第6話 ベストメンバー
「やあやあ田中クン、元気にしてたかい? 今日はよろしく頼むよぉ」
ダンジョンに突入する十分前。
ギリギリの時間になってようやく攻略班最後の一人、黒須牧さんがやって来た。
彼女は巨漢の助手の肩からぴょんと飛び降り、俺たちの前に来る。あの助手は前に魔導研究局に行った時もいたな。確か名前はサムとかいったか。
「遅いですよ牧さん。来ないかと思いました」
「はは、怒らないでくれたまえ。少し引き継ぎに時間がかかってしまってね。ほら、私がいない間、研究は助手たちにやってもらわなくちゃいけないだろう? ま、ネロくんに任せたから大丈夫だとは思うけど念のためね」
ネロというのは異世界からやって来た博士のことだ。
かなり知能が高く、牧さんの研究についていける唯一の人物になっているらしい。
異世界の人間にそこまで任せてしまって大丈夫だろうかとは思うが、他に牧さんについていける人がいないから仕方がない。
「お、牧さんじゃん。お久しぶりっすね」
「んん? 誰かと思えば伊勢クンじゃあないか」
イセケンさんを見た牧さんは楽しそうに口角を上げる。
二人が会うのは七年前のダンジョン以来だろうか? 一人はDチューバー、一人は魔導研究局局長、全然接点がないから会わないのも当然か。
「前より強くなったみたいじゃあないか、伊勢クン。どれ、少し君のセカンダリスペースを見せておくれよ。ちょっとでいいから」
「嫌ですよ! なに気軽に人の頭開けようとしてんすか!」
「むう、ケチだねえ。そんなんだから女性に相手されないんだよ」
不機嫌そうに口を尖らせる牧さん。
俺はそんな彼女に気になったことを尋ねる。
「牧さん、セカンダリスペースってなんでしたっけ? 聞いたことはあると思うんですけど」
「ふむん、仕方ない。教えてあげようじゃないか。セカンダリスペースというのは一部の覚醒者の脳に発現する器官のことだよ」
牧さんは楽しそうに講義を始めてくれる。
「前頭連合野及び海馬が変質し、魔素を高度制御する特殊な器官が誕生することがある。それこそが『セカンダリスペース』。これが生まれた覚醒者は魔素を動力に特殊な現象を引き起こすことができるようになる。それが君たちが言うところの『魔法』というわけだ」
「なるほど。つまり優れた魔法使いであるイセケンさんは、そのセカンダリスペースが他の人より発達しているということですね」
「その通り。普通のセカンダリスペースの持ち主では、呪文という共通言語を使わなければ魔法を使うことは困難だが、伊勢クンや小野寺クンみたいな特別なセカンダリスペースの持ち主なら、呪文という枷に縛られず特殊な事象を引き起こすことができる」
牧さんはノリノリで語る。本当に楽しそうだ。
この人は根っからの研究者なんだな。
「特別なセカンダリスペースの持ち主は非常に珍しい。そもそも普通のセカンダリスペースの持ち主ですら、覚醒者の一割程度しかいないからねえ。ああ、一度解剖してみたい……」
「ひぃっ。まこっちゃん助けて」
マッドサイエンティストを前にして怯えるイセケンさん。
帰還者の中で一番おっかないのは牧さんかもな。
「ふふ、冗談だよ冗談。セカンダリスペースは気になるけど、私の一番の関心はあのダンジョンさ。前回は機材も揃ってなくてあまり解析できなかったけど、今回は違う。あのダンジョンを丸裸にしてやろうじゃあないか」
くくく、と笑う牧さん。
この人はあのダンジョンを破壊するよりも、ダンジョンを調査することが目的みたいだ。
それはどうなんだと思わなくもないが、まあ戦力になってくれるならいいか。
「おっと、そろそろ時間みたいだね。では行こうじゃないか。なに、私たちならまた帰ってこられるさ」
「はい。とっとと破壊して帰ってきましょう」
俺たちは前に進み、皇居直下ダンジョンの前に行く。
皇居直下ダンジョン攻略班、全六人が横並びになる。
社畜剣聖、田中誠(白狼ギルド社長)。
氷の剣姫、天月奏(魔物対策省魔物討伐局討伐一課課長)。
真理の探求者、黒須牧(魔物対策省魔導研究局局長)。
魔導師、伊勢健太(個人Dチューバー)。
怪力僧侶、小野寺良賢(新興宗教『迷破教』開祖)。
地上最強の主婦、丸谷育代(専業主婦)。
現状考えられる、最強の戦力といっていいメンバーだ。
このメンバーで駄目なら、このダンジョンを攻略するのは不可能だろう。
「……よし。それじゃあ行きましょうか」
時間になったのを確認した俺がそう言うと、みんなが一歩前に出る。
しかしそんな俺たちを追い越して、数人が前に出てくる。
「露払いくらいはワシらに任せてくれ。お主らはこれからたくさん戦わなければならんからのう」
堂島さんがそう言ってダンジョンを封じる扉の前に立つ。
その隣にはなんと星乃と凛が立っていた。どうやら扉を開けて出てくるモンスターは、この三人が対処してくれるようだ。
星乃と凛は俺を見ると嬉しそうに手を振ってくる。二人が地上防衛班に入ったことは聞いていたが、こんな役目をしてくれるとは思わなかった。
「伊勢、封印を解いてくれ」
「OK、ほんじゃ頼むぜ堂島の旦那」
イセケンさんが指をパチッと鳴らすと、ダンジョンを封じていた扉の封印が解ける。
すると次の瞬間扉を塞いでいた金属球が砕け散り、その奥から大量のモンスターが現れる。
ワイバーンにオーガ、バジリスクなど強力なモンスターばかりだ。しかし堂島さんたちは一切怯むことなくモンスターたちに向かい、攻撃を放つ。
「むんっ! 鬼拳・龍王!」
「剛剣・万断ち!」
「瞬・双雷刃十連」
堂島さんの拳がモンスターたちを叩き潰し、その後星乃の斬撃が追い打ちをかけてモンスターたちにとどめを刺す。
そして運よく回避できた小型のモンスターたちを、凛が素早く雷の刃で切り刻む。
一瞬にしてモンスターたちはいなくなり、ダンジョンへの道が開かれる。無駄のない見事なコンビネーションだ。
「行けぃ! この国の未来は託したぞ!」
堂島さんの声と共に俺たちは駆け出す。
すると星乃と凛は、駆けていく俺の方を振り返る。
「田中さん、頑張ってください!」
「先生……よろしくお願いいたします」
俺は二人に頷くと、五人の仲間と共に因縁のダンジョンに足を踏み入れるのだった。




