番外編 封印されたはずのアレ
本編その後の二人です。
私は、とっても溺愛されている。
二人きりになると「愛している」と囁かれ、「ずっと俺のそばにいてくれ」と懇願され、そのまま顔中に口づけが降ってくる。鍛え上げられた逞しい胸が触れ、長い腕に強く包み込まれるたび、私は身を固くしつつも、自分からも彼を抱きしめ返す。
かつては男性の手すらろくに握ったことがなく、恋愛小説と他人の体験談ばかりを蓄えて耳年増と呼ばれていた私が、である。
人生、何が起こるかわからない。
一か月も椅子として過ごしたことも、その椅子を購入した辺境伯と恋仲になったことも、かつての私が聞けば毒草でも誤飲して幻覚を見ているのではないかと心配しただろう。
けれど、今ではヴィルフリートの腕の中がすっかり安心できる場所になってしまった。
彼は人前では相変わらず冷静沈着で、隙のない辺境伯だ。騎士たちへ指示を出す声は落ち着いており、領内で問題が起これば的確な判断を下す。
それなのに二人きりになった途端、私を離さなくなる。
執務の合間に私の姿を見つければ抱き寄せ、私のために造ってくれた薬草庫で薬を調合している最中には横に寄り添い、眠る前には飽きるほど愛を囁く。
まだ慣れずどこか恥ずかしい気持ちはありつつも、そんなヴィルフリートを私も心から愛している。
だがしかし。
この日の私は、ヴィルフリートから全力で逃げ回っていた。
◇
ことの発端は、その日の調合を終えた直後だった。
自分の部屋へ戻る途中、ヴィルフリートの従者から、彼が自室で待っていると伝えられた。いつもなら喜んで会いに行くところだけれど、その従者はなぜか微妙に視線を逸らしていた。
嫌な予感はした。
その予感が正しかったことは、彼の私室の扉を開けてすぐに判明した。
窓辺に立つヴィルフリートの手に、忌まわしきアレがあったのである。
アレとは、アレだ。
目が痛くなるほど鮮やかなどピンク。
胸元と腰を埋め尽くす大量のフリル。肩と太腿を大胆に露出する破廉恥な形に、腰の後ろを飾る巨大なリボン。
一か月ぶりに椅子から人間へ戻った私へまとわりついていた、羞恥心だけで人を殺せる椅子カバー、もといミニドレスだった。
あの日、侍女から借りた服へ着替えるなり箱へ詰め、二度と日の目を見ないよう封印したはずである。
それをなぜ、この男が持っている。
「失礼しました」
私は反射的に扉を閉めた。
「待て、フィオナ」
聞こえなかったことにして廊下を早歩きで進み出す。
「フィオナ」
背後で扉が開く音がした。捕まってなるものか。
可能なかぎり歩調を速める。
「なぜ逃げる」
「急用を思い出しました」
「この後は予定を空けてあると聞いた」
誰から聞いたの。
あとで侍女たちへ、私の予定をヴィルフリートへ安易に教えないよう頼んでおかなければならない。
「薬草庫の整理をします」
「昨日終えただろう」
「もう一度整理します」
「二度も必要か?」
「薬草の保管に万全を期すことは、薬師として当然です」
言いながら角を曲がり、私はほとんど駆け足で階段へ向かった。
しかし、相手は鍛え上げられた現役の騎士だ。こちらが走ったところで逃げ切れるはずもない。
長い腕が背後から伸びてくる。
捕まる。
そう悟った私は、とっさに物を浮かせる固有魔法を使った。廊下の脇に置かれていた花瓶がふわりと浮かび、私たちの間へ滑り込む。
ヴィルフリートが足を止め、危なげなく花瓶を受け止めた。
その隙に私は階段を駆け下りる。
「私を救ってくれた魔法をそのようなことに使うな」
「私の固有魔法の使い方は私が決めます!」
階下の回廊へ逃げ込む途中で、老執事のモーリスとすれ違う。彼は淑女らしさをかなぐり捨てて廊下を急ぐ私を見て目を丸くし、その後ろからどピンクドレスを片手に追いかけてくる主君を見て、さらに目を見開いた。
「お願いします。私を見なかったことにしてください」
「承知いたしました」
モーリスは一礼すると、何事もなかったかのように壁際へ寄った。
長年ノルディス家に仕えてきただけあり、判断が早い。
「フィオナはどちらへ行った」
間もなく追いついたヴィルフリートが尋ねると、モーリスは穏やかな顔で首を傾げた。
「はて。最近は耳が遠くなりまして。何ですかな?」
完璧だモーリス。
私は心の中で彼へ感謝しながら、薬草庫へ飛び込んだ。
重い扉を閉め、内側から錠を下ろす。乾燥させた薬草の束が天井から吊り下がり、壁一面の棚には硝子瓶や木箱が並んでいる。身を隠す場所には困らない。
しかし、息を整える間もなく扉が叩かれた。
「フィオナ。ここにいるのだろう」
「いません」
「返事が聞こえたが」
あまりにも初歩的な失敗だった。私の大馬鹿者。
「開けてくれ。話がしたい」
「その衣装を元の箱へ戻し、箱ごと燃やしてからなら」
「それはできない」
「では、お話しすることはありません」
扉の向こうが静かになった。諦めてくれたのだろうか。
私は棚の陰から慎重に扉を窺った。
「一度だけでいい」
いた。
低い声が、扉越しに聞こえてきた。
「君に、もう一度あれを着てほしい」
「お断りします」
「どうしても駄目か」
「駄目です。あの日、大食堂にいた全員から見られた私の気持ちを考えてください。私は本気で椅子に戻りたいほどだったのですよ」
思い返しただけでも顔が熱くなる。
胸元も腰もフリルに埋もれ、肩と太腿を堂々と晒したどピンクのミニドレス姿で大食堂へ出現したのだ。
あの場にいた者たちが、今でも私と平然と接してくれていることには感謝しかない。城内でピンクの布を目にするたび、妙に気まずそうな顔をする騎士が何人かいるけれど。
「今度は俺以外には、決して見せないと約束する」
ヴィルフリートが懇願するが、そういう問題ではない。
「私が恥ずかしいのです!」
「君によく似合っていた」
「あなたの美的感覚については、以前から一度じっくり話し合う必要があると思っていました」
「鮮やかな桃色が君の深紅の髪と白い肌によく映えていた。フリルも華やかで、腰のリボンも愛らしかった」
扉越しとは思えないほど、よく通る声だった。
「待ってください。まさか、あのときそんなにしっかり見ていたのですか?」
「見ていた」
「ジョセフィーヌが消えたと大騒ぎしていたではありませんか」
「混乱していたが、君の姿は覚えている」
どうか忘れてください。
今すぐ記憶を消す薬を調合したい。
もっとも、記憶だけを都合よく消す薬など存在しない。もしあったとしても使うことは許されないだろう。非常に残念だ。
「俺は、あのとき君を知らなかった」
扉の向こうから、先ほどより静かな声が届く。
「あの椅子が君だと信じることもできず、突然現れた女としてしか見ていなかった。だから今度は、フィオナだと知ったうえで見たい」
「もっと悪いです」
「なぜだ」
「なぜわからないのですか!」
この人は聡明な領主であり、魔物討伐では優れた指揮官でもある。それなのに、どうして男女の機微についてだけ、これほど壊滅的なのだろう。
いや、椅子を相手に毎晩愛を囁いていた人だった。
一般的な感覚を期待した私が間違っているのかもしれない。
「私は人間へ戻ったのですよ。ヴィルフリート様の前であんなに肩や脚を出すなんて、恥ずかしいに決まっているでしょう」
再び沈黙が落ちた。
しばらくして、扉越しに低い声がする。
「つまり、俺だから恥ずかしいのか」
「……そうです」
好きな相手だからこそ、あんな姿を見られるのは恥ずかしい。
その程度のこともわからないのかと腹を立てていたはずなのに、言葉にした途端、胸の奥が落ち着かなくなる。
「フィオナ」
「何ですか」
「それを聞くと、ますます見たくなった」
やはり、この男には一度説教が必要だ。
「絶対に着ません!」
しばらく無言の時間が流れる。
そういえばと、私は棚の陰から出る。
薬草庫の奥には小さな勝手口があるのだった。使用人が荷を運び入れるための通路へ続く扉だ。こちらから出れば、ヴィルフリートに気づかれず外へ出られる。
ほとぼりが冷めるまでルクレツィアのところにでも行って、匿ってもらおう。
してやったりとほくそ笑みながら勝手口の扉を開けた瞬間。
目の前にヴィルフリートが立っていた。
「なぜここに!」
「薬草庫には搬入口を作るよう指示していた」
そうだった。この薬草庫を作らせたのはこの人だった。
迂闊……!
ヴィルフリートは私の前へ立ち塞がった。いつもながら惚れ惚れするほど美しい顔が、間近から私を見下ろしている。
片方の手を壁へつき、逃げ道を塞ぐ。
いわゆる壁ドンだ。
これが普通の恋愛小説なら、胸を高鳴らせる場面だろう。
しかし、彼の腕にはどピンク破廉恥ドレスがある。
男前がすべて台無しだった。
「フィオナ」
「お断りします」
「まだ何も言っていない」
「どうせ着てほしいと言うのでしょう」
ヴィルフリートは黙って私を見つめた。
淡い青の瞳が、憂いを帯びたようにわずかに翳る。
ぐっ…!卑怯だ。
自分の容姿がどれほど強力な武器になるのか、この人は絶対に理解していない。理解していないまま、無意識に最大限利用してくる。
「一度だけ」
「以前も一度着ました」
「あれは不可抗力だ。俺のために着たのではない」
「当たり前です。自分からは着ません」
「……無理にとは言わない」
ヴィルフリートはそう告げたあと、わずかに目を伏せた。
「だが、恥ずかしいだけで、本当に嫌なわけではないのなら――俺のために、もう一度だけ着てほしい」
真正面からそう言われ、言葉に詰まった。
彼の前だけというなら、まぁ、そこまで嫌なわけではない。
ただ、死ぬほど恥ずかしいだけだ。
ヴィルフリートは口数が少ない。器用な言い回しもしない分、彼の言葉には嘘がない。
このドレスを着た私を見たい。
ただそれだけを、北方を守る辺境伯がこれ以上ないほど真剣な顔で訴えている。
「……本当に、一度だけですよ」
気づけば、そんな言葉が口からこぼれていた。
とたんにヴィルフリートの瞳がきらきらと輝く。
「ただし、条件があります」
「何でも聞く」
以前も同じ言葉を聞いた気がする。
今回は念押ししておく。
「見るのはヴィルフリート様だけです。部屋には誰も入れないでください」
「約束する。人払いもしよう」
「見ても、笑わないでください」
「笑うはずがない」
「似合わないと思っても、正直に言わないでください」
「似合う」
「まだ着ていません」
「一度見た。可愛かった」
そうだった。
そもそも、あの凶悪な椅子カバーを作らせたのはこの男である。ああいった意匠が好みなのか。
「それから、時間は十分だけです」
「短い」
「では、着ません」
「十分でいい」
「触れるのも禁止です」
そこでヴィルフリートが黙った。
「なぜ黙るのですか」
「……承知した」
今の間は何だったの。
不安しかないけれど、ここで撤回すれば再び城中を追いかけ回されるかもしれない。
私は彼の腕からドレスを奪い取り腹に抱えて隠すと、できるだけ人目を避けながら自分の部屋へ向かった。
◇
そして、十数分後。
いやいやいやいや!やはりこれはない!
私は鏡の前で、自分を直視できずにいた。
鮮やかなどピンク。胸元と腰を埋め尽くす大量のフリル。肩と太腿は大胆に露出し、腰の後ろには巨大なリボン。
記憶の中にあったものと、何一つ変わっていない。
あの日は突然人間へ戻った混乱と、大食堂にいた全員から注がれる視線のせいで、じっくり自分の姿を確認する余裕などなかった。
覚悟を決めて鏡を見るが、やはり、人前に出られたものではない。
いや、衣装そのものの仕立ては見事だ。フリルは一段ごとに丁寧に縫われ、艶のある生地には繊細な薔薇模様まで施されている。腰のリボンも形よく広がり、舞踏会で若い令嬢が着れば、斬新で愛らしい衣装として受け入れられる可能性が、ほんのわずかにはあるかもしれない。
問題は、着ているのが二十八歳元耳年増の私だということだった。
胸元はフリルに埋もれているのに、肩は何ひとつ守られていない。裾を下へ引けば胸元が危うくなり、胸元を上げれば太腿がさらに露出する。
短い。
どちらも満足に守れないではないか。
こんなものを作らせた者を呼び出して問い詰めたい。
……ヴィルフリートか!
「フィオナ」
私が怒りの矛先を扉の向こうへ定めたところで、当の本人から声がかかった。
「まだか」
「今、着るのをやめようかと考えているところです」
「入ってもいいか」
「待ってください!」
私は慌ててスカートの裾を両手で掴み、少しでも下へ引っ張った。無駄な抵抗だった。
裾はほとんど伸びない。その代わり、腰の巨大なリボンが動きに合わせてふんわり揺れる。
だが、ずっと鏡とにらめっこしている訳にもいかず、私は深く息を吸い、腹をくくって扉を開けた。
廊下には人の気配はない。
ヴィルフリートは約束どおり、人払いを済ませているらしい。彼一人が扉の前に立っている。
その淡い青の瞳が、私へ向けられた。
ヴィルフリートは何も言わず、瞬きすら忘れたように私を見つめている。
沈黙が長い。
あまりにも長い。
「何か言ってください」
耐えきれずに促しても、返事がない。
「やっぱり似合っていないのでしょう。だから嫌だと言ったのです」
私は両手で裾を引っ張ったまま、部屋へ戻ろうとした。
その瞬間、腕を掴まれる。
「何ですか」
「似合っている」
落ち着いてはいるが、なにかを抑えるような声だった。
「とても」
淡い青の瞳が、これまで見たことがないほど熱を帯びていた。
その視線が露出した肩へ落ち、胸元のフリルを通り、腰を飾るリボンへ移る。そして両手で必死に引き下げているスカートの裾と、その下から覗く太腿へ向けられた。
私はたまらず一歩後ずさった。
「そんなに見ないでください」
「見るために着てもらった」
「限度というものがあります」
「美しい」
低く告げられ、頬が熱くなる。
「本当に、よく似合っている」
いつもなら素直に嬉しい言葉なのに、今日に限っては心臓に悪い。
なぜか、ヴィルフリートが一歩近づいてくる。
私は同じだけ後ろへ下がった。
彼がさらに進む。
私はさらに退く。
やがて背中が壁へ触れた。
逃げ道がなくなる。
「ヴィルフリート様。触るのは禁止だと言いましたよね」
「ああ」
「では、なぜ近づくのですか」
「近づくことは禁止されていない」
その理屈は卑怯ではないだろうか。
彼は私の肩へ手を伸ばしかけ、触れる寸前で止めた。行き場を失った長い指が宙を彷徨い、やがて私の顔のすぐ横にある壁へつかれる。
約束を守ろうとはしているらしい。
けれど、そのせいで彼の顔がやけに近い。
熱を帯びた淡い青の瞳に見つめられ、私は息を詰めた。
「フィオナ」
「……はい」
「やはり触れたい」
「触れないと約束しました」
「撤回してほしい」
「駄目です」
ヴィルフリートの眉間に深い皺が寄った。
視線を逸らそうとしても、顔のすぐ横には彼の手がつかれている。触れられていないのに、まるで逃げ場を塞がれているようだった。
「頼む」
「その言い方をすれば、何でも許されると思わないでください」
返事はなかった。
ヴィルフリートは真っ直ぐに、私を見つめている。
初めのうちは恥ずかしさしかなかった。けれど、彼の目に浮かぶものが好奇の色でなく、ただ私への熱烈な愛情なのだとわかると、胸の奥に別の感情が広がっていく。
この人は、本当に私のことが、好きなのね。
いい年してどピンクのミニドレスを着た、今すぐ壁の染みにでもなりたい私を、心から美しいと思っている。
趣味が悪い。
けれど、ほんの少しだけ嬉しいのも事実。
「……一度だけなら、触ってもいいです」
私が小さな声で告げると、ヴィルフリートの目が細められた。
「どこへ」
「どこへって……」
「肩か。腰か。それとも――」
「いちいち確認しないでください!」
羞恥心が限界になり叫んだ途端、大きな手が腰へ回された。
巨大なリボンごと引き寄せられ、体が逞しい胸へぶつかる。露出した肩へ彼の吐息が触れ、全身が震えた。
「本当に、よく似合っている」
耳元で低く囁かれる。
「もう十分聞きました」
「美しい」
「それも聞きました」
「愛している」
それは何度聞いても、胸が高鳴る。
ヴィルフリートの唇が、まず額へ触れた。次に瞼、頬、耳のすぐ下へと、普段と同じように口づけが降ってくる。
抱きしめる腕は次第に強くなり、触れ合った胸からは彼の速い鼓動が伝わってくる。耳元に落ちる呼吸も熱い。
私は彼の背へ腕を回しかけて、慌てて思いとどまった。
「待ってください。触るのは一度だけと言いました」
「今のは一度の途中だ」
「一度の途中とは!?」
「まだ離していない」
そう、なのかな。確かに離されてはいないけれど。
ヴィルフリートの顔が再び近づいてくる。私は両手を彼の胸へつき、どうにか距離を作った。
「十分経ったのでは」
「まだ経っていない」
「どうしてわかるのですか」
ヴィルフリートは答える代わりに、上着の内ポケットから懐中時計を取り出した。蓋を開き、文字盤を確かめてから、私へ見せる。
「正確には、八分と少しだ」
こんなときばかり正確に時間を把握しないでほしい。
私は逃れようと身を捩った。腰の大きなリボンが邪魔をして、思うように動けない。しかもスカートの裾がずり上がった気がして、慌てて両手で引っ張る。
しかし裾を下へ引いたことで胸元が危うくなったことには、気づかなかった。
その様子を見たヴィルフリートの目がわずかに見開かれた。
次いで、ひどく険しくなる。
「フィオナ」
呼ぶ声が低い。
「はい?」
「すまない」
「何がです?」
「限界だ」
何の。
問い返すより先に、体が宙へ浮いた。
背中と膝の裏へ腕を差し入れられ、そのまま軽々と抱き上げられる。恋愛小説ならこれまた胸がときめく場面だけれど、今の私はどピンク破廉恥ミニドレス姿である。
「ちょっと、下ろしてください!」
「断る」
「どこへ行くつもりですか」
「私室だ」
ヴィルフリートは私を抱えたまま、迷いなく歩き始める。
「十分だけという約束でしょう!」
「まだ時間は残っている」
「私室へ着く頃には過ぎています!」
「ならば、着いたら脱いで構わない」
「今!着替えます!下ろしてください」
抗議しても、ヴィルフリートは足を止めない。
鍛え上げられた腕はびくともせず、暴れればミニスカートの裾がさらに危険なことになりそうで、私は大人しく彼の首へしがみついた。
ヴィルフリートの口元に、微かな笑みが浮かぶ。
「自分から抱きついたな」
「落ちないためです」
「わかっている」
絶対にわかっていない顔だった。
やがて私室へ辿り着くと、ヴィルフリートは片手で器用に扉を開けた。そのまま室内へ入り、背後の扉を足で閉める。
次いで、かちり、と鍵のかかる音がした。
「……なぜ鍵をかけたのですか」
「誰にも見せないと約束した」
「鍵までは必要ないのでは――」
私の抗議は、最後まで続かなかった。
ヴィルフリートの顔が近づき、唇を塞がれたからだ。
抗議しようと思ったのに、結局、私は彼を押し退ける代わりに、その首へ回していた両腕へそっと力を込めた。
私がようやく彼の私室から解放されたのは、ずいぶん時間が経ってからだった。
どピンク破廉恥ミニドレスは、私の羞恥心だけでなく、ヴィルフリートの理性も見事に葬り去った。
敵ながらあっぱれである。
それ以来、私はあの衣装をさらに厳重に箱へ封印し、今度こそ絶対に取り出さないと固く心に誓った。
ただし、その箱がなぜか私の部屋ではなくヴィルフリートの衣装棚で大切に保管され、ときどき無言の圧力を放ちながら枕元に置かれていることについては、こちらもしっかり話し合う必要がある!




