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魔力が無いから王族とは結婚出来ないのに、王太子殿下が婚約者候補から外してくれません  作者: 石月 和花
本編

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20. 魔力測定

 魔力測定の儀式。


 この国では、十二歳になると誰もが神殿で魔力測定を受ける決まりになっている。

 魔力保持者は珍しく、魔力があると分かった者は、その力を国の為に使うと義務付けられていた。


 魔力保持者は貴族に多く、とりわけ高位貴族には高魔力者が集中していた。

 お父様もお母様も、そしてお兄様も例外ではなく、我が家は代々高魔力を誇る名門だった。


 だから私も、当然にように高魔力であると期待されていた。


 そう、期待されていたのに……。


 私が振れた魔力を測定する水晶は、一切輝きを発しなかった。


 そう、一切光らなかった。


 まるで石そのものが眠っているかのように、微動だにしなかった。


 それが意味する事……それは即ち私には魔力が無いということだった。


(ど……どうして……?)


 私は動揺した。

 だって、お父様もお母様もお兄様も、皆が高い魔力を保有しているのに、私だけ魔力が無いなんて、そんなの……そんなのってありえない。


 測定を行った神官も、見守っていた両親も、誰もが動揺していた。

 空気が凍りついたように、神殿は静まり返った。



「なんで??どうして?!」


 私は何度も水晶に触れた。けれども何度やっても結果は同じだった。


「ハルスタイン侯爵令嬢、水晶が反応しないという事は……言い難いのですが、貴女には魔力が無い、ということになります」


 同情の色を馴染ませた声で、気の毒そうに神官が測定結果を告げた。


「何かの間違えではないのかっ?!」

「残念ながら、水晶は正常に作動しています」

「そんな……」


 お父様とお母様が何やら神官と何かを話していたが、その声は遠く、霞がかかったようで、私の頭には入ってこなかった。


(お父様とお母様の子なのに、私、魔力が無いの……?!)


 魔力が無い。

 その事実が胸に突き刺さり、私の頭の中は真っ白になった。



***



 帰りの馬車の記憶は、ショックであまり覚えていない。気がつけば、私は自分の部屋のソファに座り込んでいた。


(私に魔力が無いなんて……これからどうしよう……もう、侯爵家には居られないわ……)


 高魔力保持者のお父様とお母様の子供なのに、魔力が無いなんてあり得ない。

 つまり――私はお父様とお母様の子供ではないのだ。


 そう思い至った瞬間、胸の奥がぎゅっと傷んだ。

 本当の家族ではないのなら、これ以上侯爵家に居るわけにはいかなかった。


 私は、悲しい気持ちで胸がいっぱいになりながら、自分が持っている中で一番大きい鞄を取り出して、必要そうな物を手当たり次第に詰め込み始めた。


 するとそこへ、お兄様が私の様子を見にやってきたのだった。


「アディ、大丈夫か……って荷物なんかまとめて何してるんだ?!」

「何って、このお家にこれ以上置いていただくわけにはいきませんから、出ていきますわ!」


 パンパンに膨れた鞄の口を無理やり閉じながら、私はきっぱりと言い放った。

 準備は万端。あとは出ていくだけ――のつもりだった。


 けれどお兄様は、慌てた様子で私を引き止めたのだった。


「そこまで思い詰めなくていいんだよ!魔力が無いからって、誰もお前を責めたりしないよ!」

「いいえ!血の繋がりが無いと分かったなら、これ以上お世話になるわけにはいきませんわ!!」


 本当は、お父様もお母様もお兄様も大好きで、離れるなんて考えたくもない。

 でも、どこの誰とも知れない私が家族のふりを続けるなんて、烏滸がましいことくらい分かっていた。

 だから、自分から出て行くというのに、お兄様はさっきより強く私を止めた。


「……なんでそうなるんだよ!お前は変に思い込みが激しいな!お前が出て行く必要なんてないよ!!」

「だって、お父様もお母様も高魔力保持者なのに、その娘の私が魔力無しだなんておかしいじゃないですか!私は、拾われた子なんですわ!!」

「あぁ、もうっ!!お前は正真正銘、僕の妹だよ!」


 魔力が無いと分かっても、まだ私を妹と呼んでくれる……そんな優しいお兄様に、私は涙を堪えて、にこりと微笑んだ。


「お兄様はお優しいですね。でも……情けは無用ですわ!!!」


 断腸の思いでお兄様に背を向けると、私は勢いよく窓へ走り、そこから外の木に飛び移った。


「どこでそんな言葉覚えてくるんだよ!戻ってこい!!」


 部屋の中からお兄様の叫び声が聞こえたが、私は振り返らずに木を滑り降りた。

 まさか殿下との勝負の為に続けていた訓練が、こんな形で役に立つとは思わなかったけれど、そのお陰で私は令嬢らしからぬ動きで部屋から脱出することが出来たのだった。


(お兄様、お父様、お母様……どうかお元気で……)


 心の中で侯爵家の面々に別れを告げると、私は地面に降り立った。

 後はもう一度引き止められる前に侯爵家から出て行くだけ――と、思っていたのに、事態は私の思うようには行かなかった。


「アディ……何をしているんだい?」

「で……殿下?!」


 私が降りた場所には、まるで待ち構えてたかのようにロキシード殿下が立っていたのだ。


「殿下こそ、こんな所で何をしているのですか?!」

「何って、今日会いに来るとこは前もって伝えてあったよね?」


 魔力が無いショックで頭からすっかり抜けていたが、そういえば今日の午後ロキシード様が我が家に来る予定だった。私は”もちろん覚えていましたわ”という体裁で、話を続けた。


「そ、そうでしたけども、それなら応接室に居るのが普通では?なんでこんな所にいらっしゃるの?!」

「そうだね。そのつもりだったけど、屋敷に到着したら、なにやらこちらの方が騒がしかったのでね。様子を見に来てみたら、君が窓から抜け出してくるところだったので、ここで待ってみたんだ。」


 ロキシード様は、いつもの柔らかな笑みを浮かべているものの、腕を組み堂々と立ち構えていて、私はこの後叱られそうな雰囲気だった。


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