非常識な人
「シャーロット様、お願いします。お母さんを助けて下さい」
何だって…。
お祭りの次の日だよ?
私は社の扉を開けて慌てて飛び出る。
「どうしたの?お祭りの魔法で病気や怪我が治らなかった?」
「そうなんです。お母さんがお祭りが近いから我慢すると言っていたのですが、良くなりませんでした」
女の子が泣きながら話してくれた。
お祭りは皆が楽しまないと駄目なのに。
「駄目だよ。次からはお祭りの前に言ってね。すぐにお母さんの所に案内して」
「はい!ありがとうございます」
走る女の子の後を付いて行く。
感情の把握が甘かった。
そこまで注意深く見てなかった。
事件や事故に繋がる感情しか把握していなかった。
これは私の失態だ。
今後は心配する感情も我慢する感情もなるべく把握しよう。
「ここです。お母さん、シャーロット様が来てくれたよ!」
「そんな…。大丈夫だと娘には言っているのに、すみません」
本当にお母さんはこういう人が多いよ。
子供に辛い所を見せないように我慢するんだ。
私がいるんだから、辛かったらすぐに言えばいいのに…。
ほんとに、もう。
「お母さんも我慢しないで。お祭りを楽しめてないから駄目だよ。少し診せてもらうね」
「はい。すみません」
女の子のお母さんを注意深く見る。
汚い色の魔力に包まれている。
こんなのは初めてだ。
「お母さん、呪われてるよ。解除する事も出来るし跳ね返す事も出来るけど、どうする?」
「呪いですか…。別れた夫が誰かに頼んだのかもしれませんね。夫に跳ね返す事は出来ますか?この子を売ろうとした罰を与えたいのです」
女の子を売ろうとしただって!
本当は滝つぼにしたいけど、お母さんの罰で許してあげるよ。
別れた夫には会いたくないだろうし、ここに呼ぶのは止めよう。
「お母さん、夫の顔を見せてもらうね。記憶を覗いてもいいかな?」
「はい。よろしくお願いします」
お母さんの額に手を置いて記憶を探る。
こいつか…。
気配を記憶して探知範囲を拡大。
10㎞、20㎞、30㎞、いた。
「ここから30㎞ほど離れた所にいるみたい。じゃあ、送るよ。呪術反射、良し。ちゃんと呪いに罹ったね。人を呪うなんて非常識な男だよ」
「ああ、楽になりました。ありがとうございます」
「シャーロット様、ありがとうございます」
2人はお祭りを楽しめてないから、まだ駄目だよ。
せめて、リンゴ飴だけでも女の子にあげないと。
「気にしないで。お祭りで気付かなかった私が駄目だったんだよ。次からは呪いも気をつけるね。ちょっと待っててね。転移魔法」
リンゴ飴を売っているおじさんの所にやってきた。
まだ売っていたらいいんだけど…。
「おじさん。リンゴ飴ってまだ売っているかな?」
「おや、シャーロット様。リンゴ飴ならお祭りから1週間売っていますよ」
「良かった。じゃあ、1つ下さい。今はお祭りじゃないから値段が違うよね。いくらかな?」
「子供に売るお菓子の値段は変えていません。200ギルです」
おじさんに200ギルを手渡す。
「そっか、おじさん優しいね。じゃあ、1つ下さい」
「はい。毎度ありがとうございます」
おじさんからリンゴ飴を受け取り、女の子の家に転移魔法する。
「お待たせ。君にプレゼント。少しだけどお祭りの気分を楽しんでよ」
「あ!リンゴ飴だ。ありがとうございます。シャーロット様」
「本当にすみません。ありがとうございます」
2人とも笑顔になって良かった。
本当はお祭りを楽しんで欲しかったけど、次からは気をつけるからね。
このように街の防衛が万全になっていきます。
リンゴ飴はシャーロットの思い出の品ですから気持ちが入っています。