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突然の火刑

 拝啓、地球の皆様へ。

 春風うららかな今日この頃、皆様はいかがお過ごしでしょうか。

 私は今、ファンタジーな異世界で火炙りの刑に処されそうになっています。


「これより偽勇者『タイガ・ナツミ』の処刑を執り行う」


 誰かたすけてください。




***




 私、いや僕こと大賀夏海17歳は約1時間前、学校から帰る途中でトラックに跳ねられた。一瞬とも永遠とも思えるような時間、全身が軋んでいく痛みを味わった後、やっと意識が途切れたかと思えば。まばゆい光と共に、謎の魔法陣の中心に身を投げ出されたのだ。

 持っていた鞄の中身が床に散らばったと同時に、魔法陣を囲うローブ姿の不審者達が、皆ざわめいていたのを覚えている。


「召喚は無事に成功いたしました」

「うむ、ご苦労」


 ローブ姿の人と、見るからに王様っぽいご老人にそう話すのが聞こえた。

 今思えば、「成功した」と言う割には全員の表情が嬉しくなさそうに見えたのは、気の所為じゃなかったのだろう。


「では、()()()()この者は即刻処分せよ」


 推定王様がそう告げると同時に、ローブ姿の人達は一斉に僕に杖を向けたのだ。




***




 そしてそこから何の説明も為されぬままに魔法っぽいものをぶつけられては、持ち物をほぼ全て取り上げられ、縛られ担がれ強制連行。でかい柱にぐるぐる巻きに括りつけられて、広場のド真ん中で大衆の晒し物になっている今に至る。


 厳重に巻かれたロープと、おそらくはまた魔法的サムシングのせいで、身じろぎどころか指ひとつ動かせず。足元には大量の石炭だか木炭だか枯れ葉だか、とにかく燃やしますよという意志だけはよく伝わる諸々。歴史の資料集かどっかにあった、ジャンヌ・ダルクの処刑風景のことを思い出す。


「本日正午、我らがバルドロンド宮廷魔術師会が六度目の勇者召喚の儀を執り行ったのは、諸君の承知の通りであろう」


 承知の通りじゃないです。

 カンペの巻物を手に司会進行役をしているおっさんの両隣には、松明を持っている若い男がふたり。


「事件はその時に起こった!」

「勇者召喚の儀の完遂により、勇者のみが召喚されるはずだったが。西方アーネリエの地より何らかの干渉が行われ、異物たるこの男が乱入」

「この者はバルドロンド第六勇者の名を騙ったのみならず、あろうことか人類の希望たる真の第六勇者を殺害したのである」


 は?

 あまりにも身に覚えが無さすぎる罪状が、朗々と読み上げられていく。

 アーネリエ?バルドロンド?第六勇者?本当に意味が分からない。

 この世界に来た時、魔法陣の中に投げ出されていたのは僕一人だけだったし。そこからの流れだってさっきの通り。

 そもそもやってるやってない以前に、まだ僕この世界に来て1時間も経ってないんですけど?


 そんな内心のツッコミを当然気にすることもなく、進行役のおっさんの口は止まらない。当たり前だが。


「これは明確な人類への裏切りであり、死を以てしても償いきれぬ大罪である!よって、死刑に処す!」


 そう進行役のおっさんが締めくくると、両隣に立っていた松明男がこちらの元にやってきて。僕の足元のてんこ盛りの可燃物に火を点けた。

 炎はあっという間に僕の周囲をぐるりと回って、僕を焼き殺そうと迫りくる。

 死へのカウントダウンの始まりだ。


「偽勇者め!」

「魔王の手先は皆殺しだ!」

「ヘンな格好しやがって!」


 着火と共に民衆の怒りもヒートアップしたらしい。誰のかも分からぬ怒号と共に、石が一発飛んできた。

 確かにヨーロッパ的世界に学ランはヘンだろうが。それを理由に石まで投げるか?


 おっさんと観客達から目を離し、現実から目を背けようと適当に景色を眺めてみる。

 高く積み上げられた可燃物に合わせて、柱の結構高い部分で括ってくれたお陰で。いかにもヨーロッパっぽい街並みがよく見える。

 初めての海外旅行の行き先としては悪くない。怒り狂う民衆が群がってさえいなければもっと良いのに。


「僕はやってないです」

「また、『タイガ・ナツミ』が人に化けた魔族である可能性を考え、火種には聖火を用いるものとする。聖なる光を宿せし炎は、悪しき者を一片すら残らず焼き焦がすことだろう」


 予定通りと言っていただけあって、今ここで何かを訴えたところでどうしようもないのだろう。

 ダメ元の訴えは当然のように進行役のおっさんにはガン無視されたし、民衆のテンションと飛んでくる石の勢いが増した。とても痛い。

 炎の熱で汗が滲む。足先に炎が迫ってきた。


「偽勇者に死を!」

「死を!死を!死を!」


 おっさんの掛け声に合わせた民衆のコールが鼓膜に響く。

 トラックに轢かれて異世界転生、となれば続く言葉はチートとハーレムと冒険だろうに。僕に用意されたのはこんな最期だけなのか?

 冗談じゃなくそろそろ熱風がやばい。春風がどうとか言ってる場合じゃない。


「死を!死を!死を!」

「死を!死を!死を!」

「死を!死を!死を!」


 茹だっていく脳内に、僕の死を望む人達のコールが響く。

 最悪死ぬのはいい。

 このまま死ぬのはいいとしても、せめて痛くて苦しいのは止めてほしいのだけれど。そうはいかなさそうなのが悲しいところだ。

 身体を焼き焦がす猛烈な熱と、苦しくなっていく息とで思考がまとまらなくなってゆく。右手が燃えているのを感じる。


 熱い、あつい、くるしい、

 だれか、だれか──────


 そんなことが思考を巡ると共に、意識が朦朧とし始めたその瞬間。

 本日二度目の浮遊感と共に、また知らない場所へと飛ばされた。


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