平和国家 ランティス
ガイア大地西部に位置するスターフォードを東に行くと、大地を東西へと引き裂くようにして、広い川幅に膨大な水量で雄々と流れる鬼哭川が、大蛇のようなその姿を大地に這わせている。そんな大河に架けられた橋を渡り、さらに東へ行くこと凡そ五百キロ、背後の北側を「霊峰青龍」の自然の鉄壁に、南と東西に当たる正面と左右をスターフォード同様、頑強な玄武岩の石壁で防護する国がある。平和国家ランティスだ。
国を丸ごと囲う石壁の作りにスターフォードと変わりはないが、飾り気のない武骨なスターフォードに較べて、田園風景が広がるランティスの街の雰囲気は時間がゆっくりと流れ、人々もどこかのんびりとして見える。
ランティスの建国は凡そ八百年前に遡り、ガイア大地に残る最古の歴史書「神の選択」によると、かつてガイア大地は「ZEUS」という統一国家が支配していたと記されている。八百年前の「ジーアス」は統一国家とは名ばかりで、方針の違いなどから幾つもの勢力が大きく二つに分かれ、何年にも渡って衝突を繰り返し、最早、国としての機能を殆ど果たしてはいない状態だった。
そんな中、魔竜バ・ハーム復活の兆しである「紅星」が鬼竜山の上空に現れ派閥同士の争いは中断し、円卓会議が開かれた。
ガイア大地を、絶対的な武力で守護することを信条とするアレクサンダー派。
ガイア大地を、神への祈りによる加護によって守護することを信条とするレアリア派。
ここでも、両派閥は真っ向から意見を対立させ、結局、中断したはずの争いは円卓会議にまで飛び火し、事態は収拾のつかないものとなりつつあった。
そんな最悪の状況の間をとりもったのは、円卓会議の進行役でもある陰明寺家だった。
しかし、結果、両派閥の隙間が埋まることはなく、武力での解決を強引に推し進める強行的なアレクサンダー派の決定に、レアリア派の殆どが「ジーアス」を離れ、ガイア大地東部を新天地に、現在のランティスの礎を築いたのだった。その当時のレアリア派の中には、「大地の女神ガイア」を主神と崇める「ガイア教」を布教していたジェダスや、錬金術師のダインがいた。
一から平和国家を建国したレアリアは初代国王となり、ガイア大地に伝わる古い言葉で「ランティス(神に愛される国)」と国名を定めた。
そして、新たな聖ガイア教団の設立と、聖ガイア教を国教として広めるよう、共に「ジーアス」を離れたジェダスに命じ、教団自体は国に縛られることのない独立した立場を与え、ジェダス自身にも「教皇」という、ランティスで国王に次ぐ地位を与えている。このことから、レアリアがいかにジェダスという人物に信用を置いていたかが伺える。実際レアリアは、事ある毎にジェダスに相談を持ちかけては、助言を求めていた。そんな状況をよく知る王の側近は、
『この国を動かしているのはガイア教だ』
と、仲間内で不満を漏らしていたという。
レアリアが、いかにジェダスの意見に重きを置いていたかが分かるエピソードがある。
それは、国のシンボルでもある国旗のデザインを決めるときの事だった。
ランティス上層部の者達で行われた会議の場では、
『国を一新したのだから、国旗も新たにすべきだ』
『心機一転、全てを一から始めましょう』
そういった意見が多く出され、結論として、国旗を一新することに決まった。
しかし、いつものようにレアリアはジェダスに相談を持ちかけると、国旗を一新する案に反対され、決定していた国旗一新案を破棄してしまった。それどころか、ジェダスが提案したジーアスの国旗の一部を使用する案を受け、会議にかけることなく独断で決定してしまったのである。
驚いたのは会議に参加していた上層部の者達である。会議で決定したことよりも、ジェダス一人の意見に重きを置き、さらには国の機関を通さずに独断で決定した王に誰もが呆れ、国を後にした者達も一人や二人ではなかった。
また、建国に燃えていた将来の国を支え得る若者たちの心も、少しずつレアリアから離れていった。
一方、多くのアレクサンダー派が残ったジーアスは、後にスターフォードと名を改め、現在まで使用している「真紅の五芒星」の国旗もまた、ジーアスの国旗の一部を使用している。
奇しくも、統一国家から分裂した二国は、国旗さえも、まるで示し合わせたかのように、二つに分裂させてしまったのだった。