第2話 田中、またダンジョンに潜る決意をする
「予定では二日後の十時からダンジョンアタックを開始する。前回のダンジョンアタックは三百人という大人数で行い、その結果多くの死者を出してしまった。なので今回は最低限の人数に絞った少数精鋭で行う」
そういえばそんなことをニュースで言っていたな。
七年前のダンジョンアタックは、皇居直下ダンジョンの調査も兼ねて大人数で行われていた。
しかし今回は完全にダンジョンの破壊に目標を絞っているということなんだろう。破壊が目的なら人数はいらない、ひたすら最速で深層まで潜り、ダンジョンコアを破壊して脱出する。遅れる人が一人でもいたら成功確率はグッと下がってしまう。
「魔物対策省の魔物討伐局からは私、魔導研究局からは黒須博士が出る。だけど当然ながら二人であのダンジョンを攻略することはできない。だから以前『地下攻略班』としてあのダンジョンに挑み、そして生還したあなたたちに協力をお願いしたいの」
「ちょい待ってくれ天月ちゃん。堂島のおっちゃんは潜んないのか? 現場大好きなあの人は行きたがりそうだけど」
「当然行きたがったけど……あの人は魔対省の大臣。いくら実力があるといえど、大臣を死地に送ることはできないというのが政府の見解。堂島大臣は抗議してるけど……覆ることはないでしょう」
「なるほどね。偉いっつうのも大変だ」
イセケンさんが納得したように言う。
堂島さんが来れないのは痛手だな。あの人は怪力でモンスターの群れに切り込むタイプ。いてくれると頼もしいんだが……仕方ない。
「それでその……どう? 皇居直下ダンジョンアタックに、参加して貰えるかしら? あなたたちが来てくれると助かるのだけど……」
天月は不安そうに言う。
あの地獄にもう一度戻るなんて誰もしたくないだろう。だけど俺の心はもう決まっていた。
「俺は行く。あのダンジョンに置いてきたものを取り返しに行かなきゃいけないからな」
「誠……っ。ありがとう、心強いわ」
天月はほっとしたように笑みを浮かべる。
あのダンジョンはずっと俺の心にトゲのように残っていた。あの時俺がもっと強ければ、もっとちゃんと動けていれば、仲間や師匠を失わずに済んだんじゃないか、と。
いい加減あの事件を乗り越えて前に進まなくちゃいけない。そのためにはあの時できなかった「皇居直下ダンジョンの破壊」を今度こそ完遂する必要がある。
「もちろん俺も行くぜ、まこっちゃん。一流Dチューバーとして、こんな美味しい配信ネタ逃せるわけがないからな」
イセケンさんは俺の肩に手を回しながらそう言う。
遠距離攻撃を得意とするイセケンさんが来てくれるのは頼もしい。
「ありがとうございます。頼りにしてます」
「おうよ。いくらでも頼ってくれて構わないぜ」
こうして俺とイセケンさんが皇居直下ダンジョンの攻略班に入ることになった。
俺たちはまだ参加するか表明してない雪さんに視線を向ける。雪さんもあのダンジョンには苦い思い出がある。それを払拭するためにも参加するかと思ったが、
「……ごめんなさい。私は、行けないわ」
なんと雪さんは皇居直下ダンジョンに行くのを断った。
下唇を噛み、申し訳なさそうに目を伏せる雪さん。後ろめたさは感じているみたいだけど、行かない意思は固そうだ。
「おいおい冗談だろ雪ちゃん? ひよったのか?」
「……そう捉えてもらって構わないわ。私はあなたたちみたいに強くないの。またあのダンジョンに入るなんて、怖くて考えられない」
悔しさを滲ませながら雪さんは言う。
雪さんがあのダンジョンに強いトラウマを持っていることは察していたが、ここまでだったとは。貴重な戦力が減ってしまったのは痛いが、無理やり連れて行くわけにもいかない。
「それに今の私が行っても足手まといになっちゃうわ。腕はだいぶ回復したけど、それでもまだ全盛期には及ばない。私のせいで田中ちゃんたちを危険な目に遭わせるわけにはいかない。だからごめんなさい……私は行かないわ」
そう語る雪さんの目には、強い決意が宿っていた。
いくら説得しても決意が揺らぐことはないだろう。イセケンさんもそれを理解したのかそれ以上追求するのをやめる。
「ということは皇居直下ダンジョンに潜るのは俺とイセケンさん、天月と牧さんか」
「だいぶ減っちまったな。そういや賢ちゃんには声をかけたのか?」
イセケンさんがそう尋ねると、天月は「ええ。あの人は来てくれるそうよ」と答える。
そうか、あの人も来てくれるのか。クセの強い人だけど来てくれるのは頼もしい。
「それともう一人、帰還者ではないけど実力のある探索者をスカウトしています。その方を迎えて『皇居直下ダンジョン攻略班』を結成します」
「全員で六人か……七年前よりずいぶん減ったな」
七年前は三百人でダンジョンアタックしたから……その時の五十分の一か。
だけどあの時より戦力が減ったとは思わない。今のメンバーは全員が実力者だし、俺や天月はあの時よりもずっと強くなっている。きっと皇居直下ダンジョンを攻略できるはずだ。
「それじゃあ参加者には追って連絡するわ。二日後の本番に備えて、休息を取ってちょうだい」
天月の言葉に、俺とイセケンさんは頷く。
今回はいつものダンジョンアタックとはわけが違う。しっかり準備しないとな。
「……それじゃあ私も失礼するわ。本当にごめんなさい」
雪さんは申し訳なさそうにそう言って去っていく。
その背中はいつもより小さく見えた。
少しだけ暗い空気が流れるが、イセケンさんが「んじゃ、俺ちゃんもそろそろ帰っかな!」と明るく言ったことで空気が緩む。
「ほんじゃまこっちゃん、明後日はよろしくな」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
こうして一度あのダンジョンから帰還した俺たちは、再びあそこに戻ることになった。
次こそ完全に破壊して、あの時の心残りを晴らしてみせる。




