第六章:ロックンロールに引退はない
ライブは大成功を収め、チャペルは割れんばかりの歓声とスタンディングオベーションに包まれていた。
楽屋裏で汗を拭いながら、ハイタッチを交わすメンバーたち。熱狂の余韻に包まれる中、バートンが目を輝かせながらウィルのもとへ駆け寄ってきた。
「ウィルさん! あの衣装の刺繍と裁断、どうやってあの立体感を出してるんですか!? 僕、あんなにカッコいい服見たことないです!」
ウィルは眼鏡をクッと押し上げ、そっぽを向きながらフンと鼻を鳴らした。
「ハッ、口で教えて理解できるほど甘くねぇよ。……明日からうちの工房に来い。針の持ち方から叩き込んでやる」
「はいっ!! ありがとうございます師匠!!」
師匠と呼ばれて苦々しい顔をしつつも、口元を緩めるウィル。その横でダニーは興奮冷めやらぬ様子でロイの肩をドシドシと叩いた。
「おいロイ! 最高だったな! 俺決めたぞ。俺もジジイになったら絶対にこの施設に入居する! で、毎日お前らと朝から晩まで爆音でロックしてやるぜ!!」
誇らしげに胸を張るダニーに対し、ロイは呆れたようにニヤリと笑うと、人差し指をチッチッと振った。
「ハッ、言っとくけどな、おっさん。ここ、年間で5万ドルかかるんだぞ? 無職のお前に払えるわけねぇだろ」
「……は?」
一瞬、思考がフリーズするダニー。「ご、5万……!?」と呟いた瞬間、顔から一気に血の気が引き、勢いよくドン引きして青ざめた。
しーんと静まり返る楽屋。あまりの金額の高さに言葉を失い、固まったまま動かないダニー。
……数秒の沈黙の後、ダニーはニヤリと不敵な笑みを浮かべると、ドヤ顔で胸を張り、大声で言い放った。
「……そんときゃそん時だ!! それがロックだぜ!!」
「計画性ゼロかよ!」とロイが間髪入れずにツッコミを入れる。
「ベベンッ!」
絶妙なタイミングで無表情のクーが琵琶スラップを叩きつける中、クロエがゴホンと咳払いをし、バインダーをトントンと叩きながら歩み寄ってきた。
「そんな事より。すでに『ヘブンズ・ロック』の全米ツアーを組んでおいたから」
「全米ツアー!? 待てクロエ、お前税理士になりたいんじゃないのか!?」
クロエは胸を張り「試験は逃げないわ!」と言い放つと、ダニーの耳元でニヤリと囁いた。
「……それにね、ダニー。メンバーは高齢よ。いつ本当の“ヘブン”に行っちゃうか分からないんだから……稼げるうちに稼いでおかないと、ねぇ?」
「おい! ブラックが過ぎるだろ!!」
ダニーの悲鳴に、カイとシニアたちがニヤリと笑う。クロエの容赦ない号令とともに、ダニーは満面の笑みでギターを高く掲げた。
「よし野郎ども! 俺たちのロックは、これからが本番だーーーっ!!」




