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Realita reboot 第一幕  作者: 北江あきひろ
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11月3日-2



「う~~ん……。お兄ちゃんはどうするの?」

「…ん。そうだな…テレビは…まだこんな時間だからなぁ……」


 さすがに朝の5時前では、どうでもよさそうな通販番組かニュースぐらい

しかやってないだろう。宿題も出ていないし、他に時間を使えそうなものと

いえば、絵依子のカードの補充だけど、あれも和夫との戦いから使っていない

ので、どれも完全な状態だ。


 ……つまり、何もやることがない、ということか。



「……じゃあ散歩にでも行ってこよ……、っくしょん!」


 ろくに何も思いつかないまま、適当なことを言いかけたところで、大きな

くしゃみが出た。

 体からは汗は引いたものの、水分を吸った寝間着に体温を奪われてしまって、

冷えたのかもしれない。というか、実際…少し寒い気がする。



「…とりあえず着替えたら…っていうか、ついでにお風呂にも入って体

温めたら? 今なら追い焚きしたらすぐだよ」

「あぁ…うん。じゃあ…そうしようかな……」


 ずずずと鼻水をすすり上げて答えると、さっと絵依子が立ち上がり、浴室に

向かっていった。珍しく甲斐甲斐しく動いてくれるその姿に、どこか奇妙な

違和感みたいなものを感じつつ、僕はダイニングの椅子に座ったまま、追い

焚きが終わるのを待った。





「もういいみたいだよー、お兄ちゃん」

「…うぅ……わかった……」


 浴室からの声に、のろのろと僕は立ち上がった。さっきからじわじわと

悪寒がひどくなっているような気がする。早く体を温めないと、これは確かに

まずい感じだ。


「ちゃーーんと肩まで浸かって温まってよ。何かあったら呼んでね」

「…分かってるって。でもありがとな。絵依子」



 脱衣所から絵依子が出ていくのを見送ってから、濡れた寝間着をかごに

入れて、浴室に飛び込んだ。

 ざっとかけ湯を頭からかぶると、やや熱めのお湯が実に気持ちいい。続けて

二度三度とお湯を体にかけ、湯船に飛び込む。



 ・・・ざぁぁぁぁ・・・


 ・・・ちゃぷ・・・ちゃぷ・・・・・・



 少しだけ熱いと感じた風呂の湯も、入ってしまえばすぐに慣れ、じんわりと

体が温まっていく。温まるにつれ、少しずつ活力みたいなものも体に満ちていく。

 同時に頭の方も、さっきまではもやがかかったような状態だったのが、だん

だんとクリアに、鮮明になっていく。


「……はぁぁぁぁぁぁぁ………、なんか…生き返るなぁ……」


 ぱしゃぱしゃと顔も洗って、肩どころか後頭部まで湯に浸かっていると、

さっきの悪夢までが、頭から流れ出てお湯に溶けていくようだ。生き返るという

より、なにやら生まれ変わったような気分である。

 朝から入るお風呂がこんなにも良いものだったとは思いもしなかったことだ。



 ……朝風呂、最高!!!




「お兄ちゃん、お湯加減はどぉ?」


 と、ふいにすりガラスの向こうから声が聞こえてきた。


「う~~ん……、実に…実にいい感じですねぇ~」

「あははっ、ご機嫌だねぇ。じゃあ着替えとメガネ、ここに置いておくからね」


「うん、ありがとな。っていうか、朝風呂、超気持ちいいぞ。おまえもどうだ?」

「は……はぁぁぁぁっっっ?!」


 こんな贅沢で心地いい気分を、僕一人だけ味わうなんてもったいない。

せっかくだから絵依子にも体験させてやろうとしたら、すりガラスの向こうの

シルエットが、なぜかずいぶんと慌てたような声を上げた。


「な……ななな、なに言ってんのお兄ちゃん?! バカなの?! ヘンタイ

なの?!」

「………へ? おまえこそ…何言ってるんだ?」


「な……何って…、い、いくら兄妹でも…そ、その…いっしょにお風呂だ

なんて…」




 ・ ・ ・ な に を い っ て る ん だ 、 こ い つ は 。




「ん…? あ、でも…兄妹だったら別におかしくないのかな……? そ、

そっか! そうだよね! 家族なんだもん! いっしょにお風呂ぐらい……」

「…い、いや、一緒じゃなくて、僕の後に入るかって聞いたんだけど…」


「え…………?」



 湯気とガラスの向こう側で、くねくねしていたシルエットが、急にピタリと

動きを止めた。というか、本当に何を考えてるんだ、あいつは…。




「あ、あっあ~、そうね! お兄ちゃんの後でね! なるほどなるほど! 

これはまた一本取られましたな! それでは拙者、これにて御免!」


 いつもの謎のセリフを言うが早いか、すたこらさっさと絵依子が脱衣所を

後にしたのが、すりガラス越しにかすかに見えた。

 何がなるほどなるほどなんだか……。


「まったく…早とちりというか何というか…。常識で考えたら分かるだろ…」


 もっとも、常識で考えたら、この歳になってもまだ三人で川の字で寝てるのも、

割と非常識な気もするけれど、それはこの際横に置いておこう。




 最後にざぶんと頭までお湯に浸かって、僕は風呂場を後にした。





「……お?」

 お風呂から上がってダイニングに着くと、テーブルの上にはかすかに湯気を

立てるホットミルクが置いてあった。

 絵依子が入れてくれたものなんだろうけれど、当の本人の姿は見えない。


 ふと寝室の方へ目を向けると、さっきまでは開けっ放しだったふすまが

閉まっていた。お風呂には入らずに、二度寝することにしたってことか。

 まぁ、さっきあんなアホみたいな勘違いをしたせいで、僕と顔を合わせ

たくないって感じなんだろう。


「……ふぅ」


 絵依子の入れてくれたホットミルクを飲みながら、ほう、と人心地つくと、

今ごろになって少しだけ眠気が復活してきた。

 実際、昨日は文化祭の片付けで大忙しだったせいで、体の疲労はまだ取れた

とは言いがたい状態だ。今日は文化祭の代休なので、昼ぐらいまで寝ようと

思っていたぐらいだからなおのことだ。


「…どうするかな……」


 さっきまでは二度寝するのが怖かったけれど、あの悪夢もお風呂でしっかり

洗い流せたのか、今はあまり思わなくなっていた。

 これならきっと大丈夫……だろう。


 少し残っていたミルクを飲み干して、軽く口をゆすいでから、僕も寝室に行く

ことにした。



 ・・・とん、とん・・・



「絵依子、いいか?」


 ふすまをノックしてお伺いを立てたものの、返事はなかった。もう寝て

しまったのか、それとも返事をするのも面倒だと思ったのか。

 ともかく僕は静かにふすまを開けた。


 隣にまで来たものの、反応はない。そのまま僕は横になり、布団をかぶった。


「…絵依子。もう寝たのか?」

「…………」


 小さく声をかけてみても返事がない。代わりにすーすーという寝息が聞こえて

きた。やっぱりもう寝たらしい。


 まぁ、あんな時間に起こされたんじゃ無理もない。ずっと眠かっただろうに、

僕の相手をしてくれたのは本当にありがたかったし嬉しかった。いつもなら

ここまでは世話を焼いてくれなさそうなヤツなのに、あの時の僕の様子は、それ

ぐらいヤバい感じだったんだろう。


 …実際、あの時に絵依子が後ろから触れてくれなかったら、声をかけて

くれなかったら、僕は頭がおかしくなっていたかもしれない。



 たぶん聞こえてはいないだろうけど、それでも僕は声に出して言いたかった。


「…ありがとな、絵依子」




 すぐ横で眠る絵依子の小さな寝息と、かすかな匂いと温もりを感じる。



 絵依子が今ここにいるという確かな証に、自分でも驚くほど心が落ち着く。



 目を閉じると、それらの証に包まれているような気さえする。



 そうしてるうちに、僕はすぐそこにまどろみの気配を感じた。




 …今度こそいい夢が見られますように……。



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