1. 魔力無し令嬢と王太子
「ですから、魔力のない私がいつまでも殿下の婚約者候補でいるのは、この国のために良くありません!ロキシード様の温情は大変ありがたいのですが……この国の未来のためにも、私に情けは無用ですわ。さぁ、覚悟はできておりますから、いつでも私を候補から外すご決断をしてくださいませ!!」
「うん。まぁ、それについては追い追いね。」
「殿下はいつもそうやってはぐらかします!もっと真剣に聞いてくださいませ!王家には黒龍を封印する責がありますのよ?国を守るためには魔力のある王妃が必要なんです!魔力のない私にいつまでも構っているのは良くないですわ!!」
――このやり取り、何度目だろう。
陽の光が白い石畳に反射し、噴水の水音が静かに響く王宮の中庭で、何度繰り返したか分からないやり取りを、私アディルナ・ハルスタインは、今日もこの国の王太子ロキシード殿下と繰り広げていた。
私は十歳の時、ただ「年齢が釣り合う」という理由だけで王太子ロキシード殿下の婚約者候補に選ばれた一人だった。
だから今日も殿下と向かい合い、温かい紅茶を挟んで座っている……のだけれども、どれほど親しくなっても、私が殿下の正式な婚約者に選ばれることは絶対にないと分かりきっていた。
なぜなら、この国の王族には黒龍を封印する役目があり、その伴侶には強い魔力が必須なので、魔力が無い私が選ばれることは絶対にないのだ。
本来なら十二歳の魔力測定の儀で「魔力なし」と判明した時点で、私は候補から外されているはずだった。
それなのに、政治的な思惑やら何やらが絡み、私はいまだにこうして殿下とお茶を飲んでいる。
(殿下は……一体何を考えているのかしら。私なんかに構ってないで他のご令嬢ともっと交流を持つべきなのに……)
私は胸の内で一つため息をついた。
私がこんなに悩んでいるのに、当の殿下はそんなこと微塵も気にしていない様子で、真っ直ぐに私を見つめてくるのだ。
そして、甘い言葉を囁く……
「アディは、僕とこうしてお茶を飲むのは嫌かい?僕は毎回楽しみにしてるんだけど」
「い、嫌なわけないですわ!わ、私だって毎回楽しみにしてますわ!!」
「良かった。僕だけが楽しみに思っているんじゃなくて」
柔らかい微笑みを携えた、優しい声色での問いかけに、私は思わず声が上擦ってしまった。まるで私に会いたかったと誤解しそうな言葉に、胸がドキリと跳ねてしまった。
私は少し赤くなった頬を悟られぬよう俯き、カップに口をつけて誤魔化した。
(……駄目よ誤解しちゃ。殿下は他の候補のご令嬢にも同じことを言うわ。それに……殿下の“楽しみ”って、そういう意味じゃなくて……)
紅茶を一口飲んで落ち着きを取り戻すと、そっと殿下の顔を見上げる。そこには、完璧に作られた偽物の微笑みがあった。
(あ……いつもどおりの殿下だわ……)
その笑顔を見て完全に冷静になった私は、もう一口紅茶を飲むと、殿下に負けじと、同じように外向けの飛び切りの笑顔で言葉を返した。
「殿下の楽しみと、私の楽しみは……恐らく種類が違いますわ」
「そうかな?」
「えぇ、そうですわ」
十歳から七年の付き合い。彼の考えは良く分かっていた。
(殿下が楽しみにしているのは……私に会うことじゃなくて、私が持ってくる“勝負事”なのよね……)
そう、私たちのお茶会には“毎回勝負をする”という奇妙な決まりがあるのだ。
……一度も勝てたことはないけれどね。
「それで、アディ。今日はどんな勝負事を用意してきてくれたんだい?」
(ほら、やっぱり……殿下の楽しみと私の楽しみは違うわ)
予想通りロキシード様は勝負事をご所望された。私は少しだけ残念な気持ちになったけども、直ぐに気持ちを切り替えて、胸を張り、堂々と殿下に宣戦布告をした。
負けられない戦いがそこにあるのだ。
「えぇ。私、今日こそは殿下に『参った』って言わせる勝負を用意してきましたわ!覚悟してくださいね!!」
「へぇ、それは楽しみだ」
私の強気な態度にも、殿下はいつものようにニコニコしてこちらを見つめてくる。彼は常に余裕綽綽で、まるで私に負けるわけがないといった態度なのだ。
けれども、私にだって殿下を絶対に負かすという意地があった。だから今日は、とっておきの秘策を用意してきたのだった。
(殿下、そのように笑っていられるのも今のうちだけですわ!)
私は胸の中でほくそ笑むと、満を持して今日の為に作らせた特製のクッキーを侍女に持ってこさせた。
数年ぶりに10万文字オーバーの作品書きました。よろしくお願いします。
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