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子供達は仲間だから

トゥーース!!

ごめんなさい

「はえぇ!!!??」


 地図と手作り方位磁針により、リゾートは砂漠から北西の方角にあることが分かった。

 だが、俺たちが砂漠のどこにいるかがわからないので、ひとまず砂漠を北に抜けた先にある巨湖、カピ湖を目指している。

 5人を背中に乗せ、猛スピードで直進しているが

スピードスピードなだけに皆はしがみつくのに必死そうだ。そして同時にアトラクションにでも乗ってるかのようにテンションが上がっている様子。

背中からワチャワチャ声がする。


「これは…すごいですね…!」

「くしちゃんやるじゃない!」

「ぐげげげげ」

「ぐげげげ」

「ヤッホーい!!」


 風が音をさらってゆくので、なにを言ってるかは分からないが、まぁ大丈夫そうだ。


 しかし本当に広い砂漠だ。もはや見飽きた地平線。この世界の住人は土地をかなり贅沢に使っているようだ。そんなに広いのだろうか。

 さて、今目指しているカピ湖だが、地図を見ると砂漠の5分の1程度の大きさの超巨大湖である。

ンマによると湖というより温泉になっているらしくよく猿が浸かってるらしい。カピ、とは「猿」という意味だそうだ。


「せっかくなら少し浸かってもいいんじゃないか?多分間に合いそうだし」


 そう聞いてみたが、やはり聞こえていないようだ。風やら何やらでソレどころじゃない様子。

まぁカピ湖に着いてから聞けばいいだろう。

 

……30分後…………


 砂塵が吹き荒れ始めた。いくら俺の広い背中でもカバーしきれないのでアバラを反転&拡張し、皆を保護している。

見えないし聞こえないが、多分驚いていることだろう。恐らく結構なグロさな筈である。だがこのスピードで砂粒に当たると、さながらサンドブラスターの様な砂粒の猛攻が皮膚を削り取るため多少は我慢してもらわねばなるまい。

俺のように絶えず再生しなければ肉が露出するどころの騒ぎではない。致命傷だ。


……1時間後…………


「つ、疲れたぁ………」


メキッゴキャ


「「「「「くしちゃん!!」」」」」


ようやく中継地点のカパ湖に着いた。

変身を解除すると皆が降りて駆け寄ってきた。分かりやすく心配そうな顔をしている。


「くしちゃん、大丈夫かよ…?身体が滅茶苦茶になっちゃってたけど…」


マナが震え声で言う。


「おうよ。再生するし、痛みもほぼないし。」


「か、顔が…」


ンマが怯えたように俺に指をさしている。


「顔?」


顔がどうしたというのか。と、触って見ると、ややひりつく。


「…もしかして…今俺、結構グロい?」


モラが目をそらしながら、


「……凄まじく…」


と一言。

カパに至ってはとても気分が悪そうである。


「わ、悪い悪い。すぐ戻す…向こう行ってくるから、お前らも向こう向いててくれ。」


カパ湖がすぐそこなので顔を確認しに行く。視界は良好ってことは目は無事なはずなのに…瞬きもできるから瞼も再生している。顔の皮膚のみ再生しないなんてあるだろうか。

腰を下ろし湖面を除く。

すると何ということだろう。皮膚どころか筋肉さえ抉れてしまっている。そして不可思議なことに、目の周りはしっかりと再生しているのだ。

つまりそれ以外が、腐乱死体のような有様ということである。これは…申し訳のないことをした。


「…何で治らない?」


 砂塵を突っ切ってから回復する時間はあったはずなのに。なぜこんな無残な姿に。

…魔力。空っぽの胴体。懸念しつつ、先送りにした問題が、この状況だとどうしても意志せずにいられない。仮説だが、既に俺の体内の魔導具はハデスに抜き取られていて、俺が今動いているのはアマンが注ぎ込んだ魔力と魔導具の魔術の残りかすみたいなものだったとしたら…………

 魔力や魔術がそういうものなのか分からないが、明らかに退化していっている能力を目の当たりにすると悪い想像が頭から抜けない。


「………」


 ひとまず…俺はいい。だが、あの子たちがこのままなのはいけない。少なくともVIP券を使うときは大人がいないと不自然だ。このままではたどり着く前に…。


 減っていってるであろう【何か】の消費を減らさなければ。

小さくなれば、消費エネルギーを減らせるはず。

皆と同じサイズになれば、再生もより容易になるかもしれない。

身体を作り変えるのだ。

不要な部分はエネルギーに。


「子供になろう」


グチャ…ペタペタ…ペキ…


湖面には、魔族の子供が映っていた。

ちゃんとできたようだ。


「これで、いいかな…?」


皆の元へ戻ろう。

そう思って振り返ると、皆がこちらを見ていた。


「……え?」


皆の表情は、今まで俺と接していた時と明らかに違っていた。やや俺の方が身長が低くなって向こうの目線が高くなったせいで見え方が変わったのだろうか。

それにしても何か、違う。

なんというか、目がずっと澄んでいるというか先ほどまでの子供らしさがまるでなかった。どこか大人っぽいというか…気のせいだろうか。


「……見てた……?」


大分グロかったと思うが、大丈夫だったろうか。


「向こう向いててって言ったじゃん。グロかったろ?たくっ…。」


 返答がない。グロすぎて放心しているのだろうか?

…もしやどこかミスって魔族になっていなかったり?

だが確認した限りではちゃんとなっていたはず。肌も黒くしたし…


 あれこれ考えてるうちに誰かが喋った。

ンマだった。


「き、君…さ。…ホントは幾つなの?」


「んぁ?」


もしや、この子供の姿が、本来の俺とか思ってるのか?

 確かに結構な精度の子供の姿だし、それ以前に妙にこの子達と気が合ってしまったから、元の姿が実は子供だと勘違いしてしまったのか?


「あ、勘違いしてる?ひょっとして。俺はれっきとした大人だよ。22歳の。コロコロ姿変わるから紛らわしかったか。」


「22歳……嘘でしょ……」


「親は?」


「え?」


マナがそう聞いてきたが、なんか雰囲気が全然違う。頼れるお兄さん的な、優しさに溢れた声だ。

しかし親…どう説明したものか。いや、いないって言ったぞ確か。


「最初言った通り家族も家も金も職も地位も知り合いも友人もないよ。…あ!職、元はあったからな!

すねかじってたわけじゃなくて…配送業を!」


「あの姿で?」


マナの質問が続く。すっかり態度が変わって何だか妙だ。それにヤケに踏み込んだ質問をしてくる。いや、そうでもないが、俺にとって答えにくい質問だ。なんて答えればいいか…


「…あー…なんていえばいいかな…まぁ大人の姿だよ。もちろん。大人じゃないと働けないし。」


自由に普段から姿を変えてる設定でいくことにした。不自然ではないはず。


「そっか…ずっと、1人でやってきたのか?」


何となく、何となくだが。

学生の頃世話になったカウンセラーと話してる時みたいな雰囲気に似ている。何だ?

さっきから何なんだこの雰囲気は。


「ちょくちょく他の魔族とは出会ったけど…まぁ最初以外碌なもんじゃなかったなぁ思い返せば。子供には言えねぇ酷い目にあったぜマジで。」


「そうか……なぁくしちゃん」


「ん?」


「疲れたろうし、温泉浸かろうぜ!」


元のマナに戻った。急変過ぎて少し怖かったが、まぁ、姿が変わりすぎてビビっただけだろう。

ポ◯モンの3代進化成人向けみたいなの見せちゃったしな…ちょっと申し訳ない。


「そーだなぁ。ちょうど入りたかったところよ。」


「皆も入ろーぜ!」


そんなこんなで全員で温泉に浸かることになった。子供の姿で年下と温泉に入るなんてなかなか不思議な体験だ。まるで本当に子供に戻ったような錯覚を起こす。


「ふはぁ…極楽」


「おっさんかよ」


「お兄さんだよ!」


「「だっはっはっ」」


「何言ってんのよあんたら」

「いやでも本当気持ちいですね…ただの温かいお湯なのに」

「お、温泉には普通のお湯とは違って地中から栄養溶け出してるからいろんな効能が期待できるんですよ…」

「物知り博士ンマ教授〜っしぇーーい!!」

「ペレなんかキャラがちょっと変に狂ってるわよ」


「「「「「「ハハハハハハ!」」」」」」


思えばこんなに同い年と楽しい時間を過ごしたことはなかったかもしれない。同い年ではないが。

女子も一緒というのに悶々とせずこうして純粋に入浴を楽しめている。

純粋な楽しさに酔いしれている。

良いなぁ。こういうの。皆仲良しで、何のしがらみもなくて、何処までも純粋で。

まるでふわふわに包まれているような。

これが、幸せなのだろうか。

きっとそうなんだろう。

これが幸せじゃなくてなんだっていうんだ。

穏やかだ。



__________________________________________________




「くしちゃんは…?」


「寝たよ。疲れてたんじゃないかな。」


空はすっかり暗くなっていた。ニノマエは久々の団らんに心が緩み気絶するように眠りについていた。

寝ているニノマエの腹ををマナがポンポンと優しく叩いている。そして誰に語るでもなく呟く。


「コイツ、22だってよ」


ンマもニノマエを見ながら呟く。


「わ、私たちよりず、ずっと子供だったんだね…最年少のペレですら11個年上だよ。」


「………」


ペレは気の利いたセリフが思いつかなかったので黙っている。こう言うシリアスな場面には不思議君キャラを維持しづらいのだ。でも、何か言わずにはいられないのでムズムズしている。


「多分ですけど、この子、特異魔術で痛みが消えてるとか、そういうのないと思いますよ。」


「「「「…………」」」」


全員顔をしかめる。カパは特に酷い顔をしている。

カパはモラに問う。


「…何で…わかるの?」


モラはあくまで整然と答えた。その声はいつもよりやや低かった。


「あくまで推論です。けど、痛みを知らないあの年齢の子が、他人の痛みなんて未知の中の未知を気にするとは思えません。」


するとンマが補足するように、


「痛覚がないってことは、脳に触覚の命令が行ってないってことになる…でも…く、くしちゃんはむしろ私たちが背中から離れたら身体の形をもとに戻したり、お湯を気持ちいいと感じたり、身体洗ってあげたらくすぐったそうにしたり…

見たところでは感覚はむしろ敏感な感じだった…」


と、根拠を提示。


「じゃあこの子…平気な顔してとんでもない激痛にずっと耐えてたってことじゃないの…!」


カパは冷えた砂を握りしめた。指のすき間からパラパラと溢れていく。そして泣いた。


「アタシたち…!この子が辛い思いしてる中、その善意を呑気な顔してっ!!」


マナがカパの肩に手を置く。2人は見つめ合った。


「そうだな。俺たちは、くしちゃんのこと、都合よく利用した。こんな年端もいかない小さな子供とも知らずに。

この子が痛みに耐えてる間ヘラヘラ笑ってた。」


「…うっ…あっ…アァァァァ…」


泣きじゃくるカパをマナは抱きしめる。


「よしよし…俺たち酷いことしちゃったよな。オマエは特にこういうの嫌いだもんな。」


 ンマ、モラ、ペレもカパを抱きしめる。

ひんやりとした砂漠のど真ん中で、5人の子供達は自分たちの過ちをお互いに浸透させ合うように密着した。

思いやりに溢れ優しく、利己的な抱擁であった。





やがて子供達から涙は止まった。


「…謝りましょ。皆で。くしちゃんに。」


泣き止んだカパがダミ声でそう言った。

全員黙っていたが、喋らずとも理解し合っていた。

子供達は仲間だから。



__________________________________________________




いつの間にか寝てしまっていたようで、目が覚めるとすっかり夜だった。

夜の砂漠の寒さに懐かしの拷問を思い出す。全身の血が凍るなんて経験するとは思わなかったよなぁ本当。アイツ結局倒したけどしっかり死んでくれただろうか。不謹慎だし、殺しも嫌だけど、アイツだけはしっかり死んでてくれた方が熟睡できる。


そんなくだらないことを考えながら目をこすり、ぼやけをとると、なんか皆抱きしめあっている。

どうしたというのだ。おしくらまんじゅうだろうか。俺も混ぜて欲しいものだ。平気だが寒いのはあまり好きじゃないしな。混ぜてもらおう。


「ずるいぞ〜!俺も俺も〜!」


外っ側に抱きついた。

こんな大勢で密集するなんてなかったから、なんか言いようもない感動がある。人肌がこんなに温かいとは知らなかった。


「…あったけぇなぁ…」


「「「「「……っ」」」」」


背がこの子らより小さくなったからか顔が見えない。でもなんだ?なんか妙に湿っぽい雰囲気。

さっきから誰も喋らないし。

…この子らも孤児院なんて場所行くくらいだから相当つらい経験をしたのかな。

 憶測で判断するのは良くないが、少なくとも抱きしめ合う習慣がこの子らの支えになってるのは確かだろう。俺が加わってちょっとでも楽になればいいな。


「ありがとなぁ…お前らぁ…ウェへへ…」


「「「「「…………」」」」」


なんか酔っ払ってるみたいな感覚だ。こんな感じだったっけか俺。緩みきってんのかな。

子供っていいなぁ。


なんてことを思ってると


「!?」


急に周りに子供らが集まってきて俺中心に密集した。

俺がおしくらまんじゅうの中心になっている。

皆が俺を抱きしめた。これは……良い……!!


「は…はわぁ……すっごぉ……」


相変わらず何も喋らないのが気にかかるが、多分そういうノリなのだろう。俺もあんまり喋んない方がいいだろうか。手が空いてるし俺も黙って誰かを抱きしめよう。俺下向いてる状態から上向きづらいし誰かわからないからランダムで。


ギュッ


「……」


「……っぇ」


漏れたか声からして多分カパだ。

びっくりしたのだろうか。


…姉を抱きしめてるみたいな感じだ。

姉なんてものはいないが、そういうのに近しい感覚な気がする。

母性愛とも友愛とも恋愛とも違う。

近しくて、でも近すぎない。

複雑な安心感。


…?

カパが震えている。寒いんだろうか。というか全員震えている。まぁ俺が拷問思い出す寒さだし無理もない。

少し血流上げるくらいならエネルギーも食うまい。しばし生湯たんぽになるとしよう。


「…良いんですよ。そんなことしなくても」


後ろの方からの声…多分モラだ。しゃべってもよかったのか。というかよく分かったなぁ、やろうとしてることが。モラは人の細かい仕草とかをよく見分ける。メンタリストとか向いてそうだ。


「確かに…こーゆーのは無粋だったかな。こう…自然な感じのがなんか…良いもんな!

でも寒いしさ…集まるなら温泉近くの温かい砂のところで集まって寝ようぜ。」


「…そうだな!」


マナもやっと喋った。なんでか小声だが。


 皆で砂の上に横になる。ギュッと集まって身体の体温を分け合うようにして。


「やっぱあったかいな。」


「…そうね」


「ん?」


カパが何か言いたげだ。


「どした?」


「…ごめんね」


「何が…?」


「ごめんなさい」

「ごめんなさい」

「ごめん」

「ごめん」


全員謝ってきた。何がどうなっている?


「どした…みんな…」


「痛かったよね…」

「辛かったよな」

「上手いこと利用するような真似して…」

「許されない」

「ごめんない」


あのグロいやつ見たショックが抜けきってなかったのか。

こんな俺に、共感してくれているのか。


「…夜はいろんなこと考えちゃうよな。

エグいもん見せたもんな。こっちこそごめんな。

大丈夫だよ。そんな痛くないし。」


「「「「「………」」」」」


俺の手をギュッと皆が握っている。


「今日は…このまま寝ちゃおう。俺こういうのちょっと憧れだったんだよ。

……いいか?」


全員頷く。


「ありがとう…俺が、寝るまでこのままで…頼むよ…」


俺の手が更に強く握られる。

そのままいつの間にか、

俺は眠りに落ちていた。

読んでくれてありがとうございます!

ニノマエは拷問のショックで忘れてるけど、アマンの話ではこの世界は魔族、人間共に平均寿命が元の世界の3倍。成長度合いは3分の1倍だから、元の世界を人生100年時代として考えると、ニノマエは本来この世界では身体も精神も約7歳であるのが一般的だよ。





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