13:まずは一杯
三人が俺が私がと言い合っている中、雨巫女は呑気にシソの葉を摘んでいた。
雨巫女はどの種族にも行く気はない。召喚時に痛い思いをしたことを、密かに根に持っているのだ。
そもそも争いに巻き込まれたくない。
戦争のない平和な日本で育った雨巫女は、三種族で争うことが理屈では分かっても、理解はできなかった。
立ったまま三種族の人達が言い争っている間に、雨巫女特製青汁は着々と完成に近づいていった。
摘んだシソの葉を祈りを込めてすり潰し、カップに注ぐ。以上である。
青ジソだけの青汁。赤ジソだけの青汁。半々の青汁。三杯の青汁をトレイに乗せ、雨巫女は席に座るよう促した。
「皆さん。特製青汁はいかがですか?」
「「「あおじる?」」」
あれ?この世界では青汁文化がないんだなと思いつつ、何と言うか考えることを放棄した。
「新鮮なジュースです」
雨巫女みずから振る舞いを受けられることに喜びを表し、三人はカップを受け取った。
ドロリとした質感。青臭い匂い。先程雨巫女は足元の草を摘んでなかったか?
「」
「」
「」
三人はなにも言わず素直に口に含み、苦虫を噛み潰したような顔をした。
ゴクリと飲み込む音がやけに大きく聞こえる。
「おいしい?」
味に関する返答は無く、三人は効果について褒めたたえた。
「これは!」
「すげえな!」
「疲れが吹き飛ぶわ!」
味も喉越しも苦味と青臭さが突出しているが、一口飲むと、砂漠を越えてきた身体の疲れがスッと抜けるようだった。
絶大な雨巫女の力を目の当たりにして、三人は益々雨巫女を欲するのだった。
「「「ぜひ我が領へ」」」
「私はここから移動しないよ。このオアシスから動かない。ここから緑を増やしていくよ。私は精霊の手伝いはするけど、種族に肩入れはしないの」
はっきりと言い切る雨巫女の周りには、キラキラと虹色に輝く妖精たちが喜ぶように踊っていた。
「……では順に各種族を」
「無理だよ、結局争っちゃうでしょ?」
雨巫女は砂漠をオアシスに変えることを願っていた。
毎日、空に祈り、徐々に緑化を進めていたのだ。
「私はここに道の駅を作りたいの」
いろんな人と物が集まる道の駅。地球でおばあちゃんの手伝いでよく行っていた。
同じものはできないけど、ここには道行く人を癒せるオアシスや精霊の祠だってある。
「私を連れて行くのでは無く、ここにいろんな人が来て欲しいの」




