもっていても、何も言わず、そっと見守ってくれていた。
そして、部屋に引き籠って四日が経った。
「アディ、調子はどうだい?」
お兄様はあの日から毎日、私の部屋に様子を見に来てくれている。
……後から聞いたが、私がまた逃げ出さないように監視も兼ねていたらしいが、私はそんなお兄様の気苦労など露知らず、お兄様の優しさを素直に受け取っていた。
「お兄様、お気遣いありがとうございます。大分気持ちも落ち着きましたわ」
「そうか。……うちは権力とか派閥とかには縁遠い。だからそんなに落ち込むな。お前は良く頑張ってたよ。」
お兄様はベッドの端に腰を下ろし、私の頭を優しく撫でてくれた。
幼い頃から変わらない慰め方で、その手の温かさに少しだけ心が軽くなる。
けれど、今回の悲しみは、お兄様のその手を持ってしても、なかなか小さくならなかった。
「お兄様、私……自分が思ってたよりもずっと、殿下の婚約者候補から外れるのがショックだったみたい。とても嫌だと思ったわ」
ここ数日、私は自分が何にそんなに悲しんでいるのかをずっと考えていた。
そして、ようやく整理出来た気持ちを、私はお兄様にゆっくりと打ち明けた。
「そうか。アディルナはそれが悲しかったんだね」
「だってお兄様。私……殿下に一度も勝てていないんです」
「うん……うん??」
私を撫でるお兄様の手が一瞬止まったが、私は構わずに話を続けた。
「”参った”って言わせるって約束したのに、一度も勝ててないんです。それなのに、私に魔力が無いから、もう殿下と勝負出来ないなんて……悲しいです!!」
私は大まじめに自分の整理した気持ちをお兄様に話した。すると、なぜかお兄様は額に手を当てて俯いてしまったのだった。
「これは……アディの調子が戻ってきたと喜ぶべきだろうか、それとも妹の令嬢らしからぬ発言に嘆くべきだろうか……」
何か意味の分からないことを呟いているお兄様を無視して、私はさらに続けた。
「殿下と一緒に、この国を良くしていこうとも約束したのに……。お兄様、私、王太子殿下の婚約者候補から外されるのが悲しいのではないわ。ロキシード様と会えなくなること、約束が守れないことが悲しいのだわ……」
そこまで言って、私は大きく息を吐いた。
自分の中でモヤモヤしていた気持ちを具現化出来て、やっと少し落ち着けた気がした。
……と、思ったのだが、お兄様は予想外なことを私に告げたのだった。
「確かに今後は殿下と勝負なんて馬鹿なことは出来なくなるとは思うが、殿下とは会えるだろう?もうすぐいらっしゃるぞ?お前、いい加減支度をしなさい。いつまでそんな恰好で寝ているんだ」
「えっ??ロキシード様が??!そんなの聞いていませんわ!」
「二日前に伝えてるよ。……ったく、お前、話を聞いていなかったな?」
お兄様の指摘は図星で、確かに二日前そんなようなことを言っていたような気がするが、その時の私は自分の気持ちを整理するのに精一杯で、人の話をほとんど聞いていなかったのだ。
「どうして……殿下は何をしに来るのでしょう?魔力が無い私になんか、もう用は無いはずなのに……」
「お前、それ本気で思っているの?」
「えっ?」
「まぁ、殿下が何を考えているか僕が分かる訳ないだろう?、そんなの本人に聞きなさい」
そう言い残してお兄様が呆れながら部屋から出て行くと、私は慌てて侍女を呼び身支度を始めた。
(確かに”日を改める”って言ってたけど、あれは、社交辞令じゃなかったの??)
まさか本当に殿下が“日を改めて”来てくださるとは思っていなかったので、頭の中は混乱しっぱなしだった。




