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Realita reboot 第一幕  作者: 北江あきひろ
63/95

11月8日-1


 -11/08- 日曜日




「…じゃあそろそろバイトに行ってくるから。後よろしくな」

「え? もう行くの? ちょっと早くない?」


 いつものようにバイトの準備を整えて、玄関に向かいながら絵依子に声を

掛けると、驚いたような声が帰ってきた。


「今日は日曜だから、少し早めに入って手伝おうかなって。ついでに画材屋

にも行こうかと思ってたからさ」

「…ふーん。別にいいけど、それバイト代出るの?」

「……ケチくさいこと言うなよ。こういうのはお互い様なんだから」


 自分が働くわけでもないくせに、なぜか不満そうな表情を浮かべる絵依子に

説教してやろうかとも思ったけれど、長くなりそうだったので止めた。



「…とにかく行ってきます。じゃあな」



 ばたん・・・




「ふぅ、まったくあいつは……」


 団地の敷地を抜け、駅前への道を歩きながら、つい僕は独りごちた。まったく

あいつはドライというか、自分本位というか、人情というものが分かってない。

 お店が忙しい時に無償で手伝えば、お客さんも喜ぶ、バイト仲間も喜ぶ。店長

さんだって喜んでくれるだろう。

 そうすればゆくゆくはバイトの時給だって上がるかもしれない。なんなら

学校を卒業した後、社員で雇ってもらえるかもしれないのだ。ふっふっふっ。




 ……って、あれ?



 人情がどうとか言いながら、なんか僕、ゲスいこと考えてる?




 


 …ともかく、今年もあと2ヶ月ほどで終わる。高校生活も折り返し地点を

過ぎている訳で、そう考えると、ここまで本当にあっという間だったような

気がする。そろそろ将来のことも真剣に考えないといけない。



 学校を卒業すればどこかに就職し、いよいよちゃんとした仕事に就ける。

そうすれば今よりももっと母さんにも、絵依子にも楽をさせてあげられる。

 僕の成績じゃあまり良いところに就職は無理だろうけど、それでもゼイタクを

言わなければ何なりとあるはずだ。あると信じたい…。


「まぁ…焼肉屋でこのまま修行して、いつかは開業ってのもいいな…」


 今のお店はけっこうお客さんは入ってるし、2号店を出す計画もあるらしい。

しっかり働いて仕事を覚えて、2号店の雇われ店長を目指すというのもアリだ。

そしていつかは独立と。


 絵依子にも手伝ってもらって、二人でお店を切り盛りするのも楽しそうだ。

問題があるとすれば、あいつがまかないで店の肉を食い尽くすんじゃないかと

いうことだけだろう。


「安定を考えると公務員も捨てがたいけどなぁ。まぁ無理だろうしなあ…」


 などと考えながら歩いていると、気づけばもう駅前のロータリーまで来て

いた。昼の3時を少し回った時間のここは、普段よりもずいぶんと人が多い。

 がやがやといつもよりも騒がしい街の音にうんざりしながら歩いていると、

ふいに…聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。


「ねぇねぇカ~ノ~ジョ! 俺らとどっか行かない~?! ゲーセンとか

カラオケとか!?」

「興味あらへんわ。他の子誘い」



 ふと僕は声の聞こえた方を振り返った。でも、そこで思わず僕は…自分の

目と耳を疑ってしまった。


 なぜならそこには…。



「…ま、真都……!?」

 いつもの黒い僧衣とはまったく違う、すごく女の子らしい、可愛い服を

着た真都が…、ナンパをしてきたらしい男たちを軽くあしらっていた。


 一瞬人違いかと思ったものの、聞き覚えのあるあの声と関西弁は真都に

間違いはない。でも、なんでこんなところに真都が…?


 …しかもあの格好はいったい……?



 たぶん大学生ぐらいの男たちを一蹴した真都が、すたすたとこちらに歩いて

くるのが見えた。とっさに僕はビルとビルの間の路地に滑り込み、真都が通り

過ぎるのを待った。



「……いや、なんで隠れてるんだ、僕は……」


 思わず隠れてしまったものの、よく考えてみれば、なんで自分が隠れたのか

自分でも意味が分からない。すれ違いに、普通にあいさつの一つでもすれば

良かっただけだ。


 とはいえ、今さら急に真都の前に飛び出すのもおかしな気がする。仕方なく

僕は真都が通り過ぎたのを路地から顔だけ出して確認し、その後ろ姿を見る。

 ふらふらとあっちへ行ったりこっちへ行ったり、真都の行動はどうも目的が

あるようには見えない。


「…これがまさか修行ってことは…さすがにないよな」


 やがて、真都の姿が、日曜の駅前の雑踏にまぎれて消えていこうとしていた。

とっさに僕は……こっそり後を追いかけた。

 いつもとまるで違う、意外すぎる真都の姿と、そんな真都が何をしているのか、

どこに行くのかに興味が湧いてしまったのだ。





「おっちゃんー。これナンボや?」



「すんませーん。チョコバナナクレープひとつー!」



「ちょっと兄ちゃん! このタイヤキ、鯛が入ってへんがな! って当たり前か!

 あはははは!」




 気付かれないように少し距離を置いて、真都の様子を観察していると、驚くこと

ばかりだった。

 次から次へとおやつを買い、それをパクつく姿は、今までの真都からは想像も

出来ないものだった。楽しそうに店の人とやり取りをする様子からも、いつもの

皮肉っぽさや意地悪さなんかは、みじんも感じられない。


 たい焼きを片手に急に立ち止まっては店のショーウィンドーを覗き込んだり、

ベンチに腰掛けて道行く人を眺めたり。その表情は明るく、これまで僕たちに

見せていたものとはまるで違うものだった。


 いつもとはまるで違う雰囲気の真都に、正直…僕は驚きを隠せなかった。

こう言っては実に失礼ながら、本当に…まるっきり普通の女の子に見えてしまう。


 …ふいに僕は、さっき自分がなぜ隠れてしまったのかが分かった。

 出会いはあんなで、しかもいつも会うのは夜の、怪物退治の時ばかりで、

こんな風な普通の状況で会って、どんな顔をしていいのか分からなかったからだ。

 そして、見てはいけないものを見てしまった。そんな感覚も…あった。



「ねぇ君! 芸能界に興味ないかな!?」

「あらへん。あっち行ってんか」


「も、モデルの仕事とか……」


「…知らんがな。あんましつっこいと…ウチ怒るで…?」


「ひ…ひぃぃぃっっ!! す、すみませんでしたぁーーーーーーっっ!!」




 …でもスカウトだかナンパだかの男を一睨みで退散させる辺りは、さすがと

言うか、やっぱり真都だった…。




 男たちを追い払った後、壁にもたれて美味しそうにソフトクリームを舐める

真都の表情は楽しそうで、見ているうちにだんだんと僕は…自分がすごくバカな

ことをしていることに、今ごろ気がついてしまった。



「…そうだよな。こんなこと…、最悪だよ…女の子の後をつけるなんて……」

 ついそんな言葉が僕の口から漏れた。



 …そうだ。考えてみれば真都だって、僕らとそう違わない歳の…女の子なのだ。

普段はお坊さんをやっていても、こんな風に街で遊んでたって、別に何の不思議も

ないのだ。

 そんな女の子のプライベートを、こっそりのぞき見するようなことをした自分が

恥ずかしいやら情けないやらで、気分は最悪だった。


「…もう行くか。画材屋は…どっちだったかな……。いや…もういいか……」


 自己嫌悪に打ちのめされながら、踵を返して僕は駅の大通りの方へ歩き出した。

そして近道の細い路地に足を踏み入れた瞬間。



 …ごり、と突然何かが僕の背中に押し当てられた。


 固い…尖った棒のような感触……。


 とっさに振り向こうとした僕を…鋭く低い声が制する。




「貴様…さっきから何を嗅ぎ回ってる? どこの犬だ?」

「え…、え、え??」


「どこの手の者かと聞いている…!!」

「……な…何のことですか…?」


「とぼけても無駄だ。素直に吐くなら命だけは助けてやる。だが……!」

「ぎ……っぃッ……?!」


 言うなり、背後に突然現れた「誰か」に僕は腕を掴まれ、後ろ手にねじり

上げられた。たったそれだけで…僕は完全に動きを封じられてしまった。


 いったい…な…何だっていうんだ…!?




「い、痛っ! あ、あの…その…嗅ぎ回るとか…そういうことは僕は別に…」

「ふん…見え透いたウソを。そんなに命が惜しくないのなら、望みどおりに

してやろう……!!」


 背中の圧力が……ぐん、と高まっていく…!!



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