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Realita reboot 第一幕  作者: 北江あきひろ
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11月1日-9



「……なんだよ。まぁ無事ならいいけどさ…」


 ほとんど一方的に切られた通話に、安心していいのか怒っていいのか、

自分でもよく分からない、もやもやした気持ちを抱えながら、ふと僕は

はじめの目的を思い出した。


「あ……絵依子…」




 そこからしばらく僕は校内をあてもなくさ迷い、あいつの姿を探したものの、

やっぱりどこにも見当たらなかった。もしかしたらトイレでダウンでもしてる

のかと思って、近くにいた女子に中を見てもらったりもしたけれど、結果は同じ

だった。


 中庭の模擬店では残り物の叩き売りの真っ最中で、いよいよ文化祭も終了

直前のようだ。この辺りでまた買い食いでもしてるのかとも思ったけれど、

ここにもやっぱり絵依子はいない。




「……まさか、あいつも一人で帰ったのかな…」


 …なにか…心にざわざわと妙な焦燥感が湧き上がる。そうしてる内に、

グラウンドでは後夜祭のキャンプファイヤーの準備が進められているのが、

3階の廊下から目に留まった。

 改めて回りを見ると、辺りはもう完全に真っ暗だ。


「………っ!」


 瞬間、僕は感じた。なぜなのかは自分でも分からない。理由なんかない。

 …でもきっと絵依子はあそこにいる。


 そんな確信にも似た思いが…頭をよぎった。




 急いで廊下を走り、僕はその場所へ向かった。階段を駆け上って、目の前に

現れた扉を、ぎぎぎ、と重苦しい音を立てて開け…。



 …僕はそこへ。あの日の。いつもの屋上に辿りついた。





「ぇ…、お…お兄ちゃん……?」

「…やっぱりここだったか。急にいなくなったから心配したんだぞ」



 そこに…やっぱり絵依子はいた。屋上の出入り口近くに、一人でぽつんと

絵依子は突っ立っていた。

 扉の音に振り向いたとたん、ビックリしたような、それでいてどこか悲し

そうな表情で、なぜか立ちすくむように僕を見ている。



「……えへへ。ごめんね。ちょっと…風に当たりたくなっちゃったの。でも

お兄ちゃん…よく分かったね。わたしがここにいるって」

「……おまえの考えることぐらい、全部お見通しだよ。ほら」


 そう言って僕は、模擬店で買っておいた焼きスパを、なぜかまだ硬い表情の

ままの絵依子の鼻先に突きつけてやった。さっき中庭を探した時に、閉店間際に

ギリギリ買っておいたのだ。


「…うん…。ありがと。でも一つだけ? お兄ちゃんの分は?」

「それが最後の一個でさ。だから冷めちゃってるかもしれないから…不味かっ

たらごめんな」


 僕の言葉にふるふると首を横に振ると、絵依子が受け取った焼きスパを包み

から出してトレーを開けた。かすかな湯気が匂いとともにふわりと漂うと、

さっそく絵依子が焼きスパを口に運びはじめた。


「…うん。やっぱりこれ、おいしいなぁ…」

 くる…くる……と、相変わらず不器用にフォークを回し、スパゲティを巻き

付けていく。ひと回しするたび、絵依子の表情もほぐれていっているようだ。


 どうやら少々ぬるくなっただけだったことに、ほっと安心していたら、いきなり

絵依子が僕の口の前に、フォークに不格好に巻かれたスパゲッティを突き出して

きた。


「………?」

「はい。お兄ちゃんも」



「・・・・・・・・・・・・??!!」



 …ま、まさか僕に……「あーん」をしろと……?!



「…いや、いいって。全部食べていいから」

「だめ。お兄ちゃんも食べるの!」


「い、いや、しかしだな。おまえの分に買ってきたんだし……」

「なんで? イヤなの? わたしの…食べかけだから?」


「そ、そんなことじゃないっ! 嫌とかそんな…そんなワケないだろ…」

「じゃあどうぞ☆ はいっ!」

「う……うぐぐ……」


 上目遣いで僕を見る絵依子が、にこりと微笑む。これはもう…覚悟を

決めるしかないのか……。



「……分かった。分かりましたよ…。やればいいんだろ、やれば…。

あーーーーん…」

「はい、あーーーーん♪」


 バカみたいに大口を開けて、絵依子の運んできたスパゲッティをぱくりと

頬張る。まさかこの歳になって、こんなことをするハメになるとは…バカ

バカしいやら情けないやらだ。


「…もぐもぐ…、うん、これはちょっと…アレだな」


 しかも外の冷気にさらされて、さっきまではわずかに残っていたはずの

温もりが完全に消えた焼きスパは、なんとも言えない味わいだった。


「…もぉ。お兄ちゃんがヘンな抵抗するからだよ。ふふふっ」


 くすくす笑いながら、戻したフォークでまたスパゲッティを巻き、絵依子も

ぱくりと焼きスパを口に入れた。


「あ、お皿に乗ってる分はまだ温かいよ? はいどうぞ、お兄ちゃん」



 ・・・ま、 ま た か ・ ・ ・ ・ ・ ・ !




 ……えぇい、こうなったら一度やるのも二度やるのも同じだ!


「……あーーーん」

「はい、いい子いい子♪ あーーん♪」


 もはやヤケクソというか、開き直って秒速で僕は口を開けた。



「…むぐむぐ……。さっきよりはマシだけど、やっぱり出来たてのほうが

おいしかったなぁ…」

「そんなことないよ。おいしいよ? だって…」


「…? だって…?」

「…うぅん。なんでもない。でも嬉しかった。ありがとう…お兄ちゃん」



 何だかんだと言いながらも、結局僕らは焼きスパをキレイに片付けた。

フェンスにもたれながら、ふと下を見ると、あの日に絵依子が巨大な爪痕を

つけたグラウンドで、いよいよキャンプファイヤーの点火が始まっていた。



 ちらちらと赤い火が立ち上り、それが見る見るうちに、天をも焦がす

ほどに激しく燃え盛り始めた。炎が暗い夜のグラウンドと夜空を、赤く

赤く染め上げていく。


「……ここから見るキャンプファイアーっていうのも、案外悪くないな…」

「…そうだね。きれい…」


 別にキャンプをしてるわけでもないのに、キャンプファイヤーとはこは

いかに、などと、また愚にもつかないことを考えていると、やがて屋上にも

フォークダンスの音楽がかすかに届き始めた。

 今ごろは福沢くん、谷口くんたちもあの中にいるのかなと思いながら見て

いると、大勢の生徒たちがぐるりと炎を取り囲むようにして、いよいよ

ダンスが始まった。



「絵依子…僕たちも降りて、入れてもらうか?」

「…わたしはいい。お兄ちゃん、行っておいでよ」


 すっかり冬の匂いの冷たい風が、さぁ、と絵依子の髪を撫で、その度に

長いお下げが風に遊ばれるようにしてゆらゆらと揺れる。




 またグラウンドをどこか悲しげに見つめたまま、絵依子の表情はさっきから

変わらない。

 どうしてそんな顔をしているのか、僕にはまるで分からなかった。


 だから……僕は。




「…だったらさ。僕たちも踊ろう。ここで」

「え……!?」


 返事も待たずに絵依子の手を取り、かすかに聞こえてくるメロディーに

乗って、僕は軽やかなるステップを踏み出した。


 フォークダンスなんて中学校の時以来で、まともに覚えてなんかいない

けれど、適当にそれっぽくリズムを取って、ダンスの真似事をする。


「ちょ…、お……お兄ちゃん…」

「今日は最後までつきあうって約束だっただろ? ほら」


 僕の握り締めた両手に引きずられるように、絵依子もぎこちなく足をぱた

ぱたと動かし始めた。

 でも、それも最初のうちだけで、だんだんと僕と音楽にリズムを合わせて、

動きがなめらかになっていく。



「ははっ。さすがに上手いなぁ。やっぱ絵依子は運動神経だけは抜群だな」

「…「だけ」、は余計だよ。どん臭いお兄ちゃんと一緒にしないでくれる? 

って足! 踏まないでよ、もぉ!」


 口を尖らせながらも、くすくすと笑う絵依子が僕の腕の中で踊る。くるり、

くるり、と回るたび、その長いお下げも踊る。


 すっかりいつも通りに戻ったはずの絵依子の顔は、それでも…どこか影を

帯びて見える。戦いの時とも、普段の時とも違う顔に、思わず僕は見入って

しまう。


 よく見知ったはずの絵依子の顔。なのに、それが今の僕には、例えようも

なく愛しく、美しく思える。

 それはきっと……この月明かりのせいなのだと思うしかなかった。




 いつの間にか音楽は止んでいた。でも、僕たちは飽きもせずにいつまでも

踊り続けていた。

 

 このまま時が止まればいいとさえ…僕は思った。



 このまま永遠に、いつまでも。いつまでも。





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