8:第一星人に発見された
「まずは三種族へ通じる三叉路付近を緑化したいな」
砂漠化を止めるなんて大規模すぎてイメージできないけど、まずは宿場町を作って第一星人発見を目指すことにしよう。
チューリップの杖を両手で握りこむようにし、長い祈りを捧げた後、雨巫女は楽しそうに言った。
「カフェを造ろう」
自分のログハウスから南下して、1km付近に三種族へ通じる三叉路に、カフェや宿屋を造れば商人達と出会えるのではと思ったのだ。
「木陰のログハウスでお茶ができるって、素敵だと思わない?」
肩までの銀の髪を揺らしながら精霊たちに話しかけると、周りの茂みがワサワサ揺れた。
ウサギ達の背丈よりも茂みの方が高いので、どうみても独り言だった。
「青目、茶目、緑目、赤目の黒ウサギさん集合〜」
右手に握った杖を大きくあげクルクル回すと茂みの中から四羽が飛び出してきた。
活性化してきたマナの影響か、子猫サイズから、成猫サイズに大きくなった黒ウサギ達は、ピョンピョン跳ねながら雨巫女の後ろに整列した。
「それでは出発!」
前回周辺を散策した時の続きだよ!と意気込んで、雨巫女は黒ウサギ達を連れて三叉路を目指すのであった。
「遠いね」
『はい』
「暑いね」
『はい』
「飛んで行けたらいいのにね」
前回は雨雲から落ちちゃったしなぁ、と思いながら何気なく言うと、青目黒ウサギさんが鼻をヒクヒクさせながらイメージすればとアドバイスをくれた。
『はい。乗れるイメージの雨雲ならば、おそらく大丈夫かと思われます』
それなら早速とばかりに、杖をくるりとした。
お坊さんがお父さんの法要で座っていた、おばあちゃん家の紫色のふかふか座布団をイメージした。
キラキラが足元に集まると、想像通りの雨雲が足元に浮かんでいた。
早速靴を脱ぎ、恐る恐る正座で座ってみる。乗れた。なかなか良い座り心地である。なんだか空気の抜けたバランスボールのようなフワフワ感だ。
楽しくなって色々と試していると、ちゃっかり四羽のウサギも膝の上に乗ってきた。
「ちゃんと乗れたね、では出発!」
砂漠特有の熱い空気を頬に感じながら、雨巫女は三叉路を目指した。
暫く地面すれすれのスリルを楽しみながら進んでいると、砂地とは異なるしっかりとした地面に、轍の跡がある道が見えてきた。
そこには何もなく、ただ三箇所を指し示す、風化した看板が立っていた。
「よし。ここにしよう」
雨巫女は祈った。
この周辺が緑溢れますように。
少なくとも、テニスコート二面分のサイズは草原になりますように。
そして、宿泊できる建物が建ちますように。
少なくとも、6LDKのサイズで建ちますように。
更に、荷を引く動物達が快適に過ごせる獣舎も建ちますように。
少なくとも、駐車場4台分位のサイズで建ちますように。
最後に、可愛いカフェが建ちますように。
天井から明るい光の入るウッディでお洒落なカフェになりますように。
雨巫女は祈った。
柔らかい布を望むと、木の精霊が頑張り。
快適な水回り、風呂トイレを望むと、水の精霊が頑張り。
使い勝手の良い台所を望むと、土と火の精霊が頑張った。
雨巫女は祈ることだけ頑張った。
小一時間の作業で、小さな噴水と、宿泊できる建物、大きな木が横にあるカフェが完成した。
自然に優しく、木の温もりを雨巫女が望んだので、台所以外は全て木でできていた。
雨巫女が喜びの鼻歌を歌っていた頃、荷車を引いた商人アールドは砂丘の先に現れたオアシスに向かっていた。
ーーーーーー
アールドは衝撃を受けていた。突然砂漠に現れた、建物のある人工的なオアシスを見つけたからだ。
急いで向かうと誰かいるのか様子を伺った。
砂漠の中にありえないほどの緑。瑞々しい空気に充実したマナ。
彼は感動を覚えていた。
この奇跡の場所に誰がいるのか?
「おーい。誰かいるのか?」
声をかけると、ガサガサと草をかき分ける音がして、可愛らしい声が聞こえた。
「はーい。いらっしゃいませ」