表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/3

雨の約束 最終話 「雨の約束」

第三話 雨の約束


ある日の夕方だった。


雫のポストに一通の封筒が届く。


差出人はない。


中には写真が入っていた。


血を流して倒れている男。


雨音誠だった。


十五年前の事件現場。


そして一枚の紙。


『父親の死の真実を知りたければ来い』


港の倉庫街。


午後七時。


雫は写真を見つめる。


震える指。


怖い。


行くべきじゃないと分かっていた。


それでも、知りたかった。


父が最後に何を見たのか。


何故死ななければならなかったのか。


雫は机にメモを残した。


『もう逃げたくない』


そして家を出た。



倉庫の中は暗かった。


雨漏りの音だけが響いている。


奥から男が現れる。


父を殺した犯人だった。


犯人は笑った。


「奥さんが死んだ時」


一歩近付く。


「子供が死んだ時」


さらに近付く。


「お前、壊れたよなぁ?」


玲司の拳が震える。


犯人は楽しそうだった。


「死んだみたいな顔してた」


「酒ばっか飲んでた」


「仕事しか出来なかった」


「最高だったよ」


雫の顔から血の気が引く。


犯人は続ける。


「あのクソ刑事が死んだ時もそうだ」


玲司の目が揺れた。


「苦しそうだったなぁ」


「辛そうだったなぁ」


「でも立ち上がった」


犯人の笑みが歪む。


「それが気に入らなかった」


「なんで立ち上がるんだ?」


「壊れたなら、そのまま壊れてろよ」


犯人がナイフを構える。


玲司は雫の前へ立つ。


玲司「後ろにいろ」


雫は震えていた。


それでも頷く。


二人がぶつかる。


激しい音。


雨音。


荒い呼吸。


犯人は笑っていた。


遊んでいるようだった。


人を傷付けることが。


人が苦しむことが。


心の底から楽しいのだ。



その時。


雫が足を滑らせた。


犯人の目が向く。


そして。


笑った。


「あぁ」


恍惚とした声だった。


「そうか」


玲司の顔色が変わる。


犯人は雫を指差した。


「お前の弱点はそっちか」


玲司:「やめろ」


「なるほどなぁ」


玲司:「やめろ」


「お前が死んでも面白くない」


玲司:「やめろ!!」


犯人は狂ったように笑った。


「そっちが死ぬ方が面白い」


「また壊れる顔が見たい」


犯人が駆け出した。


真っ直ぐ雫へ。


玲司は迷わなかった。


飛び込む。


鈍い音。


世界が止まる。



ナイフは玲司の胸に深く刺さっていた。


雫:「玲司さん!!」


血が広がる。


玲司が膝をつく。


犯人は笑った。


「はは……」


小さな笑い。


「ははははははは!!」


狂ったような笑い声。


「やっとだ!!」


「やっと見られる!!」


「全部失った顔が!!」


「絶望した顔が!!」


犯人は興奮で震えていた。


十五年間。


ずっと見たかったもの。


ようやく見られると思った。


しかし、玲司は笑った。


犯人の顔が固まる。


「……は?」



玲司は雫を見る。


優しい目だった。


十五年間。


ずっと見守ってきた目だった。


玲司:「約束、守れたよ」


犯人の顔から笑みが消える。


「なんでだ」


玲司:「今度は」


少しだけ笑う。


玲司:「間に合った」


犯人は理解できなかった。


玲司は壊れた。


何度も壊れた。


妻を失った時。


子供を失った時。


親友を失った時。


その度に倒れた。


苦しんだ。


泣いた。


逃げたくなった。


それでも、立ち上がった。


何故なら。


手を引いてくれる人がいたからだ。


『飯行くぞ』


玲司の脳裏に。


あの日の笑顔が浮かぶ。


『泣きたい時は泣け』


『一人で抱え込むな』


『お前は一人じゃない』


誠の声だった。


玲司は弱く笑う。


玲司:「なぁ誠」


雨音に消えそうな声。


玲司:「ちゃんと守れたぞ」


犯人は叫ぶ。


「違う!!」


「そんな顔するな!!」


「苦しめ!!」


「絶望しろ!!」


「壊れろよ!!」


でも、玲司はもう犯人を見ていなかった。


雫だけを見ていた。


雫は玲司の手を握る。


涙が止まらない。


雫:「死なないで……」


玲司は微笑んだ。


震える手が雫の頭を撫でる。


父によく似た温もりだった。


玲司:「立派になったな」


雫は声を上げて泣いた。


玲司は目を閉じる。


玲司:「俺は親になれなかった」


かすれた声。


玲司:「でもな」


少しだけ笑う。


玲司:「娘がいた気分だった」


それが最後の言葉だった。


***


数ヶ月後。


雫は二つの墓石の前に立っていた。


雨音誠。


神崎玲司。


花を供える。


風が吹く。


空は晴れていた。


血の繋がりはなかった。


それでも。


私には父親が二人いた。


一人は生まれた時から私を愛してくれた父。


そしてもう一人は。


十五年間。


遠くから私を見守り続けてくれた父だった。


帰ろうとした時。


ぽつりと雨が降った。


雫は空を見上げる。


そして微笑んだ。


雫:「心配しなくていいよ」


父へ。


玲司へ。


雫:「ちゃんと生きていくから」


雨は静かに降り続いていた。


まるで二人が遠くから見守っているように。


***


一年後。


雫は社会人になっていた。


仕事帰り。


オフィスにはまだ灯りが残っている。


帰ろうとした時だった。


一人の新人社員がデスクで俯いていた。


目元が赤い。


泣いていたのだろう。


雫は足を止めた。


雫:「どうしたの?」


新人は慌てて顔を上げる。


新人:「すみません……」


新人:「私、この仕事向いてないかもしれなくて……」


雫は少しだけ困ったように笑った。


どこか懐かしい気持ちになった。


雫:「大丈夫ですよ」


新人:「根拠あります?」


雫:「あります」


新人は不思議そうな顔をする。


雫は窓の外を見た。


雨が降っていた。


あの日と同じように。


雫:「昔、そう言ってくれた人がいたんです」


新人:「その人は?」


雫は少しだけ考えた。


そして微笑む。


雫:「とても優しい人でした」


***


帰り道。


雨が降っていた。


雫は傘を開く。


昔なら振り返っていたかもしれない。


あの黒い傘の男を探して。


でも今は違う。


もう探さない。


もう振り返らない。


前を向いて歩いていく。


二人が守ってくれた未来を。


ちゃんと生きていくために。


雨は静かに降り続いていた。


まるで二人が笑っているように。


✄-----完結-----‐✄

しぐれ:短編の詳しいバージョンです。

皆さんお父さん大切にしましょう!

最後まで拝読ありがとうございました<(_ _)>


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ