軍議
※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています
午前10時、予定通り司令本部の2階にある大広間で軍議が開かれた。
私は、上層部の皆さんへ顔見せで連れてこられたという体で、挨拶だけ済ませた後は大テーブルの末席にレイリーさんと並んで座った。
特に根掘り葉掘り問われることが無かった代わりに、「ピルーコ様の若い頃によく似ている」とか「国王の面影がある」などのお世辞を言われ、吹き出しそうになるのを堪えながら、曖昧な返事だけをする。
全員が着席すると、レイリーさんが手元のメモに席順と名前を書いてくれた。丸い筆跡がとても可愛くて、普段のツンとのギャップにちょっと驚いてしまった。
真っ先に口を開いたのは、ルギャン参謀だった。
「ピルーコ殿、予定通りレグラドを攻めるんですな?」
「もちろんだ。かつての砦の跡地に、反ヨーン政府の連中とロジオン兵も出入りしていると聞く。まとめて排除せねばなるまい」
「では、今回も魔導士を多めに配備すべきですね、ルギャン参謀」
ピルーコ指揮官の意見を受けてルギャン参謀に確認したのは、私の事を〝若い頃のピルーコ指揮官に似ている〟と言ったポンレモー隊長だ。
ルギャン参謀は、口髭をいじりながらの長考。かつてヨーンの指揮官を務めたこともあるという彼は、とても風格のある姿だ。
「前回のキュスト殿のこともありますからな、そうしましょう」
「そうだな、それが良いだろう」
いかに末裔の剣士が強くても、彼らは魔法が使えない。援護に魔導士たちがいるからこそ、こちらの兵力は末裔より上だ。
「では、ピルーコ指揮官、我々ポンレモー隊はレグラドの砦の北側へ回り込む作戦で良いですな?」
「あぁ、そうしてくれ。正面は我々が行く。それからモリブ隊は、北方守備隊との間で待機。万が一の時は臨機応変にポンレモー隊を援護してくれ」
ピルーコ指揮官の指示を得て、ポンレモー隊とモリブ隊、北方守備隊の布陣が地図に記された。
「しかしレグラドを攻めるとすれば、ロジオン公国も動くと思っているのですが、指揮官はどのようにお考えですか?」
そう問うたのは、モリブ隊長。私に〝国王陛下の面影がある〟と言った人物だ。
「北方守備隊には王都からの援軍が向かうことになっている。我々ヨーン軍はレグラドだけを狙う」
「そこまでお考えでしたか。失礼しました」
つまり、ロジオンの本国は北方守備隊と王都からの援軍に丸投げ。
「ヨーン側の拠点と治癒士の配分はどうされますか?」
ポンレモー隊長は少し険しい表情。
「北東の3号砦に拠点を置き、そこに治癒士を2名置く。他の治癒士はそれぞれの所属部隊を担当してもらう」
「拠点の治癒士は、レイリーとゼロでよろしいですね」
「いや、拠点はレイリーとアイリスだ」
「え、アイリスは前線向きの治癒士でしょうに、今回はどうして」
「エリムレアを失って茫然自失だ。今は前線に出すべきではない」
ピルーコ指揮官は目を伏せる。
「あやつの処刑は、この制圧戦が終わってからでも遅くなかったのでは」
ピルーコ指揮官とポンレモー隊長の会話に口を挟んできたのはモリブ隊長。
「ですな、まずは監獄に入れておけば良かったものを」
あ、なんか聞きたくない話しになりそう。
「モリブにポンレモー、口が過ぎるぞ。もう終わった事だ」
ルギャン参謀が窘めると、二人は肩を竦めた。
「そうだな、大人しく従ってくれさえすれば、殺すことも無かったのだが――」
ピルーコ指揮官が少ししおらしい態度をみせたが、もちろん演技。
「指揮官があれほど目をかけていたのに、不届きものめが」
腹立たし気にポンレモー隊長が悪態をついた。
「今は軍議の真っ最中だぞ、その話はもう終いだ」
もう一度ルギャン参謀がポンレモー隊長を窘める。
「これは、失礼しました」
「申し訳ない」
見た感じ40代ほどのモリブ隊長とポンレモー隊長は、ピルーコ指揮官のやり方に不満があるかのような、少し棘のある言葉。
「キュストの自警団小隊は、私と共にレグラド砦の前線へ。いいな」
「承知しました」
北方守備隊と王都からの援軍がロジオン公国との国境を防衛し、それを背後にポンレモー隊が待機、モリブ隊は北東側からレグラドを攻撃。そしてレグラドを挟んでキュスト隊とピルーコ隊がいて、その後ろ、拠点にルギャン参謀の守備隊という布陣となった。
「結局、キュスト殿は、モデトン隊と兼任ということに?」
「いえ、兼任ではなく、一時的に統合ということになっています」
「おやおや、では小隊長ではなく爪牙隊長とお呼びしたほうが良さそうですなぁ」
「そんな大役、自分には向いておりません」
キュスト隊長は、ピルーコ指揮官の異母兄弟であっても正規軍での立場は低いらしく、一線からは退いているルギャン参謀にもきちんと敬語を使っている。
「キュスト殿がモデトン隊を面倒見ることで、彼らの士気も上がりましょう」
「そういえばモデトンの小隊には、確かクィンク家の次男坊がいましたな」
これも、聞きたくない話しになりそう……
「キージェ・クィンクか。今やヨーンの魔導士では屈指の存在だな。期待していますよ」
そう発言したのは、モリブ隊長だ。
キージェを褒めているはずなのに、その顔は酷く歪んでいる。さっきから雰囲気悪いな、モリブ隊長とポンレモー隊長は!
「今回、魔導士は攻撃の要だ。キージェは私の配下に置かせてもらう。……いいな? キュスト」
「えぇ、もちろんです」
キージェがピルーコ指揮官の直下に?
あの時、ピルーコ指揮官に食って掛かっていたくらいなのに、大丈夫かな……。
「それから、リカイラスの魔導士部隊は二手に分かれて私を援護しろ」
「承知しました」
レイリーさんのメモによると、リカイラス隊は自警団と正規軍の魔導士を集めた攻撃の要だそう。
「ピルーコ指揮官は、またレグラドを焼け野原にするつもりですかな?」
そう言って、ルギャン参謀は茶化した。
「あそこは私にとっても忌み地だ。そうしてしまったほうがスッキリするだろう」
そう言ったピルーコ指揮官の顔はとても冷徹だった。
ふと、視線を落とすと、片隅に隣のレイリーさんが膝の上で拳を握りしめたのが見えた。
レイリーさん……。
「メポルの自警団小隊は、いつも通りだ。各班に分かれて伝令と負傷者の救護や物資の輸送を。担当の割り振りはお前に任せる」
「承知しました」
メポル小隊長は、赤毛のショートヘアがとてもかっこいい女性だ。
「メポル、必要な物資は準備できていたな。後でノイと荷車の最終的な数を知らせてくれ」
「物資はほぼ準備はできております。ノイと荷車の数、後ほど報告します」
私が一番最初に連れて行かれた北ヨーン丘陵の制圧戦は、モデトン小隊だけだったから、今回は本当に大規模な作戦なんだ……。
照明魔法、入り混じる怒号、ガイダの吠えるような叫び、受けた剣撃の重さ、そして青い炎の魔法……
あの時の記憶が鮮明に蘇り、体が震えた。
「おや、ナズナ殿どうされましたか」
「いえ……、その……」
「初陣がこんな大規模な制圧戦ともなれば武者震いの一つも出ましょう」
豪快に笑い飛ばすのはモリブ隊長だ。
「……頑張ります」
「期待しておりますぞ」
ニヤリ、と歪んだ笑顔。
本当に感じが悪いったらない!
――大丈夫、あの時の私とは違うんだ。私は強くなった。大丈夫、大丈夫だ。
自分自身に言い聞かせながら軍議を聞いていた。




