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Realita reboot 第一幕  作者: 北江あきひろ
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11月10日-3



「か…かなえさん…これって…い、いったい…?」


「だ…だからあたしに判る訳ないでしょッ!! 少し黙ってて!!」

「……っ!! す、すいません…っ!」


 …僕の疑問に返ってきたのは、悲鳴のような、叫びのような金切り声だった。

でも、それも当然と思えるぐらい、かなえさんの表情からは、いつもの余裕が…

欠片も感じられない。


 ……その身体は絵依子と同じに、かすかに震えてさえ…いる。



「……っ…」


 そして、それは真都も同じだった。青ざめた表情のまま、かすかにその体を

震わせ、力の中心と思しき方向を凝視している。

 …いったい何が起きているのか、まるで僕には見当もつかない。分かるのは

ただ一つだけだ。

 自分の力に絶対の自信を持っているはずの真都が震えている。そんな……

とてつもない力を持った「何か」が、いきなり現れたということだけだ。


「ま、真都……?」

「………っ。瞬ヤン……」


 落ち着かない様子の真都が僕を見る。何か言いたそうに、何度も何度も

口を開きかけては閉じ、またそれを繰り返す。



「真都……? さ、さっきからどうしたんだよ……」

 幾度目かの僕の問いかけに、ようやく真都の唇がぴたりと止まった。


「…いや。何でもあらへんよ。ウチ、用事思い出したさかい、そろそろ行くわ。

打ち上げはまた今度な!!」


「え? お、おい、真都!」


 僕の呼びかけに振り向きもせず、真都は風のように走り去っていった。かん

かんと非常階段を駆け下りる音だけが、徐々に遠く小さくなっていく。

 少しして、その音も完全に消えた。



「ま…真都? 用事って…こんな時間に…?」


「…あ…あの子…、まさか……!?」


 呆然と真都の背中を見送っていた僕の耳に、ふいにかなえさんの震えた声が

飛び込んできた。


「まさかって…? 何なんですか? かなえさん…」

「…あの子…、…まさか…アレと戦う気じゃ…!! な、何考えてるのよっ!!」


「た…戦う!? 真都が!?」 


 …その言葉に、一瞬僕は耳を疑った。真都をして化け物と評する、かなえさん

をも怯えさせるような「何か」と……真都が!? 


「ちょ、ちょっと待ってください…! このアレって……会士…なんですか?!」

「…………判らないわ。でも、もしあたしの想像通りなら…」


「……? ど、どういう…ことです……?」

「…むしろ会士であってくれたほうが、ミャオっちにはラッキーでしょうね…」


 かなえさんの言ってることは、以前にもまして意味が分からない。でもいまだに

蒼白な顔のかなえさんの言葉から、尋常ではない緊迫感だけはひしひしと伝わって

くる。


「…そんなワケの分からないヤツに…真都が…戦う……?」

「…戦いになんかならない…! そんなのを云々する次元ですら無いわよ…!」

「………!!??」


 かなえさんの絞り出すような声に、僕は言葉を失った。このかなえさんが、ここ

まで恐れるということは、真都では「戦いにすらならない」というのも大げさでは

ないのかもしれない…。


「…っ! つ、連れ戻しましょう!! 今ならまだ追いつける!! 絵依子、

おまえはここに残ってろ!!」


 絵依子を体から引き離し、すぐさま僕は駆け出そうとした。が、絵依子は僕の

上着を掴んだまま、離そうとしない。


「絵依子……!」

「……わたしも行くよ。お兄ちゃん一人じゃ危なっかしいもん。それに……

戦うんじゃないんだよね? だったら大丈夫だよ」


「…ば、バカ! 今の話を聞いてただろ! いいからおまえはここにいろ!! 

…行きましょう! かなえさんっ!!」

「…ぇ、あ、ぅ…うん。で……でも……」


 そう言って促したものの、かなえさんの身体は今もかすかに震え続けていた。


 ……まるで…あの時の僕と同じだ。学校の屋上で戦っていた絵依子の元に

行こうとした時の僕と。

 動こうと思っても身体が言う事を聞かなかった……あの日の僕とかなえさんが

重なって見える……。


「………っ!!」

 たぶん、このままかなえさんは動けないだろう。あの日の僕のように。

 …だったらやることは一つだ。動ける僕一人だけでも、真都を止めに行く!



 そう決心し、駆け出そうとしたものの、絵依子の手はいまだ僕の服を掴んで、

離してくれそうにない。

 早く追わないといけないっていうのに……!


「絵依子! いい加減に……」

「イヤだよ! こんなところでお兄ちゃんと離れ離れになるのは……嫌っ! 

絶対に嫌!!」


「……え…絵依子……」


 まっすぐに僕を見る絵依子の目は…かすかに涙が滲んでいるようだった。

そして、何があろうと譲らない。はっきりとそう目が語っていた。


「…く…っ。しょうがない。ここで押し問答してても時間の無駄だ。行くぞ

絵依子!」


「そうね……手遅れになる前に連れ戻さなきゃ!」

「え…? か、かなえさん……?」


「…ごめん。もう大丈夫だから。さ、行くわよ二人とも!!」


「は…はいっ!」


 そう言いながらも、いまだ顔は蒼白なままのかなえさんが、大きな声で僕たちを

うながした。

 それはもしかしたら、自分を鼓舞するための大声だったのかもしれない。


 大きくうなずいてから、僕たち3人は全速力で階段を駆け下り、真都の後を追い

始めた。

 …かなえさんが言うには、『力』の中心はここから大体1キロほど離れたビル

街だ。つまり、そこが僕たちの目的地でもある。


 真都がもし、その「何か」と本当に戦うつもりなら、当然…そこに向かって

いるに違いないからだ。


 夜の街には真都の姿どころか、気配すら無かった。いや、そもそも…人の気配が

まったくしない。

 以前に真都が言っていたように、「位相」とやらがズレてるせいなんだろうか。

でも、絵依子もかなえさんも、錬装しているわけではない。


 いくら深夜とはいえ、こんなことが有りえるんだろうか……。


 …そして近づくにつれ、さっきから感じていた違和感がどんどんと強くなって

いく。僕でも感じられるほどの異常を、絵依子とかなえさんはもろに感じてる

ようで、そうとう苦しそうだ。


 おまけにこれは、和夫が操っていたメディウムから感じられていたような……、

そんな気持ちの悪さをも持っている。

 何も知らなければ、絶対に近寄りたくない。そんな空気…オーラが街中に

立ち込めている。



「瞬弥クン! いい!? 見つけたらすぐに止めるのよ! おかしな事は考え

ちゃダメよ! 絶対に!!」

「…分かってます! 真都を見つけたら、速攻で連れて逃げればいいんです

よね!?」


 とは言いながらも、果たして真都を止めることが出来るのか、どうすれば

止められるのかを僕は考えていた。

 …説得できればいい。でも、あいつが僕たちの説得に耳を貸してくれる

だろうか。



 いや……! 考えても仕方ない! とにかく真都を見つけることだ。今は

それしかない!






「くそっ…まだ追いつけないのか……!」


 いくら真都が怪物や絵依子よりも強いと言っても、スピード自体は普通の人間

と同じか、少し上ぐらいに過ぎない。錬装した絵依子やかなえさんのような超人的

スピードには遠く及ばない。


 だからすぐに追いつけるだろうと思っていた僕たちの考えは、ちょっと甘かった

らしい。



「かなえさん! もう少しスピード上げてもらえませんか!?」

「はぁはぁ……こ、こんな事だったら…はぁはぁ…錬装してくれば…ぜぇぜぇ…

よかった…」



 ぜぇぜぇと息を切らしながら、かなえさんがよたよたと絵依子、そして僕の

後に続く。



 この人……本当に強いんだろうか……。





 …さらにしばらく走り続けていると、これ以上近づくことをためらいたくなる

ような、凄まじい違和感が、今度はべったりと肌にまとわりつくようになってきた。

 ……もはや違和感や嫌悪感というレベルではなく、物理的な抵抗すら感じられる

ほどだ。

 前を走る絵依子のスピードも、そのせいか目に見えて落ちてきている。



 その時。




「お兄ちゃん! いたよ!!」

「……!! 真都!!」


 絵依子の指差した方向、大通りの交差点の真ん中に真都が立っているのが

見えた。

 しかし、ようやく見つかったはいいけれど、真都はいつの間にかあの黒い

僧衣に着替え、いつものようにゴツイお坊さんを従えていた。



 やっぱり……戦うつもりだったのか。




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