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入学式のようです②

長い入学式がようやく終わり、退場するアイリス一行。

しかし、どこからか憎しみに満ちた視線がアイリスだけにそそがれていて…

「…実は、私も少し退屈していまして。」


アイリスの方に少し身を傾けながら、王子がささやいた。


「え、エドワード様もですか?」


アイリスが驚いたように再び王子に顔を向けると、王子はクスクスと笑いながらも


「少しですよ。」


とアイリスに視線をやった。


「驚きました。私だけかと思っていましたので。」


王子たるもの、普段こういった式典に慣れていると思っていたが、やはり退屈なものは退屈なようだ。


「きっと楽しんでいる人の方が少ないですよ。―ほら。」


エドワード王子が少し体をのけぞらせると、隣には椅子の背にもたれかかって座る、

エドワード王子の双子の弟、レオン王子の姿があった。


彼も8年前よりはるかに背が伸び、顔つきも少し大人びている。金色の髪は、薄く青

みがかった灰色の目にかからないくらいに短く切られていた。


兄と対極の快活な顔つきは変わっていないが、今は式典のせいか退屈そうに壇上を睨むばかりだ。


「フフ、本当ですね。」


二人はあくびをかみ殺しているレオン王子に気付かれない様、静かに笑いあった。


「―あなた方は、この世界を支える責務を負っているのです。これは身分も家柄も関係ありません。そのことを、心にとめ、学びに精進するように。」


壇上で話していた学園長がそう締めくくると、会場内は拍手の音で満ち溢れた。

アイリスも拍手をしながらちらりと横を向くと、レオン王子はやれやれといった感じ

で拍手をしていた。



「本日の式はこれにて終了となります。新入生は退席してください。」


会場の合図と共に、アイリスたちは席を立った。

会場にいる新入生は、最前列から身分の順に着席し、身分が高い者から先に退場する。


アイリスは第二王子であるエドワード王子の横に立ち、会場出口へと向かうのだが、一番初めに退場するということもあって、会場内のすべての視線が集まってくる。


(うわあ…すごい見られてるわ…)


背筋を伸ばし、粛々と王子の一歩後ろを歩くアイリスだったが、内心では早く会場を去りたい一心だった。


(やっぱり慣れないなあ。)


決して特定の人物と目を合わせることなく、前だけを見据え、王子と一定の距離を取りながら一歩一歩確実に歩く。

王子の婚約者ということで幼いころから叩きこまれてきたとはいえ、本当に骨が折れる。


(ふう、あと少し…)

 

出口が近づきホッとしかけたその時、ふと異質な視線を感じた。


王子やアイリスに向けられた敬意や好奇心のまなざしとは明らかに違うその視線は、アイリスのみに向けられているようだった。


まるで、嫉妬とも憎しみともいえる、刺すような視線だ。


思わず体がこわばるが、平静を装って歩き続ける。


視線の主は誰だろうと周囲に注意を向けるも、どこから向けられているものなのかわからない。


(え、なに!?誰?)


ギリギリと釘を刺しこまれるような鈍い視線を肌に感じながら、アイリスは先に見える出口にたどり着きたい一心で足を進める。


(怖い怖い!一体誰なのよ!)


気付かれない程度に瞳だけを動かし辺りを探るが、視界には興味深そうに自分を見つめる同級生しか入ってこない。


目の前に開かれた出口の扉が心なしか遠くに感じられる。


(あともう少し…)



最後はほぼ早歩きで扉をくぐった。


ゆっくりと扉が一度締められると、先ほどまで執拗に自信をとらえていた視線が途絶えるのを感じ、アイリスはほっとため息をついた。

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