私の居場所
※エブリスタ・カクヨムにも投稿しています
「あ、そうだ……。今、革工房のルートンさんのところにスモノチの皮50枚を預かってもらってるんだけど」
「50枚? エリが狩ったの?」
「え、あ……うん。駆け出し冒険者の子たちと……」
「弓はどうしたの? エリは使った事なかったけど」
「それが……」
ジョンナたち姉弟とのスモノチ狩りのことを話すと、お腹を抱えて笑い出した。
「すっごい! エリ、すごいな!」
「そんなに笑わないで。危なかったんだから」
「ごめんごめん。留守の間に、色々頑張ってたんだね」
キュストさんに叱られたことは、アイリスとキージェの事にも繋がる内容だから、それについては私の心の奥……そのど真ん中においておくことにした。
「で、そのスモノチの件でルートンさんから、空いてる部屋に住んでいいって言われてて。いつまでもこの部屋に居候というのも良くないなって思って」
「え、僕は別に構わないけどなあ」
「ううん、今は自警団じゃないし、色んなことを勉強したいんだ」
「分かった。引っ越す日が決まったら言って。手伝うから」
「ありがとう」
工房にいれば色んな革の加工を教えてもらったりもできるし、職人街で材料を買いやすい立地だし、やっぱりルートンさんのところでお世話になるのが一番いい。
翌日、寄宿舎の敷地内にある小隊長以上の立場の人の住む建物に向かった。
キュストさんのところに刀身を届けるために。
「見つけてくれたのか……!」
「……ラニゴ狩りの依頼で近くに行ったので。でも刀身だけで柄は見つかりませんでした」
「そうか……ありがとう」
受け取った刀身に手を添えて眺めている。
「では、失礼します。寄宿舎を出て革工房のルートンさんのところでお世話になるので、これから引っ越しなんです」
礼をして、部屋を出ようとしたときだった。
「待ちなさい」
「はい?」
「……本物のエリは、どこに行った」
キュストさん……?
「えーと……」
「お前は何者だ? いったい何が目的だ?」
え……どこから説明すればいいの……
「その……、えと……信じてくれないかもしれませんが――」
「信じるかどうかは俺が決めることだ。説明できることがあるなら話してくれ。話せないならば、お前を謀反人として役人に突き出すぞ」
え……
「……実は」
私は自分の本名と、生き神の力によってエリムレアの体と入れ替わった経緯を話した。
「ナズナ、というのか。違う世界からきたと言ったが、世界が違うとはどういうことだ?」
……少しは……信じてくれただろうか。
「最初は……驚きました。何もかもが違います。太陽は高く昇って、一日の半分は明るく照らしてくれます。夜空の星も見え方が違います。……魔法は前にいた世界では存在しません。戦が……頻繁に起きることもありません。とても平和な島国だったので……」
「エリが、今はどうしているか知っているのか?」
「いえ、わかりません。ただ、一度だけ『生き神』がやってきた時に、エリムレアはあちらの世界の一番身近な技能を勉強していると聞きました。……それ以外は、もう知りようがないんです」
「そうか。……あいつらしいといえばそうだな。お前も既に知ってると思うが、エリはほとんど言葉を発しない男だ。何を考えているのか言わずに、全て行動で示す奴だった」
「……えぇ。ですので、キージェやアイリスには、本当の事が言えてないんです。……言えません……エリムレアが、これほど彼らに慕われているのに、何故……ここを去ってしまったのか……」
キュストさんは、目頭を押さえた。
「俺もだ……。部下として、教え子として、信頼できる仲間だと……そう思っていたんだ……」
「すみません……。私がっ……」
私が入れ替わりを望んでしまったから……。もうキュストさんもキージェもアイリスもグランも、二度と本物のエリムレアに会うことができない。
涙がこぼれ落ちてそれ以上言えなくなった。謝りたいのに。
「う……うっ……」
「黙っていたのは、お前なりの気遣いだったわけだな。すまなかった。話してくれてありがとう」
赤い目でそんな言葉をかけられたら、もう、どう返事をしていいのか分からない。
「このことは、誰にも話さずにいよう。ナズナ、無理にエリムレアになろうとしなくていい。せっかくこの地に目的を持って来たのだから、思う通りに生きなさい」
「……わかりました」
キュストさんの微笑みが胸に痛い。
「それでは、失礼します」
「あ、待った! 俺の事はキュストさんじゃなく、キュスト隊長と呼びなさい。他の者への体裁もあるからな」
「はい! では……またキュスト隊長の弟子として、これからもお世話になって良いですか? 今は強くなりたいです。この地で生きるために」
キージェやアイリスを守るためにも。
「もちろんだ。歓迎しよう」
本当のことを話せたのが、エリムレアの師であるキュスト隊長だったのは本当に良かったけど……やっぱり何も言わずにここを離れたエリムレアの行動は、残された親しい者への心のダメージが大きかった。
キュスト隊長だって、姿がエリムレアの私と話すのに、あの日からずっと動揺していたはずだ。
引っ越し、と言ってもエリムレアの荷物はとても少ない。台車に載せて1回で終わってしまった。
「俺とエリは同じ日に自警団に入団したから、なんだか寂しいなあ」
キージェが珍しくしおらしい。
「探索は一緒に行くから、泣かないで」
「泣いてねえよ!」
「キージェはエリのこと大好きだからなあ」
「アイリス、お前もだろが」
エリムレア、貴方が何を望んで日本に行ったのかは、解きようがない最大の謎だけど、私は貴方の大切な仲間と友達になれた。私も大切にする。
貴方も、ナズナの代わりになろうとしなくていい。好きなように生きて欲しい。
もしいつかどこかで出会うことができたら、その時はこっそりお互いの近況を話したいな。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました!
諸事情により一旦ここで完結としておりましたが、連載再開予定です。
このヨーン市パートでも日本パートでも、続きは書けるのですが他の書きかけ作品があるため、そちらを優先しております。
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